第七十九話 交代
アリスが持つ無限の根源がわかった。だが、それだけで勝率が上がると言う事は無かった。そう――――
何もしなければの話だ。
「……この世界の生き物だけじゃないよね? 他人から奪っている心のエネルギーは」
「そうだな。この世界だけじゃない、他にある世界からも奪わせて貰っているさ」
「……時空を超えて―――とは言わないよ。神だから、出来ても不思議ではない」
この世界に生きる生き物だけでは、無限とは程遠い。それに、それぐらいでは、アバターの未確認物質より多いと断言は出来ない。なら、時空を超えて他の世界に住まう生物達からも撤収している可能性も考えられる。
「……それだけわかっていれば、やりようはある」
「ほぅ、何か策があるのか。意外だな、もう出し尽くしたと思っていたが?」
「……私はね。お兄ぃ、後はお願いだよ」
「あぁ、任せろ。やってくれ」
「……うん、任せた。『断絶世界』」
レイは最後の仕事をすることに。レイは、自分がアリスを倒せるとは考えてはいなかった。今までの行動は、全て――――お兄ぃの為に時間稼ぎであった。魔力の回復ももちろんだが、他にアリスに勝つ為の準備もしていた。
レイが持つ全ての魔力と妖力を使い、もう一つの世界を作った。ゼロが発動した『世界改変』の中に、『理想王』で作ったもう一つの世界、『断絶世界』をアリスとゼロだけ包む。二人を真っ黒な壁で覆ったような感じで、世界から隔離された。
「……なんだよ、これは――――心の力が集まらない?」
「この世界は俺ら二人だけだ。他の世界から、隔離されているからな」
「ふはっ、まさか、無限を無効されるとは思っていなかったぞ! そんなことが出来るとは、やはり魔神の妹ってとこか」
「俺はもう魔神ではない。それに、本当は妹ではなく、幼馴染として出会ったがな」
「ふん、まぁいい。無限の力が無くたって、お前を殺すぐらいの力はある!!」
無限の力は無効された状態になったが、アリスはまだ自分の身体にはエネルギーが沢山溜め込まれている。それを使い、ゼロを殺すだけなら簡単だ。そう思っていた――――――――
「『聖救剣』、『暗黒剣』!」
「ッ! 『無帰剣』!!」
ゼロは二本の剣を生み出し、斬りかかるとアリスは一本の剣で受け止めた。だが、受けた瞬間に無帰剣では受けきれないエネルギーを感じて、すぐ受け流す形に変えてから距離を取っていた。
「……どれも神の剣か。あっさりと二本も生み出すとは、流石、魔神だと言う所か」
「その力を持っても、この二本を相手取るのは厳しいみたいだな?」
「抜かせ」
アリスもゼロのように、二本の剣を生み出せるが、剣に込められている魔力が桁外れで無限の力を封じられている状態では、易々と魔力の無駄遣いが出来なかった。ゼロはまだ切り札を隠していると、アリスは考えていたので、温存が必要だと判断していた。
だが、反対にゼロは自分の消耗を考えてはいないように、全力を出し切っているようだった。まるで、アリスが無限の力を持っていた時のように――――
その様子におかしいと感じるアリスだったが、わざわざ向こうが先に落ちてくれるなら、それを止める理由はない。
「『暗黒消滅』!」
「なっ、その技までも使えるのか!?」
不意を取られたのもあり、完全に避けられなかったアリスは右腕を削り取られた。すぐ回復は出来るが、これで体内にあるエネルギーが大分減ってしまう。
それよりも、そんな大技を使えば、更に魔力が足りなくなる筈だ。なのに、ゼロは気にする事もなく、連続で撃ち出して来る。受けるには魔力の無駄なので、距離を取って避けていく。
「お前も魔力が減らないな!? 外から、レイが魔力を送っているのか!?」
「違うぞ。レイも魔力があまり残っていないからな」
レイとの戦闘と同じように、他から魔力を供給していると思ったが、ゼロは違うと答える。しかし、魔力が減った様子を見せないことから、他の要因があるのかと考えるが――――
「『終末惑星』!!」
「また!」
また暗黒神による攻撃を繰り出してくることに、アリスはうざったいと感じていた。ゼロは理想神により、暗黒神の力を使えるように、理想を現実に変えているのはわかるが、再現度が高過ぎて威力もスピードも抜群過ぎた。まるで、ゼロが暗黒神のスキルを持っているような強さだった。
「ぐううっ!!」
「消え去れ!!」
アリスは何故、ゼロがこれまでの力を発揮し、魔力も減らないことがわからないままだったが、このままではやられると感じた。魔力の残量を気にしている場合ではないと理解し、本気で相対することにした。
「舐めるなぁぁぁぁぁ!! この程度で、俺を抑える事が出来ると思うなぁぁぁぁぁ!!」
「くっ」
ゼロは暗黒神の力で本気を出せなかったアリスを抑えていたが、本気を出された瞬間に、力の差が覆った。無に帰す力で『暗黒消滅』と『終末惑星』を纏めて消し去っていた。このまま、ゼロごと巻き込む程の威力で押し切ろうとした。
だが、その攻撃は突然に弱まった。
アリスの眼には、ゼロの後ろへ向けられていた。そこには、ここにいる筈がない人物、そして、この世界にはもういない筈の人物が。そう――――――――そこには、少女のエリーナがいたのだった。
その隙がアリスの運命を決めることになった。一瞬に満たない時だったが、ゼロは既にアリスの後ろで頭に手を乗せていた。
「今こそ、俺の理想が上書きする。『理想封神』」
ゼロは対神の切り札を切った。その瞬間に、アリスは身体から力が抜けるのを感じていた。だが、眼だけは驚愕を混ぜた視線で悲しそうにこっちを見るエリーナを追っていたのだった――――




