第七十六話 アリスvsレイ
「神之能力『理想神』――――、『世界改変』発動!!」
ゼロはフィールドを変えるべく、自分の神之能力を発動した。その力はゼロが理想とする現象を起こす。その力によって、戦場となっていた塔付近の森、山、草原はコンクリートだらけの建物で出来た世界に変わっていた。
「この世界はわかるか?」
「……東京タワーまでも作ったか。いや、世界を変えた? それに、ここを戦場にした理由がわからんな」
「やはり、お前も元日本人だったか」
「それを確かめるだけに、ここを作り出したのか。全く、無駄に魔力を使っていいのか?」
これだけの世界の改変には人間にはとてもない負担が掛かるのは見えている。それに、魔力もアリスのように無限ではないのだから、戦場を変えるだけの為に使った魔力の無駄遣いに理解できなかった。
「この世界は元より頑丈に作ってあるから、暴れても世界が壊れる心配はいらないからな。それに、魔力の心配はしなくてもいいぞ」
「……お兄ぃはしばらく休んで。私が相手をする」
ゼロはやはり、この世界を作るのに膨大な魔力を使っているので、少しだけ休む必要があるようだ。その間はレイが一人で相手をすると。
「ゼロの妹だったか。神の相手に一人で戦うと?」
「……そのつもりだけど?」
「…………期待外れだな。元魔神のゼロは現れて、魔力の無駄遣いをし、お前はそんなに多くの魔力を持っていない。ミディに劣る存在が相手になるかよ」
アリスは現れた二人のことをミディより格下の存在だと決め付けた。その差は魔力の量にあった。スキルや魔法を使うのに、魔力を使うことが前提だ。二人が強力な能力を使えても、魔力量が最強の魔王であるミディの十分の一もない存在に胡乱な眼で見ていた。
神の力を試すことはミディでやり尽したので、ゼロとレイはさくっと終わらせようと考えていたら――――
アリスの懐にレイが現れた。
「なっ!?」
「……隙を見せ過ぎ」
アリスはどうやって懐まで入り込まれたのか理解する前に、腹へ掌底で寸剄を打ち込まれた。中で響く衝撃に血反吐を吐いてしまうアリス。ミディ相手にも血反吐を吐く程のダメージを受けなかったアリスが、レイの攻撃で膝を折ってしまう。今のアリスは人形の時と違って、痛みを感じている。『無痛』のスキルはアバターに飲み込まれた時になくなってしまっていた。
「……痛みはあるみたいだね」
「ぐっ! がはっ!?」
顎へも攻撃を受けてしまい、上空へ弾き飛ばされてしまう。すぐ体勢を直して反撃をしようとしたが、下は既にレイはいなかった。レイは何処に行ったのかは――――
「……ここだよ」
「っ!!」
一瞬と言うには早すぎるスピードで上へ回りこまれ、踵落としを頭に受けて地面にクレーターを作ることになる。
アリスとレイの戦いを見ていた皆は驚いていた。その景色は大天使ミカエルも呆気に取られるように口をパクッと開けている程だ。
「強い、あのアリスがこんなにやられているなんて……」
「そうだね、ミディより強いよね。ゼロの妹は」
「これ、レイ様と言いなさい。ゼロ様の御妹なのよ」
魔王の三人は千年前からレイのことを知っていたが、まさかアリスがここまでやられる程に強いとは思っていなかった。というより、レイが人間になってから、戦ったところを見たことは無かったので、レイがどれぐらい強いかはわかっていなかった。何かが起こっても、殆どはゼロが対応していたからだ。
今の戦いを見ると、最強の魔王であるミディよりも強いように見えていた。
「私もそれだけ強ければ良かったけど……」
「今より強くなるのは、難しいと思うよ?」
「そもそも、私達の相手になる敵があまりいませんからね」
アリスや邪神アバターが現れるまでは、魔王が一番強い存在だったのだ。それだけに、敵が少ないので強くなりようはなかった。というより、必要は無かったのが正しいだろう。
それでも、フォネスは主であるゼロ様の役に立ちたい、強くなりたいと思っていた。ここで活躍できないことに悔しく思っていた――――
「…………ぺっ、侮っていた俺が悪かった。認めよう、お前は俺の相手に成り得ると」
「……喋ってばかりでいいの?」
レイはそう言いながら、再び、アリスの懐に入って掌底を当てたが、手応えが浅くなっていることに気付いた。
「不思議なのは、その動きだ。転移とは違う、不思議な動きだ――――」
「……っ、もう対応したの?」
手応えが浅くなっているのは、アリスが攻撃される瞬間に、少しだけ後ろへ動いて衝撃を逃がしていたからだ。何発か受けただけで、不思議な動きをするレイの攻撃を少しずつ対応していた。
アリスは痛みを感じるが、脅威の回復力を持っているので人間の技術結晶である技ぐらいは耐えられる。もし、ミディみたいな時間を戻す効果が含まれていたら、危なかったが――――レイがやっていることは、能力でアリスが察知出来ない動きをし、魔力を纏っていない体術での攻撃だ。
「不思議な動き、空間か? 転移ではなく、離れた場所に手を届かせることが出来るような感じだ。あぁ、あの能力に似ているな」
「……確かに、貴方は化物ね」
だんだん手応えが無くなって来たことを悟り、すぐ距離を取った。アリスは攻撃をせずに受けているだけだったが、それは観察をしていたからだ。観察が終わったら、攻撃してくる可能性が高まるので、すぐ距離を取った訳だ。
アリスの対応力にレイは脅威を覚えていた。レイの才能度にいえば、化物と変わりにならないぐらいの凄さを誇っていたが、そのレイがアリスのことを化物と言い放った。つまり、同類だと感じていたという事。
アリスが言っていた「似ている能力」とは、アルベルトが持っていた魔剣、中間を無くす能力を宿していた。『武蓮王』の能力に似ていたのだ。
「……神の身体も充分、反則みたいね。途中で能力による攻撃を加えてみたけど、全く効いていないみたいし」
「ん、衝撃とは別の力が働いているなと思っていたけど、魔力は完全に無効させるからな」
アリスの身体が魔力を無効させている訳でもないが、レイは魔力を無意識に無効出来るのを確かめられただけでも情報としては、充分のようだった。
レイは情報を集めて、アリスの強さを探ろうとしていた。無限と言う力は本来なら、有り得ないことなのだ。そんな資源はどの世界を探しても、絶対に無いのは知っている。様々な世界を回ってきたゼロとレイは――――
「……まず、貴方の力の根源を見つける」




