第六十六話 朱雀
はい、続きをどうぞ!
王座の側に立つヨハン、外の様子に気付き感心するような表情を浮かべていた。
「へぇ、もう三体を倒したのか。今回は優秀な勇者が多いのだな」
いつもと違う口調のヨハン、側で王座に座るアリスの姿があったが、ピクリと動くこともなくその表情は影に隠れていた。
「少し早いが、朱雀の出番だ。ククッ……」
見えもしない外へ視線を向け、指を鳴らして嘲笑を上げる――――
戦場にて、指揮者であるオーラス殿下は疑問を浮かべていた。朱雀以外の眷属を倒したことは喜ばしいことだが、同時に疑問も浮かんでいた。何故、小出しにして四体同時に攻めてこなかったのかと。塔へ近付かせないように一体だけを側に配置していたかもしれないが、もし四体同時に攻めて来られたら、被害が今のより増えていた可能性が高かった。最後まで残ったあの朱雀に何かがあると思い立った頃、朱雀が動き始めていた。
「やはり、何かがあるのだな!? 何かをさせる前に倒せぇぇぇ!!」
勇者や聖騎士に指示を出し、朱雀をすぐ倒すようにと発したが…………
「なっ、倒した奴らが!?」
なんと、倒した白虎、青龍、玄武が宙に浮いて朱雀へ吸収されていくのだ。碌でもない結果が見えているので、吸収されている途中を狙って魔法を撃ち出して行く。だが、朱雀が黒い炎を纏い、魔法を防いでしまったのだ。
「魔法が駄目なら、竜騎士が行け!!」
「空を飛べる勇者もだッ!!」
飛べる者が剣や槍で黒い炎で燃え続ける朱雀へ攻撃を加えようとするが、突然に朱雀から吹雪が降り注いで体力を奪われてしまう。
「な、なんだそれは!?」
「う、うぅっ、体力が奪われているようです」
「いいから、早く倒せ!! もう時間が無いぞ!?」
「では、私が」
ユアンが前に出て、居合いの構えで朱雀を睨みつける。
「二之太刀、『霧雨』」
一振りだけで小さな斬撃が大量に朱雀へ降りかかる。まるで霧が掛かっているような感じだった。しかし、それが当たる前に朱雀は完成してしまった。
「コオォォォォォォォォォォッ!!」
さっきまでの朱雀は体長十メートル程だったが、今はその数倍はあった。それに両翼が黒い炎と青い氷となっており、黒かった身体も幻想的な色になって完成していた。
その朱雀が咆えるだけで、大量の斬撃が霧を払うように消え去った。咆えただけで技を破られたことに眉をピクッと動かしたユアンだが、すぐに追撃を行わなかった。
「あ、あぁっ、やらせてしまった……」
先程とは違う強さの威圧にオーラス殿下は脚を震えながら見上げていた。一体ずつ倒していくより、同時に攻略していくのが良かったと後悔しているが、もう成ってしまってはもう遅い。
「くっ、皆!! 温存している場合ではない! あの化物を魔王と思って、戦え!! そうでないと、死ぬぞッ!!」
「「「おう!!」」」
四体分の実力があると考えれば、ユアンやロイみたいに一人で戦うのは危険過ぎると判断して皆で挑むことにする。
「ま、また吹雪が来るぞ!!」
塔の中で待機していた二人、バトラとマキナは外の様子をヨハンが準備した映像投影機で写していたのを見ていた。そして、あり得ないことに二人は眉を潜めていた。
「どういうことだ……?」
「これは、アリス様のだよね。何故、ヨハンが?」
アリスと一緒にいた人だったら、すぐ気付いたのだろう。朱雀が使っている黒い炎と青い氷が『愚焔』と『愚氷』であることに。
それから、ヨハンが眷属を融合させていたのもおかしい。スキルを持っているのはアリスであって、ヨハンではないのだ。
「ヨハン、何かしたのか?」
「もしかして、上に来ては駄目と言われたのは……」
一ヶ月前から二人はアリスに会っていない。魔力を機械へ貯めるのに、高い集中が必要になるから研究者であるヨハン以外は上へ来ないようにと言いつけられていた。その兵器を改造したのはヨハンなので、アリスも兵器に詳しいヨハン以外、二人に上へ来ないようにと命令を下していた。
目的を達するために三ヶ月の我慢だと思っていたが、それが間違いだったのかと疑惑が浮かんでくる。
「……上へ行ってみるか?」
「行くよ! もし、アリス様に何かしていたらぶっ飛ばすから!!」
疑惑を晴らす為に、二人は塔を登っていく。何が起こったのか、何処かで違ってしまったのか、アリスは無事なのか。それを確かめる為に登っていく――――




