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第七十二話 邪心アバターの願い

本日二話目!




 どうしてこうなった? 神に至ったこの私が消える? そんなの認められる訳が――――




「ほう、さっきので完全に消え去ったと思ったが、瞬時に離脱していたのか」

『が、があぁぁぁっ……』


 邪神アバターは千年前に魔神ゼロから追い出された時と同じように身体を無くし、別の身体へ乗り移ろうとしていた所に、捕まえられた。今のアバターは神核と言う存在になっており、誰にも認識されず、触れない代物だったが、同じ神であるアリスにはその姿が丸見えで逃さないと言うように、手掴みで捕まえていた。


『わ、私には目的があるんだ!! その為に一万年前から動いていたんだぞ!! それを新参の神ごときのお前が邪魔をするな!!』

「新参の神ごときね、それに負けたお前は何だろうね」

『あ、あぁぁぁぁぁ!! ミトラスを消し、世界を掌握しなければならないんだ!! 私の願いを叶える為に!!』

「む、願いだと?」


 邪神アバターの最終目的がミトラスを消し、世界を掌握することだと思っていたが、その先がまだあったようだ。


『私の妻、ミエルを生き返らせるんだ!! こんな所で消えてたまるかッ!!』






 邪神アバターは一万年前、人間だった。そして、孤児で両親の顔も覚えてはいない。シスターに拾われて、教会には自分と同じような孤児が集まっていた。そこで、一人の女性と出会った。


「初めまして、私はミエルと言うよ。君の名前は何かな?」

「……わからない」

「もしかして、名前が無いのかな? ねぇ、シスター! 名前を付けてもいいかな!?」

「変な名前じゃなかったら、いいわよ」

「やった! じゃ、君の名前はラミル! 私の名前から二文字あげるよ!!」

「ラミル……」


 ミエルとの最初の出会いは、名付けをして貰ったのが、印象が強かった。両親から名を貰っていなかっただけに、その名付けは嬉しく思っていた。ラミルはすくすくと教会で育っていった。よくエミルと一緒にいて、何をするのもいつもエミルがいた。数年して、ラミルの心に恋が生まれていた。

 一緒にいるだけでも、幸せだった。お互いが成人し、エミルはシスターになり、ラミルは国に使える兵士として働くようになった。別々の仕事をしている二人だったが、帰る家はいつも教会だったため、いつも一緒にいた。そして、ラミルは遂に――――


「エミル! 私は君のことが好きだ!! いつでも一緒にいてくれ!!」


 働いて手に入れたお金で花束を買い、告白をした。単純な言葉だったが、それが響いたのか、エミルはラミルと一緒にいるの望んだ。


「ありがとう……私もラミルのことが好き。こんな私でよければ……」

「駄目な訳はあるか!! 嬉しいよ!!」


 そして、二人はその想いが繋がった。いつでも一緒にいることに幸せを噛み締めていた。そんな二人に予想しても無かったことが起こる――――




 戦争だ。




 隣国と戦争が起こった。その為、兵士であったラミルは戦争に行かなければならなくなった。しばらくはエミルとはお別れで、死ぬかもしれない戦争へ向かった。


「エミル、帰ったら結婚しよう」

「嬉しい……絶対に、帰ってきてよね……」


 エミルは涙を流し、行かないでと言わないように我慢して戦争へ行くラミルを見送った。ラミルも戦争なんか行きたくはなかったが、この国が無くなれば、エミルと住む場所が無くなってしまう。育った教会も好きだったので、いつでも残って欲しいと言う思いもあった。生きて帰ってくると強い思いを持って戦争へ向かい――――




 戦争の結果は負けた。自分の国が負けたのだ。




 敗走する兵士の一人として、ラミルは戦場から逃げ続けて、ようやく自分の国へ帰ることが出来たが――――既に攻め込まれた後だった。


「エミル――――!!」


 攻め込まれたばかりだから、まだ無事だと信じてここから連れて逃げようと走った。走り続けた。妻になる我が恋人のエミルがいる教会へ走り――――




「う、嘘だろ……」




 そこで見つけたのは、轟々と燃え続ける教会。どう見ても、教会にいる人が無事でいられるような場所ではなかった。それでも、ラミルは諦められず、その燃えた教会へ入ろうとした。だが、近くにいた住民に止められてしまう。


「駄目だ!! もう遅い!!」

「構うか!! 行かせろ!!」

「あぁ、もう!! 知らないぞ!?」


 止めた住民も余裕がないので、自分を放して何処かへ逃げていった。ラミルはすぐ教会の中へ入り、エミルを探し始めた。自分の身体が炎に燃え続けられても、足は止めない。そして、ラミルは――――




「エミル!?」

「ら、ラミル……?」


 見つけたのは、血反吐を吐くエミルの姿だった。背中には切り傷があり、兵士に斬られ炎を放たれたのだろう。


「ご、ゴメンね……ラミルが、無事で帰ってきたのに、私が駄目で……」

「エミル!! 死ぬな!! ここから連れて医者がいる所に!!」

「ゴメン、ゴメンね……。私はもう、無理だよ……」

「エミル!?」

「今まで、ありがとうね、幸せだったよ……」

「そんなことを言うなよ!! これからだろ!? 幸せになるのはぁぁぁぁぁ!! エミル――――!!」


 エミルの身体から力が抜け、手も地に落ちてしまう。エミルは死んでしまったのだ。






「エミル――――――――!!」






 轟々と燃え続ける教会の中でその叫びが響き続ける。ラミルも燃え続ける教会から脱出することもなく、その場でエミルを抱き続けて死んだ――――




――――死んだと思ったが、ラミルは闇の中にいた。

 ラミルはここが何処かわからず、虚ろな眼で前を見続けると……神が現れた。虚の神と呼ばれている邪神の一柱がいた。


 ラミルと言ったか? 今のお前は抜け殻のようだな。


 だ、誰だ……? もう放って置いてくれよ……。


 お前の妻を生き返らせたいと思わないのか?


 ッ!? な、なんと言った……?


 妻を生き返らせたくはないか?


 出来るのか!?


 あぁ、出来る。だが、お前の世界では今のままでは不可能だな。


 どうしてだ!?


 太陽神ミトラス、お前の世界を統治している神だ。そいつが死者を生者へ生まれ変われるシステムを破棄しているからだ。


 システム……? よくわからないが、そのシステムがあればエミルを生き返らせることが出来るんだな!?


 そうだ。その為、お前が邪神になり、太陽神ミトラスを消せ。そうすれば、システムを構築することが可能になる。やるか?


 やる! エミルを生き返らせることが出来るなら、神だって殺す!! だから、そのやり方を教えてくれ!!




 邪神である虚の神から邪神になる為のやり方を教えて貰い、長年掛けて邪神になって、力を蓄えてきた。太陽神ミトラスを殺せる力を手に入れるまでは大人しく力を蓄えてきた――――


 私はエミルを生き返らせるまでは、誰でもない様々な姿を持つ邪神アバターとして生きていく……。


 邪神アバターとなったラミルは、自分に力を貰いやり方も教えてもらった虚の神の目的は大体予測出来ていた。虚の神は別の世界で統治する邪神であり、この世界へ侵攻の為に自分を使っていることを。

 それでも、良かった。エミルを生き返らせて一緒にいられるなら――――






『太陽神ミトラスを殺し、この世界を統治出来るようになれば、何でも出来る!! 親しい友、恋人さえも生き返らせることが出来る!!』

「ふーん、興味ないな」

『なっ……』


 アリスとアバターの目的が違っている。アバターはエミルと言う女性を生き返らせたいようだが、アリスは――――




「俺の目的は人間の殲滅。お前の妻は人間だろ? だったら、そんなことをやらせる訳ないだろ?」

『なっ、待て!! 生き返らせたら、別の世界に移ってもいい!! そして、この世界にいる人間共は好きにしたらいいだろ!?』

「はぁっ」


 アリスは理解してないなと言いたいように溜息を吐いていた。アリスの目的、その詳細をハッキリと言い放った。






「言っているだろ。人間の殲滅をすると。この世界にいる人間だけだと限定・・していないだろ?」

『な――――――まさか!?』

「そう、この世界に留まらず、全ての世界にいる・・・・・・・・人間全てを殲滅するんだよ」

『馬鹿げている……』


 アリスの目的が全ての世界にいる人間を殲滅する事だと知り、邪神であっても馬鹿げていると言う。


「もう消えようか?」

『ぎ、ぎぁぁぁぁぁ――――!?』


 ミシミシと神核にヒビが入っていく。神核が壊れてしまえば、神であっても死ぬ。




「ばいばい。哀れな邪神よ」




 バキッと大きな音を立て、神核が破壊された。最後に『エミル……』と言葉を残していたが、アリスは気にしない。アリスにも邪神アバターと同じように生き返らせたい者がいるが、出来ない。

 その人が知っているのは、今のアリスではなく、ただの人形のアリスなのだから――――







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