第七十四話 無明神（ゼウス）
お待たせました。
塔の上空にて、神と最強の魔王が向かい合っていた。それも一瞬で、姿が消えたかと思えば――――
「消えろ」
「はぁっ！」
両方とも低空飛行で手を差し向けていた。無に帰す力のエネルギーと濃縮された魔力の弾がぶつかり、相殺したようで消え去る。
「ほぅ。同じ質量になるエネルギーをぶつけて相殺したか」
「伊達に長年も生きてはいないからね！」
「これならどうだ？」
今のは相殺されたが、今度はマシンガンのように無の弾を撃ち出していた。しかも、どれも同じ弾ではなく強弱を加えており、相殺出来ないように工夫してあった。
流石、最強の魔王であっても全てを相殺するには骨が折れるようで、避けていた。
「『魔幻鏡』！」
希少スキルの『魔幻鏡』で幻覚を嵌めようとしていたが――――
「この感じは幻覚系のスキルか。無駄だ」
「やっぱり、希少スキル程度じゃ、効かないか」
アリスは精神不滅で、精神を狂わせることは出来なくなっている。幻覚系のスキルは完全無効されていた。
「このままだと、無に飲まれて消えるぞ？」
「最強の魔王を舐めるのは止めた方がいいぞ！」
ミディは『刻渡神』の象徴である小さな時計を顕現し、能力を発動した。
「『｜私の過去（ふえろ―）』！！」
ミディが五人に増えていた。過去のミディが戦闘に加わりに来たのだ。過去からミディは現在のミディから記憶を受け取って、一緒に戦うことが出来る。しかも、過去のミディは殺されても死ぬことは無い。首に掛かっている小さな時計が身代わりになってくれるからだ。
「今度は増えるか。だが、実力は全員が同じとはならないか」
「十分の一しか発揮出来ないけど、魔王よりは強いよ―？」
ミディの言う事が本当のことなら、ミディはフォネス達の十倍以上は強い事になる。十分の一しか発揮出来なくても、神之能力を使える人物が五人もいることになる。流石に、アリスでも冷や汗ぐらいは出るだろうと思えば――――
「その程度か」
「なっ！？」
その言葉が耳に入った瞬間に、一人のミディが胸を貫かれて消え去っていく所だった。続けて、偽者のミディを片付けようとしたアリスだったが、今までの動きが変わって早くなって、無の攻撃を避けられる。
「まだ速くなれるじゃないか」
「これでも追い付く！？ 時間を飛ばして動いているのに、どうやって！？」
ミディは周りの時間の流れより早く動ける状態になっていたが、アリスも時間に捕らわれずに動いているように見えていた。アリスは無限の力で時間の法則を無視して、力付くで動いて追い付いているだけなのだ。
「あはっ、これは遊んでいる場合じゃないね……」
「やっぱり、本気を出していなかったな。待ってやるから、本気を出してみろ」
追い掛けていたアリスは止まり、ミディに本気を出して貰うまで待つことにした。これは余裕や油断ではなく、魔王と神の潜在能力にこれだけの差があることで、負けはないと確信していたからだ。本気になろうとも、アリスは絶対に負けはないと――――
それをミディも理解していたが、まだ諦めてはいなかった。戦闘で遊ぶのが好きなミディだったが、それは相手になる敵が今まで現れたことがなかったからだ。例外としては、ゼロだが、その時はお互いは本気で戦わずに遊び程度の力でしか戦ってこなかった。その理由は、本気で戦い合えば、この世界が耐えられないから。
それ程に、神之能力を持った同士の戦いは危険だった。しかし、ミディは初めて世界に遠慮をしないことに決めた。
「少し世界が削られてしまうかもしれないけど、仕方が無いね……『回帰剣』！！」
ミディは神之能力『刻渡神』の半数以上も込められた剣を生み出した。邪神アバターが使っていた『暗黒剣』のような物だ。
「能力を象徴した剣か。忘れていないか？ 俺は魔力を無効出来るぞ。そんな剣で、俺を倒せると思うなよ」
「なら、受けてみればいい！！」
アリスが折角、忠告してやったのにミディは無視して向かってくる。一度は攻撃を受けてやって、無傷であるのを見せればわかるだろうと動かずにいた。
アリスは腹へ『回帰剣』を受けていた。魔力で出来た剣による攻撃は効かないと教えてやろうと思っていたアリスだったが――――
「……む？」
普通なら、効果も受けずにダメージは無い筈だったが、何故かアリスは何かの違和感があり、腹にもダメージがあったという証拠の切り傷が残っていた。切り傷はすぐ治ったが、違和感は拭い切れなかった。
「これで十分は戻した」
「……何かしたのか？」
「気付かないようなら、神としては言えないんじゃないの？」
ミディは挑発するように、笑みを浮かべていた。アリスは何故かわからないが、あの剣でダメージを受けたのは確かだ。更に、十分は戻したと言う言葉が気になる。
「……成る程、純粋な魔力だけではなく、他の要因が混ざっているな？」
「すぐバレるか」
バレたのがわかり、ミディは隠すの止めていた。『回帰剣』には魔力だけでなく、他の力が込められていた。紫色のオーラみたいなのが剣を纏わり付いており、アリスはそれが何なのかわからなかった。
「これはゼロが見つけた力、妖力と言う。これなら、魔力無効では君を守れない」
「ほう、そんな力がこの世界にあったのか」
アリスは今まで生きていて、この世界には不思議な力は魔力しかないと思っていた。今まで、妖力や聖気などの使い手とは会わなかったから、知らなかったのは仕方が無いだろう。
それで、アリスは無効出来ず、まんまと『回帰剣』の効果とダメージを受けてしまったということ。
「時を戻す能力だから、自分の状態を十分前に戻されたってことか」
「理解が早いね。このまま行けば、君は神ではなくなる！」
「神を殺せるのは神だけ。だが、神じゃなかった頃に戻せば、俺を殺せるか――――あ、あはははっ！！ 邪神アバターよりは戦えるじゃないか！！」
神ではない存在に殺される可能性がある。ミディという存在は生まれたばかりの神であれば、殺せる可能性を持つ魔王であった。確かに、最強の魔王はミディの為にあるような称号だった。
「死ぬ可能性が出たけど、人間を殲滅するの止めるかぃ？ そしたら、考えてもいいよ？」
「有り得ないな。お前は俺を見逃さない。俺に時間を与えたら、殺せる可能性がなくなってしまうからな！！」
「わかっているか。神から戻したら、見逃してあげようと思っていたけど、アリスはまた神になりそうだし、ここで消えてもらうよ！！」
アリスは最後の諜報を蹴った。ミディは神からただの魔人に戻せても、アリスは殺しておくと決めた。このままなら、ミディの数が多く、殺せる方法を持っている分、アリスの不利だと思えば――――
「真似をさせて貰おう！ 『無帰剣』！！」
アリスもミディと同じように、能力から剣を生み出した。そして、妖力を乗せようと力を込めてみると、紫色とは違う色が『無帰剣』に纏わった。色が違うことに疑問を思わず、剣を振るうと――――
こっちに突っ込んできたミディを両断し、大地と天空へ大きく傷を作り出していた。
