第六十八話 魔王の参戦
はい、続きをどうぞ!
戦場に三体の魔王が参戦し、勇者達が小さな傷を作ることにせいっぱいだった、あの朱雀をあっという間に撃ち落した。魔王の口から裏切り者や魔王などと言っていることから、標的が人間ではないことに人間達は安堵するが、やはり恐怖が襲ってくる。それだけの差があることを示しているのだ。
「裏切り者と魔王は塔の中にいますね」
「塔を破壊したら?」
「三人で本気を出せば、なんとか倒せると思いますが、裏切り者に逃げられては叶いません。素直に塔の中を通って行きましょう」
塔を破壊するのは出来るが、破壊した瞬間に逃げられては困るので、向こう側の思う通りに塔の中へ入って行った方が良いと判断した。
「あの裏切り者、ヨハンは! 何故、こんなことを起こす!!」
「わからないのだから、聞いてから殺すのでしょう?」
「そうだよ~。これだけの被害を出したのだから、もう敵だよね」
三人は裏切り者だと思っているヨハンを止めるどころか、殺しに来たようだ。その三人が話している時、横から会話へ入ってくる者がいた。
『お主ら、ここの魔王を消しに来たのか?』
「あら、竜ごときが私に声を掛けるなんて、命はいらないのかしら?」
ガロだった。背中に乗っているリントは近くにいるだけで恐怖で叫びたくなるのを我慢していた。叫んだだけで殺されそうな気配が白と黒の翼を持つ魔王マリアにあった。
しかし、ガロとリントは殺されることはなかった。魔王フォネスが止めたからだ。
「雑魚に構っている暇はありませんよ」
魔王フォネスもガロには興味を持たず、二人を連れてさっさと塔に向かっていった。魔王が離れていったことに腰を抜かす兵士達だったが、まだ戦争は終わっていない。朱雀は地に落ちたが、まだ形は残っている。生きているかもしれないと思い、リント達は確認に向かったが――――
「……これはもう生きてはいないよね?」
『確かに。これ程とはな。魔王とは』
確認に向かったが、当の朱雀は氷漬けになって行動不能になっていた。全く反応を起こさないことから、既に事が切れていると予測できる。
朱雀を氷漬けにしたのは、魔王シルの王者能力によるものであった。王者能力『凍冷王』は精霊となった魔王シルの身体を水と氷へ変化させて、周囲にある水分と氷を支配することが出来る。朱雀の『愚氷』も魔王シルの支配下に入り、氷に対する耐性も奪われていた。そのせいで、耐性がなくなった朱雀は最後の攻撃で氷の種を植え付けられ、全身を中身まで凍らされて生命活動を停止させられていた。
「もうあの彼女達に任せた方がいいんじゃないの? 今回の魔王も彼女達ぐらいに強かったら、相手にならなそうだよ?」
『ヘタレたか――――と言いたい所だが、確かにこの実力では勝てないだろうな。しかし、見届けるぐらいはすべきだろう』
「私もそう思うな。魔王を殺したと別の魔王が言っても、こちら側はあっさりと信じられないだろう。実際に自分の目で見た方がいい」
「行くのはこのメンバーだけだな。あとは残った化物を片付けてもらうでいいか?」
まだ残っている幽腐鬼はリント達以外の兵士達や勇者達に任せ、リント、ガロ、ユアン、ビアド、ロキ、ゼルクのメンバーで塔へ突入することに。戦闘はおそらくあの彼女達に任せて、自分達は見届けるだけになるかもしれない。だが、行かなければならないという思いはある。
『行くぞ、飛べない奴は乗れ!』
ガロが先行し、飛べないユアンとゼルクも乗せて塔へ向かっていく。塔の入り口は彼女達によって破壊されており、ガロでも易々と入れた。
「これは、飛べなかったら一日で登れる気がしないぞ!?」
リントの眼には延々と続く長い螺旋の階段。塔の広さは東京ドームのと変わらなく、壁に階段が螺旋のようになっていた。それに、塔の天井が見えないぐらいに高かった。
『チッ、これも時間稼ぎの為か?』
『父さん! 俺達ならすぐ行けるよ!!』
こちらには竜が二体いるので、階段は不要でそのまま上へ向かって飛んでいく。天井が見えないぐらいの高さだったが、数分すれば、天井が見えるようになって、階段の終わりである穴に向かって行く。もしかしたら、罠一つはあるかもしれないと警戒していたが――――
「む、これは外の様子?」
『ここはまだ頂上ではないようだな』
「彼女達もいないようだし、まだ上があるな」
ここの階層は外の様子がわかる映像が映されていた。だが、誰一人もいなかった。階段も続いていたから、まだ上がある。
「うおっ!? なんだ、さっきの音は!?」
「上からだ!!」
『もう始まったのか!! 急ぐぞ!!』
上から爆音が聞こえ、もう戦いが始まったと思い、急いで上へ向かう。そして、すぐ天井が見えて穴へ突っ込んでいく。次の階層へ着き、皆の目には先程の三人の魔王が立っているのが見えた。そして――――
「えっ、倒れている者がいる?」
『魔人か……? さっきの白い男もいるな。そして、座っている奴が今回の魔王か』
「どういうことだ」
倒れている魔人が二人、フォネス達はヨハンを睨んでおり、王座のような椅子に座っている魔王はピクッと動く事も無く、虚ろな眼を浮かべていた。意味が解らないのは、魔王アリスが生気が篭っていない眼を浮かべていることだ。
「お前!! 何者だ!!」
「クスクス、ヨハンですよ」
「違う! ヨハンがこんなことが出来るはずがない!!」
「うん、『死紙王』では、あの剣を生み出せない。だから、別人なのは間違いない」
「で、誰ですか? 偽者のヨハン?」
そして、彼女達がヨハンのことを偽者、何者だと言っていたこと。ガロはヨハンを見ても、ヨハンだとしか思えなかったが、彼女達には別人にしか見えないのだろう。その理由は、魔王シルが言っていたあの剣のことにある。
「一体、貴方は何をしたいのですか? 今回の魔王のこと、そして、ヨハンに成り代わっている貴方は何者ですか!?」
「そうですね、もう正体を知って貰っても、問題はないか」
ヨハンはクスクスと笑いながら、生気のない魔王アリスの元まで歩いていく。さっきまで倒れていた魔人、バトラとマキナが声を上げる。
「ち、近付くな……」
「アリス様、に、触るな……」
近付くのを止めたくても、酷い傷で二人とも動けないでいた。深い切り傷があり、あの剣でやられたのはわかる。しかし、仲間ではなかったのかとリント達は疑問を浮かべていたが――――
突如にヨハンがいた場所の空間が崩れていく。崩れていくと言うより、剥がれていっているのが正しいだろう。そして、剥がれた場所に現れたのは、全身が真っ黒な子供だった。
同時期、塔から結構離れている場所にて、その様子を映像で見ていたゼロ達が椅子から立ち上がっていた。
「この魔力! まさか、ヨハンに成り代わっていたとは!」
「ようやく見つけたな」
ミディの屋敷で今回の戦争を映像で見ていたゼロ達だったが、長年も探していた敵を見つけ、あの場所に向かおうとしていたが――――
「なんだと、『理想神』が発動しない?」
「……こっちも転移が出来ない」
「なっ、この屋敷を取り囲む物はッ!?」
ミディは気付いていた。屋敷を取り囲むような黒い輪があり、ゼロ達を閉じ込める結界があった。そのせいで、ゼロ達は能力を使えなかった。
「残念ながら、君達はしばらくここで大人しくしてもらうよ?」
「ッ、お前は!?」
「久しぶりだね。ここにいるのは分身だけど」
ミディの屋敷にも映像と同じ黒い子供が現れていた。
「千年前から準備していた代物だ。神の身体を持たない君達には破れない。あとで相手をしてあげるから、今は大人しく見ているといいよ。クスクス」
「待て――――」
ゼロは消えようとしていた黒い子供を捕まえようとするが、スルリとすり抜けてしまい、笑い声を残して消えてしまった。
「くそ、邪神アバター!! 今度こそ、逃がさない!!」
ヨハンに成り代わっていた者、黒い子供の正体は――――千年前、戦争を起こした黒幕でもある、最悪な邪神のアバターであった――――




