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第八十話 悪意




 今のアリスは倒れていた。ゼロからの攻撃を受けてしまい、身体から力が抜けてしまった。そして、浮いていたアリスは重力に抵抗できないと言うように、落ちていったからだ。


「これで終わりだ」

「…………」


 アリスは自分の身体を上手く動かせていなかった。それは、ゼロの『理想封神ゼロ・ゴッズレイ』により、神之能力を一つ封印と神の身体を弱体化させられていたからだ。もちろん、一時的な効果でしかないが、その攻撃を喰らってしまったアリスは何も出来なかった。

 ゼロはアリスの首に二本の剣を添えていた。すぐ斬らないのは、このまま殺しても、邪神アバターのようにいつか復活するだけだから。そして、この場にいる少女の願いもあってのことだが。その少女は悲しそうに倒れているアリスへ近付こうと、走っていた。それを止めるゼロ。




「止まって。まだ完全に動きを止めた訳じゃないから」

「で、でも、アリスが私を――――」

「言うな……言うな!!」

「っ!?」


 アリスは突然に声を上げていた。さっきまでと違い、憎しみを込めた瞳でエリーナを睨んでいた。


「アリス……?」

「……偽者が、その姿を止めろ! その姿はエリーナのようだが、姿を変えているのは隠せてないぞぉぉぉぉぉ!!」


 アリスは目の前にいるエリーナが姿を変えているのを見抜いていた。戦闘中だったときはすぐ気付けなかったが、良く見ればスキルで姿を変えているのがわかる。


「で、でも!!」

「待ってくれ。このことは、俺から説明しよう。この子は確かに、姿を変えているが、本物のエリーナだ」

「本物? 有り得ん! エリーナはあのクズ王子の殺された!! 俺の目の前で!!」


 この世界では、人は生き返らない。死んだら、それまでなのだ。神でも、神核を壊されたらもう生き返らない。それを知っているアリスは、目の前にエリーナがいても信じられなかった。


「この世界は蘇生の術はない!! お前だって、知っていることだろ!?」


 一度は神の域まで踏み込んだゼロなら、そのことは知っている筈と判断していた。もちろん、ゼロ本人も蘇生の術はないとわかっている。


「確かに、その通りだ。だが、お前は忘れているな?」

「忘れているだと……?」

「確かに、生き返るのは無理だ。だが――――転生だったら?」

「っ!?」


 一つの推測に思い立つアリス。確かに、この世界は蘇生の術はない。だが、転生はある。自らが、体験したことなのだから。

 まさか、エリーナも転生していて、この世界に生を受けていた可能性もあると――――


「……それでも、おかしいことはある。エリーナが死んだのは、1、2年前程度だぞ。そこまで成長しているとは思えん。その姿は隠しているようだが、12~14歳辺りだぞ?」


 今のエリーナは八歳ぐらいだが、本当の姿は14歳になっている。


「そこまでわかるのか。そのエリーナは未来から連れてきた。現在はまだ生まれたばかりの赤子だったから、未来から連れてきたんだ」

「……そこまで出来たのか。お前の『理想神エデン』はよ」

「そうだな。俺の『理想神エデン』は他の人が使っている神之能力を理想によって、最大限に発揮出来るからな。時間制限があるけどな」

「それで、あの『暗黒神ダークマスター』もあれ程に使えていたか」


 さっきの戦いで、ゼロは邪神アバターよりも高い威力を持った攻撃をしていた。それも、理想によって最大限に使えるようになっていたのが理由だった。それに、魔力が減らなかったのは、魔力を使わずに周りにある未確認物質ダークマターを使えたからだ。

 エリーナを連れてきた時も、ミディが持つ『刻渡神アリス』をゼロが未来へ向かい、説明をしてこの時代に来てくれていた。それも、最大限まで引き出せる『理想神エデン』があってのこと。



「……本当に、お前はエリーナなのか?」

「うん、名前は変わっちゃったけど、エリーナだった頃の記憶はあるよ。アリスが魔物になって、神になったのは驚いたけど」

「……そうか、転生していたのか」


 アリスにエリーナが本物か調べる術なんて、ないが――――ゼロが意味の無い事をしないと戦ってわかっていたので、信じる事にした。

 エリーナがまた人間として、生を受けていたならアリスが人間全てを殲滅する目的も揺らいでしまう。それどころか、今はゼロにより、地へ伏せている。ここまでかとアリスは諦めの心情になっていたが――――




「う、うあ、あぁぁぁぁぁぁ!?」

「っ!? 何が!?」

「アリス!?」


 アリスが突然に苦しみ始めた。四本ある羽が黒く染まっていくのを見て、ゼロはもう一回、『理想封神ゼロ・ゴッズレイ』を使おうとしたが、もう遅かった。

 黒くなったところが液体になって、アリスから離れてしまったからだ。














 アリスとゼロを閉じ込めている結界の外にいた、レイ達は膨れ上がった魔力を感じて距離を取っていた。そして、二人を閉じ込めていた結界は爆発を起こして、破壊された。それと同時に、脇にアリスとエリーナを抱えるゼロが現れた。


「……お兄ぃ、何が起こったの!?」

「わからんが、アレはアリスから出て行った物だ。アリス! アレは何かわかるか!?」

「うがぁ、はぁはぁ……アレは、おそらく悪意だ。人間の悪意全てを詰め込んだエネルギーだ……」

「……でも、意思を感じるよ?」


 アリスは心の力を使い、エネルギーに変えていった。だが、その心の力は善意だけを選んで使っていた。人間の悪意は醜いと無意識に避けていたので、善意の力だけで戦っていた。だが、それが悪かったのかもしれない。それに、無意識に押さえつけていた悪意のエネルギーが少しずつアリスの身体に溜め込まれ、ゼロの『理想封神ゼロ・ゴッズレイ』で心の力を安定させる精神不滅を封印してしまったのも、開放される鍵になってしまったのもあるだろう。

 そして、ただのエネルギーである悪意に意思を感じるのは――――




「ごあ、がははhhh!!」

「その声は、邪神アバター……?」

「……なんで? アリスが完全に消滅した筈」


 何故か、その声は邪神アバターと似ていた。黒い液体となった悪意は邪神アバターなのかと疑問を浮かぶのだったが、アリスだけは心当たりがあった。


「……神の力の大部分は邪神アバターから奪った物だから、その意思も少しは残っていたかもしれん」

「厄介な奴がまだ生きていると思っていたが、意思を持っているだけの魔物と思えばいいか?」

「……それでいいと思う。でも――――」

「あはははhhh!!」


 触手の様に液体を伸ばして、こちらに触れようとしていた。嫌な予感を感じたゼロ達はすぐ触れない距離まで離れていた。その触手は触れた岩を溶かすように無に帰していた。


「くっ! アリスの力を使えるのかよ!?」

「……でも、威力はそれ程ではない。やるよ」


 ここはゼロとレイが相手をすることに。もう魔力は少ないが、戦えるのは二人だけなのだから、前に出る。脇に抱えていたアリスはエリーナに任せていた。今のアリスなら、自分達に敵対はしないと信じて。


「もう邪神アバターはいないのだから、消えやがれよ! 『暗黒消滅エンド・ワールド』」

「……私は魔力を送り続けるから、放ち続けて!」


 一気に消し去ることにしたゼロだったが、意思を持った悪意も見ているだけではない。液体の身体が膨らんだかと思えば、『暗黒消滅エンド・ワールド』を避けるように、バラバラへ分散してしまったのだ。追いかけるように、手を動かして大部分は消し去ることに成功したが、少数に残った悪意の液体が元の姿に戻ってしまう。


「なっ、どういうことだ?」

「……少数でも残しては駄目みたい。これでは、魔力が足りない」

「ごぼぼあああぁぁぁ!!」

「っ、皆! 避けろ!!」


 悪意の液体は無差別に黒い弾が放たれた。触れたら解けるように無へ帰ってしまう攻撃が、全方向へ皆がいる所までも。

 でも、そのスピードはそれ程に速いとは言えなかった。勇者でも避けれるぐらいのスピードしかなかった。だが――――――――避けれない人はいた。

 アリスを抱えたエリーナだ。エリーナは一人を抱えて、その攻撃を避けれるぐらいの身体能力、技術はなかった。このままでは、二人が無に帰してしまうと思われた。









 しかし、そうならなかった。




 アリスがエリーナの盾になるように、エリーナを抱き込んで守ったからだ。


「がはっ……」

「アリス――――!!」


 エリーナを守ったアリスは、神核があった胸の中心の近くで受けてしまい、欠けられてしまう。力を封印されたアリスは、スキルで守る事も出来ず、身体を使ってエリーナを守るしか出来なかったのだ。悪意の液体は神の一部から出来た物なので、その攻撃で神核を破壊されてしまえば、アリスは生きていられない。欠けられた状態なので、すぐ消え去ってしまうことはないが、少しの間しか生きられないだろう。


「エリーナ……無事か?」

「なんで……」

「あはははっ、人間を殲滅したかったのに、何故か、お前だけは死んで貰いたくは無かった――……」

「あ、アリス!! 眼を、開けてよ、アリスぅぅぅぅぅ――――――――!!」


 必死に身体を動かしていたアリスは、右胸に大きな穴を空けて地面へ倒れる。その様子を見たゼロ達は呆気に取られていた。あんなに嫌いだった人間に身を挺して守ったのもあるが、強かった神の一人があっさりとやられたことに驚愕を隠せないでいた――――









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