第五十八話 『傲慢王』
はい、続きをどうぞ!
ベルゼートと名乗る悪魔王の分身、その力は影を操る事にあるようだ。本体が影を実体として動いているのだからかわからないが、影を使って、攻撃を仕掛けてきた。140センチしかないクリスチャス王子と比べ、三メートルぐらいの大きさがあるベルゼートは王座に座っているクリスチャス王子を包むように守りながら、黒い鎌を振るっている。
『この数から逃れる事は出来るか?』
様子見と言うように、小さな黒い鎌が影から生み出されて、アリスを囲んでいた。
「はん、この程度で止まると思うな!?」
アルベルトとの戦いで手に入れた能力、中間を介せずに標的へ攻撃を届けることが出来る。それが囲んでいた黒い鎌を切り裂いた。ベルゼートの攻撃はそれだけではなかったようで、上から流星のように黒い物が落ちてきた。
「展開が速いな!?」
すぐ『超速思考』を発動して、攻撃の間を通ってベルゼートに攻撃を仕掛けようとしたが、敵の持つ鎌が発動する前のと変わらないスピードで攻撃してきて、驚いたアリスはすぐ距離を取った。
『『超速思考』を使えるとは、流石ですね。魔王なのは嘘ではないですね』
「ちっ」
アリスと同じ感覚で動けていた理由は、ベルゼートも『超速思考』のスキルを持っているからである。ベルゼートを無視して、試しにクリスチャス王子の腕を斬りおとそうと、爪を振るったが……
『無駄です。クリスチャス王子へ攻撃を届かせません』
「どういう原理だ? 中間を飛ばす攻撃を防ぐとは?」
『簡単なことです。この空間だけは私が支配しておりますので。私が敗れる以外に契約者へ攻撃を届かせる方法はある一部を除けば、殆どはありません』
ある一部とはどんな能力かわからないが、希少スキルでしかない魔王爪ではベルゼートを無視して攻撃を届かせるのは無理のようだ。
「なら、超速思考の中でどっちが先に攻撃を当てるか勝負だな」
『無駄です。スピードが同じなら、手数が多い私のほうが有利!!』
「それが本当か、試してやる!!」
手数を増やすなら、眷属を生み出せればいいが、眷属は『超速思考』の世界に入ることが出来ないので、足手纏いにしかならないのは見えている。
「これならどうだ!?」
アリスはベルゼートの周りを動き回って、大量の爪を飛ばしていく。威力は当たれば鎌程度なら破壊する事も可能ぐらいには高いのだが――――
『手数には手数です』
黒い鎌が爪より多く顕現されて、相殺されてしまう。それで終わらず、爪より数が多かった鎌はそのままアリスへ向かおうとしていた。
「手数が駄目なら、威力だ!!」
『威力には威力を――』
五本の爪に魔力を込め、回転することで全ての鎌を破壊したが、ベルゼートが持っていた大きな鎌で魔王爪と激突させると、爪が割れて、その衝撃でアリスが吹き飛ばされてしまう。
「がはっ!?」
『手数も威力も私の勝ちですね』
「うははっ!! 全く、相手になってねぇじゃん!!」
クリスチャス王子は王座に座ったまま、押されているアリスを嘲笑っていた。どうやら、クリスチャス王子はベルゼートを顕現している間は、全く動けない制限があるようだ。だが、今はベルゼートが優勢だったので、動けなくても問題はなかった。むしろ、魔王相手にこれだけの差で圧倒できていることに気を良くしていた。その調子で全ての魔王を殺し、世界を自分の手に入れることが出来るとまでと考えていた。
だが、押しているはずのベルゼートは手応えに違和感があった。
(おかしい。その身体に詰め込まれている魔力量と力量が釣り合ってない?)
ベルゼートは気付いていた。アリスがまだ本気を出していなかったことに。そのせいで嘲笑うクリスチャス王子と違い、ベルゼートはアリスが押されていようが、警戒だけは解いていなかった。
その警戒は当たっていたようで、アリスは膝を地に付きながらも、笑っていた。
「うはははっ、相手になっていないねぇ、やはりお前は強くはないな」
「はぁ? ベルゼートに負けているお前が何を言っているんだ? 頭が可笑しくなったか?」
「気付いてないのか。強くないのは、クリスチャス王子。お前の事だ。その力は悪魔王の力であって、お前の力ではない」
「貴様、俺が使っている力は偽者だと言いたいのか?」
「偽者ね、わかっているじゃないか」
「……さっさと殺せぇぇぇぇぇ!!」
もう話すのが鬱陶しいと言う様に、ベルゼートへ命令を出していた。この戦いをもう終わらせろと――――
「『激狂発作』」
切り札と言えるスキル、アリスは向かってくる鎌の先を見つめつつ、発動した。




