第七十三話 最強の魔王
はい、続きをどうぞ!!
邪神アバターをこの世から消したアリスは、次の標的を定める。まだ塔に留まっている魔王と勇者へ眼を向ける。
「待たせたな。次はお前らだ」
「……随分と変わりましたね」
フォネスが数ヶ月前に戦ったときはまだ青い魔人でしかない存在であったが、今は苦戦していた邪神アバター相手を倒すまでの存在となっていた。フォネス達は自分達では、アリスには勝てないとすぐ理解しており、喉を震わせていた。
「変わったね、俺もここまでの力を手に入れるとは思ってはいなかったが、僥倖だったな。それよりも、俺の配下は死んだのか?」
「……そうです。邪神アバターの手によって」
「そうか――――、最後に何か言っていたか? 無いのなら、いいが」
「言っていました。二人とも一緒にいれて良かったと――――」
アリスはいつも無茶をする自分に良い印象を持たれてはいないだろうと思っていたが――――、まさか、一緒にいれて良かったと言われるとは考えていなかった。
二人の死体を見て、何を思ったのか手を差し伸べた。
「俺も一緒にいれて楽しくは思っていた。今はゆっくりと休め」
二人の死体がアリスの能力によって、光の粒になって消え去っていく。これが、アリスのせいっぱいの手向けだった。
「さて、俺の目的は聞いたから知っていると思うが……もし、ここから消えるなら魔王共は見逃しても良いぞ?」
フォネスには前に邪魔されたことがあるが、今は珍しく見逃しても良いと思っていた。二人の最期の言葉を覚えて、伝えてくれたからのだろうか。それでも、人間である勇者は見逃す気はなかったが。
「……残念ですが、私達は人間を殲滅されるにはいかないので、逃げません」
「これだけの戦力の差を知っても? そこの魔王も?」
フォネスの隣にいたシルやマリアにも聞いていた。
「うん、逃げない」
「私も逃げません。あの方も人間なのですから――――」
三人の魔王は戦えない状態であっても、逃げないと言い放った。あの方とは、ゼロのことを指しているのだろう。邪神アバターから手に入れた情報によると、魔神ゼロだった者は、転生して人間として生きていると聞く。
「愚かしい奴らだな。……まぁ、嫌いじゃないが」
敵対することを選んだなら、アリスは容赦することはなかった。その意気は嫌いじゃないとしても、もう人間を生かす理由がなく、自分にとっては嫌いな種族なので殲滅するのは決定事項だ。両手に力を込め、魔王と勇者へ向ける。
「じゃあな――――」
「そうさせない!」
アリスは誰かに殴られ、塔の壁を突き破って向こうにある森まで吹き飛ばされていた。
目測としてだが、五百メートル程は飛んでいた。そのアリスを殴っていたのは――――
「み、ミディ!?」
「お待たせ!! すぐ回復させるよ!! 『逆回り(もどれ~)』」
ここに現れたのは、最強の魔王と呼ばれているミディだった。ミディは神之能力『刻渡神』でフォネス達が傷付く前の状態に戻していた。
「身体の傷、魔力までも?」
「邪神アバターと戦う前の状態に戻しておいたから」
「そうですか。ありがとうございます……ぜ、ゼロ様もここに?」
フォネス達は周りを見回すが、まだ来てないようだ。
「いや、アレは流石に準備が必要だと聞いてね。それまでは私が時間稼ぎに出てきた訳だ」
「誰だ」
「……少しは傷付いて欲しかったな」
アリスは森から現れ、空中に浮いていた。その姿は殴られたとは思えない程の無傷だった。
「私はミディ・クラシス・ローズマリーだよ。オジィから聞いているよね?」
「最強の魔王だったか……オジィ?」
「ホホッ! オジィの登場になりますな!!」
「お前のことか……」
いつの間に、ロドムがミディの側に現れていた。いつも通りのロドムに呆れるアリスだったが、ミディに問いかける。
「お前もそこの魔王と同様に邪魔をするのかい?」
「そうなるね! 人間達を全滅させられたら、こっちも困るんだから!」
「知るか。ロドムにはお世話になったが、殲滅を止めるつもりはない。その為に強くなってきたのだからな」
止めたければ、初めて会った時に殺しておけば良かったのだ。だが、見逃して協力していた節もあったから、アリスをここまでにしたのはミディとロドムにも責任がある。
「こっちとしては、邪神アバターの尻尾を掴むために泳がしていましたが……まさか、貴方が神になって邪神アバターを倒すとは思いませんでした」
「そうだろうな。神になったのは運が良かったからな」
アリスが神になれたのは全くの偶然だった。邪神アバターがヨハンに成り代わって、こっちを騙したりしなければ魔王のままだったし、邪神アバターに吸収されて完全に消えずにヨハンの身体も闇の中に残されていたりの偶然が無ければ、アリスだって神にはなれなかっただろう。
それに、アリスに神になれる器がなければ邪神の力を奪った寸前に消え去っていた可能性もあった。
「運が良かったのはそうかもしれないが、それだけの器と思いがあったのは確かでしたね」
「ふん、お世辞はいい。邪魔をするなら、誰であっても消えてもらう!!」
アリスは『無明神』の力を振るい、最強の魔王であるミディ・クラシス・ローズマリーと相対するのだった――――




