第七十五話 ミディの全力
新しい小説を載せていますので、こちらもどうぞ。『混ざり者の復讐者』になります。
「ミディが死んだ!?」
「ホホッ、アレは過去のですよ。しかし、あの威力は本体でも気を付けなければ、一撃で死ぬ可能性が高いですね。それで、あれは妖力ではなさそうですが?」
「うーん、紫色じゃないから妖力じゃないけど、魔力でもないよね」
塔の上で戦いを観戦していたシルとロドムはアリスが使っていた力に注目していた。アリスは真似をさせて貰うと言っていたが、アレは妖力ではないのは誰にもわかる。その黄金色に輝く力はなんなのか――――
「な、神力だと!?」
「あ、天使さんは知っているの?」
知っている人がいたようだ。その人は大天使ミカエルであり、昔は神に仕えていたので、知っていたのだろう。
「おや、神力ですか? それはなんでしょうか?」
「原理としては、妖力と同じように生命力を使われているが、あの神はまだ生まれたばかりの筈だ……」
「生まれたばかりだと、神力は使えないの?」
「ああ、邪神アバターは一万年も生きていたが、それでも神力を扱うことは出来なかった。元は人間だったから、その生命力が神力を生み出す程の量が無かったからだ」
「ホホッ、神だったら生命力も溢れる程にあるのではないですか?」
「生命力と言う物は生まれた時から量は変わらない。いや、増やせないのが正しいだろう。アリスと言う神は転生者だろう? なら、元は人間であった可能性が高いが――――何故か、神力を生み出せている……」
そこが疑問なのだ。元から増やせない生命力、アリスは元人間で神力を生み出せる程の量を持っていたとは思えない。だが、話を聞いていたフォネスの推測がその可能性を見出していた。
「ねぇ、アリスは無明神で無限と言う能力を持っているよね。その無限というエネルギーは何処から持ってきているの? そのエネルギーが神力を生み出せているのでは?」
「……成る程。無限の力、確かにアリス自身から生み出せているとは思えん。自分自身の生命力を使わずに、他から持ってきているなら、神力を扱えるのも納得できます」
「でも、何処から持ってきているの? アレだけの無限を」
皆の見解では、アリスの無明神は自分自身で無限の力を生み出すのではなく、他から持ってきているのではないかと。でも、何処から持ってきているかわからなかった。アレだけの力が大天使ミカエルも知らない、隠されている場所があるとは思えなかったからだ。
「とにかく、手助けをしないとミディがやられてしまいますよ」
「でも、アレの動きに着いて行けないよ?」
「完全に法則を無視しています。あれでは、攻撃を当てるのも苦労します。機会を待った方が良いと思います」
フォネスが一緒に戦うと言うが、シルとマリアは二人の戦いに追い付ける気がしなかった。参戦した瞬間に死ぬ未来が見えるので、隙を見つけるまでは待機した方がいいとの判断をするマリア。
そのことにはロドムも賛成のようで、向かおうとしているフォネスを止める。
「ミディ様にも考えがあるので、その時まで待っていただけませんか?」
「ミディが? まだ大丈夫なら、いいが……」
今はミディがいないと、アリスに傷を付けられる存在がいなくなる。だが、そのリスクを承知のこと、あえてミディは一人で戦っているのだ。他の魔王には後に役目があると言うように。
ミディは自分の過去が倒れたら、次々と過去から呼んでいた。今は数を増やして50人のミディがアリスに攻撃を仕掛けていたが――――
「数だけの案山子は意味無いぞ?」
「ぐっ! それはアリスだからでしょッ!」
アリスはミディの攻撃を簡単にあしらい、時間の法則を無視して動いている過去のミディだけを狙い撃ちまでも行っていた。本物のミディへ攻撃をすることもなく、一体ずつ減らしていく。こんなことは、普通では有り得ないようなことだが、アリスは自分の力を試しているように、様々な方法で過去のミディを消し、わざと攻撃を受けてもいた。無限のある魔力、神力、体力、回復力を試すように――――
「……数を増やしても魔力の無駄か」
「もう諦めたか?」
ミディは自分の過去を消し、ただ一人だけになった。アリスはその様子を見て、もう諦めたと思った。出来れば、ゼロが来るまでは神の力をもっと試したかったが、諦めたなら一瞬で消してやろうと考えていたら、ミディの中心に今までの比ではない魔力量が集まっているのを感じていた。
「ほう、まだ諦めていなかったか。次は何を見せてくれる?」
「これからやることはアリス自身ではわからないことだろうから、先に教えてあげるよ」
「教えるだと? その余裕があるなら、黙ってやればいいだろ?」
「教えないと――――」
ミディがそう言った瞬間に、静寂になった。アリスがいる空間だけの世界が、隔離されたように時間が止まった。
「ほら、何が起こったかわからないでしょう?」
ミディがやったことは、アリスがいる空間を世界から隔離して、時間を止めた。先に世界から隔離しなければ、この世界に歪みが現れてしまうからだ。アリスがいる空間を指定してから、時間を止めただけに聞こえるが、その攻撃はとんでもない程の魔力量と集中力が必要になる。その攻撃を行い、維持させるだけでも生命力と魔力がどんどんと減っていく。
今は過去のミディから生命力と魔力を供給しており、供給していなければ、すぐ尽きてしまう程の消耗がある。このまま、時間を止めたまま、アリスを神から魔人へ引き落とせばミディの勝ちだ。その様子を見ていた者は全員が、ミディの勝ちを確信していたが――――
「……成る程。時間を止めたか」
「……どうやって、話せている? 時間を止められたら、口も動かせない筈だけど」
「俺は神だ。これぐらいの障害、なんとか出来なければ神とは言えん」
「本当に、化物だよね。でも、身体を動かせないなら問題はない!!」
ミディは口を動かせているが、身体までは動かせていないと感じられていた。アリスの抵抗はそれがせいっぱいだと信じて、最後の攻撃を行う。
「『回帰剣』、最大出力!!」
ミディの剣が巨大化し、剣先が空間を歪めていた。最大出力にしたお陰で、『回帰剣』の性能が上がって、先程のは10分程しか戻せなかったが、今は一時間程へと戻せる時間が増えている。それを感じたのか、アリスは様子見を止めて抵抗する事に決めていた。
「流石に、アレを受けてやるにはいかんな」
「ッ!?」
時間を止めている筈の空間が揺れ、時間が動き出そうとしていた。それはアリスが無限の魔力による力付くで逃れようとしていた。このままでは、時間が止まった空間から逃げられるかと思えたが――――
「私達も手伝います」
ここでフォネス達が動いた。空中で止まっているアリスに向けて、それぞれの魔力と妖力で作られた封印の技を使う。
フォネスは炎、シルは氷、マリアは闇、ミカエルは光の属性で作られた鎖がアリスを縛っていく。魔王クラスでは、数秒しか止められないがミディにしたら充分過ぎた。
「神から引き摺り落とす!!」
動きを止められたアリスは、まともに『回帰剣』を受けてしまった。
「うがぁっ!?」
神になったアリスでも、この攻撃には効いているようで、呻き声を上げていた。このまま、神になる前の魔人へ戻せたらミディ達の勝ちだった。
そう、勝つ筈だった――――――――
突然に『回帰剣』にヒビが入った。
「なっ、アリスは何もしていない筈――――まさか!?」
「ミディ!?」
フォネス達の視線をミディの方に向けると、ミディが倒れていた。『回帰剣』が完全に破壊され、止められた空間は元に戻っていた。鎖はそのままアリスを縛っているが、その意味を為してはいなかった。アリスは鎖をあっさりと破り、笑っていた。
「……ふ、はははっ!! ここまでやるとは思っていなかったよ。でも、過去から魔力と生命力を供給させて貰っていても、一度に放出している魔力と生命力の量を考えれば――――こうなるのは当然だな」
つまり、ミディは自滅したのだ。一度に使っている魔力と生命力の量が多過ぎて、魔王の身体であっても、その許容量を超えてしまったのが原因であった。
「はぁ、はぁっ……」
「気絶していれば、楽に死ねただろう。もう終わりにしよう」
アリスはもうミディとの戦いは飽き、もう終わらせる事にした。倒れたまま、動けないミディに向かって手を指し伸ばす。ついでに、周りで構えている魔王と大天使にも攻撃を加える。
「無に帰せ」
「……そうさせない」
無の攻撃が当たる前に、一人の少女が現れ――――時空の渦を生み出して、全ての攻撃を他の場所へ誘導した。誘導された攻撃は山や空に向かい、地面と雲を抉ったが被害は0になった。攻撃を他の場所に誘導された時空の渦に感心しつつ、表れた少女に問いかけた。
「お前はゼロか?」
「……違う。私はレイ。お兄ぃなら――――」
「ここにいるぞ」
「ッ!?」
アリスは後ろから突然に巨大な魔力が現れ、気付くのと同時に頬を殴られた。殴られたアリスはミディからやられたのと同じように吹き飛んだ。だが、空中で停止して殴った者へ眼を向ける。
「お前がゼロか。来るのが遅かったな?」
「こっちには準備があってな。だが、もうこれ以上は好き勝手にやらせないぞ」
「はん、魔神だったお前が言う事か?」
「それを言われると……そうだが、今はお前を止める側に回るさ」
「面白い。だったら、止めてみろ!!」
突如に現れた二人の存在、アリスはゼロとレイと相対するのだった――――
ようやくゼロとレイが現れました!
次回の戦いを楽しみに!




