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第八十一話 孤独の最期




 攻撃を受けてしまったアリスはまだ生きているといえ、その傷ではしばらくすれば、死んでしまうだろう。それに、神核が欠けられてしまえば、治す方法はない。というより、治す方法を知らないのが正しいだろう。


「っ!」

「……お兄ぃ、今はアレを倒すことに集中」

「あぁ……」


 ゼロはエリーナとの約束を守れなかったことに悔しく思っていた。この時代に連れて来る時、約束していたのだ。もし、アリスと戦って戦意を無くしたならば、殺さずに能力の封印で許して欲しいと。

 ゼロには一時的に能力の封印しか出来ないが、アリスの心を屈服すれば、方法は幾つかあった。だが、その約束は守れそうはなかった。泣き続けるエリーナから目を外し、この状況を起こした悪意の液体を睨む。

 僅かな魔力で倒せる方法を考えることは、レイに任せて、自分は少しでも魔力の回復に努めていた。


「……一番いいのは、この地帯をまとめて消す」

「無理だ。ある程度の魔力が必要だ。回復するのを待っていると、アレが何をするかわからんから、放っておけない」

「……なら、今は封印しかない」


 レイが出した答えは、ひとまず、封印を施して魔力の回復を待つ。そして、一気に大量の魔力で消し去る。少ない魔力で出来る事はそれしかなかった。


「……フォネス達にも手伝ってもらう。封印の魔力ぐらいは回復している筈」

「わかった。フォネス――!! マリア――!! シル――!!」

「はい!!」

「私の出番ですね」

「任せて!」


 三人の魔王を呼び、封印の手伝いをして貰う。ついでに、大天使ミカエルも来て貰い、聖の力で弱らせて貰う。悪意は聖の力なら弱らせることが出来るのでは? の考えだ。


「わかりました。力を貸しましょう」

「……準備はいいね?」


 さっきから液体を飛ばして、攻撃してくるが、魔王以上の者には当たらない。エリーナ達はロドムによって、離れた場所でミディ達がいる場所へ移動して貰っていた。






「……『属性封印』で行くよ。タイミングはゼロに合わせて!」

「「「はい!」」」






 『属性封印』は7種類の属性による力で対象を押さえ込む封印。フォネスは火、マリアは闇、シルは水、他はゼロが補う。大天使ミカエルが聖の力で攻撃している間に、四人は対象を中心になるように動き、七つの属性を放出する。そして、レイがその放出された七つの属性を封印の魔法陣へ作り上げる。




「「「「『属性封印』!!」」」」




 魔法陣が完成した瞬間に、力を込めるだけでピラミッドみたいな結界が現れた。その結界は七つの属性をぶつけないと壊れないようになっている。その『属性封印』を選んだのは、悪意の液体が闇以外の属性を使えないと考えてのことだ。


「よし、成功だ――――」

「ごぼぼぼbbbb!!」

「なっ!?」

「……嘘、邪神アバターの意思なら、無の力も闇から出来ている筈だったのに――――!」


 悪意の液体が放つ無の力は邪神アバターの意思で、闇の力から変換されていると考えていたが、あっさりと封印が破壊されてしまう。レイの考えが間違っていたことになるが、レイ本人も信じられない思いだった。観察して、闇の力を使っていると間違いないと判断していたのだから、その驚きは大きかった。


「くっ、仕方が無い。皆、ここから離れるぞ! 魔力を回復するまで、一時撤退だ!」


 世界半分が破壊されるのを承知で、ここから一時撤退することに決めた。ゼロの言葉に、レイ達も承知した。このままでは、勝てないと理解したからだ。だが、悪意の液体はそうゼロ達の考え通りに動かしてくれない。




「ごぼ? ごぼぼぼぼぼbbbbbbbb」

「なっ、膨らんでいく?」

「ま、魔力が膨れ上がってくぞ!? 自爆するつもりか!?」


 大天使ミカエルはすぐ悪意の液体が何をしようとしているか、すぐわかった。自爆、ただの自殺ではなく、世界全体を巻き込んだ自爆だった。

 回復に時間が必要だったが、このままでは回復する前に自爆して世界が消えてしまう。


「レイ、他の方法はないか……?」

「……自爆するまで、多分、三分ぐらい。攻撃しては、駄目。自爆を早めるだけ……」

「くっ!」

「……こうなっては、この世界を見捨てて、異世界へ逃げるしかない。二分あれば、それぐらいの魔力は回復している筈」


 レイは諦めた。攻撃をすれば、自爆を早めてしまうし、封印をしようとしても、『属性封印』が失敗し、その原因もまだわかっていない。なら、この世界を見捨てて、ここにいる人だけでも異世界へ逃げるしかない。


「他の方法はないのか?」

「……うぅん、ない。時間が足りない」

「そうだ、ミディの力で時間を延ばすのは――――」

「……でも」

「すいません、ミディ様はまだ力を使えない状態で……」


 ロドムもミディはまだ神之能力を使えない状態だと判断していた。

これでは、八方塞がりだった。もう異世界へ逃げるしかないのかと歯軋りするゼロだったが…………この状況でも、立ち上がる人がいた。




 エリーナだった。




「私の能力なら、時間を稼ぐことが出来ると思います!」

「……貴方の能力?」

「はい。アリスを傷付けた者を許したくないです。なので、やらせて下さい!!」

「……でも、攻撃は駄目だよ?」

「はい、攻撃ではありませんので、大丈夫かと」


 エリーナ、本名はセラディア。『純潔の勇者』、セラディアとして生まれ変わったエリーナは――――




「『浄化王セラティム』、悪意を浄化して!『天浄エクスホーリー』!!」

「ごぼっ!?」




 エリーナが放った優しい光が悪意の液体に降り注ぎ、膨らんでいた身体が少しずつしぼんでいく。悪意を浄化しているので、そのまま、優しい光を降り注げば、全ての悪意を浄化することが出来ると考えていた。だが、神の一部はそんな簡単にやられる訳がなかった。

 萎んだのは少しの間だけで、萎むよりも膨らむのが早いようで、完全に浄化しきれていなかった。エリーナが出来たことは、世界から脱出するまでの数秒を稼ぐことだけだった。


「そんな……!」

「……無理だよ、その威力では足りない」

「でも、時間は少し稼げただけでもやらなかったよりはマシだ」


 ゼロは慰めるが、エリーナの顔色は悪かった。このままでは、自分が生まれた世界がなくなってしまうのが怖かったからだ。もし、この世界で生きるセラディアが死んでも、今いるエリーナは死ぬことはないが、世界が無くなってしまうのは嫌だった。諦めずに、威力を高めるように力を込めるが、それでも悪意の液体は止まらない。


「嫌、嫌よ! この世界が無くなってしまうのは嫌よぉぉぉぉぉ!!」

「エリーナ……」


 ゼロが出来る事は、もう無かった。異世界へ渡るだけの魔力が貯まったら、すぐ無理矢理に連れて行くしか出来ない。

 内心で謝るゼロだったが、横切る人物に驚きの表情を浮かぶ。その人物は泣き叫ぶエリーナの肩を叩く。


「えっ!」

「エリーナ、もういい。後は任せろ」

「あ、アリス!? 大丈夫なの!?」


 まさか、アリスが立ってエリーナがいる場所まで来れるとは思っていなかったからだ。それ程に、その傷は深いのだ。


「……ゼロ、アレは俺が片付ける。だから、エリーナは任せた」

「何か方法があるのか?」

「あぁ、俺も自爆して、相殺すればいい。それで、被害は抑えられる筈だ」

「……自爆を? それでは、貴方の魂も――――」

「もういいんだ。一度でも、エリーナに会えただけで充分だ」

「あ、アリス! じ、自爆は――――」

「どうせ、俺は何をしなくても、死ぬんだ。だから、最後ぐらいはエリーナを守らせてくれよ? 後……、短い間だけだったが――――幸せだったぞ。お前といる時間は俺の宝物になった。…………ありがとう」


 一度は守れなかった。だが、エリーナが生きていて、守れる機会が現れたのだ。アリスはここで魂が消滅してしまっても、悔いは無かった。その決意を受け取ったのか、ゼロはエリーナを脇に抱えて、この場から離れるように動いた。


「や、やだ!! アリス! せっかく、会えたのに――――!!」

「すまない……」


 ゼロに合わせ、皆がこの場から離れていく。残ったのは、膨れ上がっていく悪意の液体と死に掛けのアリスだけ。




「ふっ、俺の最期は自爆か。最期まで、一人だったな――――」




 アリスは、前世でも孤独だった。この世界に来てから仲間が初めて出来たが、先に死んでしまい、孤独になった。今も、世界を守る為に孤独で死のうとしている。アリスはそれでも、良かった。今度こそ、エリーナを守れるなら――――悔いは無かった。






『――――……じゃない』

「えっ?」

『一人じゃない。私達も一緒だよ』

『アリス様、いつでも一緒だよ』

「ははっ、ここに来て、幻覚と幻聴が聞こえるなんて――――」


 いつの間にか、アリスの横には死んだ筈のバトラとマキナが立っていたのだ。だが、幻聴だと思っていた声は止まない。


『アリス、いつでも一緒にいると言ったじゃないか』

『幻聴じゃないよ! 私達はここにいるよ!』

「まさか、そんなことが……いや、本当にいるなら、ここにいたら巻き込まれるぞ。すぐ、離れろ!」


 ここにいたら、魂ごと消え去ってしまう。魂だけの姿になっている二人がここにいるなら、二人も巻き込まれてしまうと、そう言ったが……


『消え去ることになっても、アリスと一緒にいると決めたんだ』

『大丈夫、アリス様は孤独じゃないから!』

「大丈夫って……この馬鹿共は……」


 もう、ここから離れようとしても、遅いだろう。目の前にいる悪意の液体はそろそろ自爆しようとしていた。それに、合わせて自爆をするアリスも神核から輝く光を放ち始めた。


「悪意よ、お前も無に帰って貰うぞ――――」














 爆発が起こった。






二つの爆発が起きて、もう一つの爆発が悪意を全て飲み込むように、塗り潰した。そして、その爆発はすぐ縮小していった。世界へこれ以上の被害を出さない為に――――














 遠くから見ていたゼロ達は、その爆発に巻き込まれることもなく、神妙な表情を浮かべていた。爆発した瞬間に、強敵だった二つの魔力が完全に消え去ったのを確認したからだ。爆発と同時に、ゼロが作り出した『世界改変クリア・ワールド』も壊れて、元の世界へ戻っていた。だが、爆発が起きた場所は大きなクレーターを残していた。


「うぅっ、あ、アリスぅ……」

「……これを。約束を守れなくて、ゴメン」

「すまない……」


 レイの手から渡されたのは、ただ人形だった頃のアリス。それを残った魔力で作り出した。その人形を受け取ったエリーナは大きな声を上げ、泣き出した。世界は守れた。だが、一人の少女の鳴き声が世界中へ響き渡るのだった――――











次回が最終回になります!

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