第五十一話 ヨハンの思想
はい、続きをどうぞ!!
「嘘だろ、赤の天使が……」
「思ったより強くなかったな?」
「ぐっ……」
アルベルトはまだ戦意を無くしておらず、アリスを睨んでいた。だが、両脚がなく能力も通じなかった相手に何も出来る事は無かった。
「そろそろ、死んで俺の糧になれ」
「いつか、俺の同士でもある勇者がお前を殺すだろう。地獄で待っているぞ!」
「地獄で待っているね、しばらくは行く予定はないな。さらばだ」
アリスはアルベルトの首を斬り、魔力も余すこともなく吸収した。さっき魔力の上限量に達したといえ、スキルを使えるようになるための基準であって、アリスの魔力限界量ではない。なので、一滴も漏れずに吸収できた。
「そういえば、新しい能力を使えるようになったよな……」
「おめでとう」
後ろからパチパチと拍手をし、お祝いの言葉を送られた。知っている魔力だったので、慌てることも無く振り返ると予想していた通りにヨハンがいた。
「アルベルトが天使を召喚出来るとは聞いてないぞ」
「今まで隠していたのでしょうね。しかし、アリスは圧倒したのではありませんか?」
「まぁ、そうだが……」
褒められているが、ヨハンが何を考えているかわからないので素直に喜べないでいた。そして、約束していた事を果たす事になる。
「約束は守ります。この『魔王の証』をあげましょう」
「それは嬉しいが、ヨハンが何を考えているか教えてくれないか?」
「そうですね、私は魔神ゼロ様の配下でした。それは知っていますね?」
「そうだな。今はいないんだろ?」
「――――ゼロ……は生きていますよ」
「は?」
意味が解らなかった。魔神ゼロは勇者王カズトに破れ、消えたと聞いている。なのに、ヨハンは魔神ゼロがまだ生きていると言う。
「言っておきますが、魔神ゼロ様は間違いなく、勇者王カズトに負けて消えました。それは世界の知る真実です」
「……まさかと思うが――――」
負けて、消えたなら魔神ゼロは死んだのは間違いない。だが、ゼロは生きているとヨハンは言った。さっき、魔神ゼロ様の配下と言ったのに、ゼロとも言っている。アリスが思いつくことがある。
――――なら、生き返ったと?
「考えていることを当てて見せます。ゼロは生き返ったと思っていますね?」
「違うのか?」
「少々、違います。ゼロは日本でまた転生して、能力を使って、ここに来ているだけです」
「はぁ!?」
また転生したことに驚いたが、日本で生まれて能力を使えたこともビックリだ。日本はスキルみたいな能力は全くないのだから。そして、この世界に来ていると言った。
「今、ゼロはこの世界にいるのか?」
「ええ、アリスと会う前に挨拶しに来ていました」
「すれ違っていたのか……。しかし、嬉しそうじゃ無そうだな? 普通、主が生きて帰ってきたなら、嬉しそうに話さないか?」
ヨハンの表情は嬉しそうな表情どころか、無表情で少し見下しているようにも見えた。昔から仲が悪かったのかと思っていたが――――
「私にとっては残念なことですが、あの人はゼロであって、魔神ゼロ様ではありません。人格や記憶はそのままでも、もう魔神だった頃のゼロは消えていました。それが残念で仕方がありません」
「……つまり、今のゼロは自分の主でないと認めてないということ?」
「そうですね。今のゼロは人間と敵対をしないと魔王ミディの思想を汲んでいます」
ヨハンは残念そうに教えてくれたが、どうしてゼロやミディを裏切る形に、勇者王の子孫を殺せと条件を出したのかわからなかった。
そして、自分の手助けになることをするのか?
「ただ、私はそこまで悲観になってはいません。何故なら、貴方がいますから!!」
「――――は?」
さっきと違い、嬉しそうな表情になって笑顔さえも浮かべていた。アリスはその表情をどこかで見たような気がする。勇者王の像を見て、憧れるような、信者みたいな……
「アリス――――いえ、これからはアリス様と呼ばせて貰います。アリス様は、魔神ゼロ様だった我が神を凌ぐ程の才能をお持ちになっている。そして、魔王になって人間を殲滅したいと聞いたときは心が震えました」
「なるほど、そういうことか……」
ヨハンの思想がわかった。アリスに第二の魔神ゼロになって、人間を殲滅して欲しいと考えているようだ。それに、魔神ゼロを凌ぐ程の才能があるとは言い過ぎだが、アルベルトを殺せる実力もあるから人間を殲滅させるなら有望らしい。
「この『魔王の証』を渡した末に、お願いがあります。魔王になったら、この私をアリス様の陣形にお加えを宜しくお願い致したい」
「配下になりたいと言う事か?」
「はい」
アリスは驚いた。まさか、魔王を配下出来るとは思っていなかったからだ。しかも、千年前から生きており、実力も高くて知識も結構ある。こっちを讃える表情を見れば、裏切る可能性が見えない。その好条件にアリスは断る選択はなかった。
「わかった。これからも宜しくな」
「はい、これが『魔王の証』となります」
ヨハンから黒いカードを渡される。
「普通の『魔王の証』は紅い珠ですが、この『魔王の証』は以前、魔神ゼロ様が使っていた物であり、このように変異しております。違う点は、闇の残滓という魔力を大量に込められており、アリス様ぐらいの才能と可能性が無いと身と心を喰われて仕舞うほどに危険な物です」
「……俺なら耐えられると?」
「はい、大量の魔力を持っていることと別に、異様な魔力も感じます。おそらく、闇の残滓を大量に取り込んでいるせいでしょう。闇の残滓を大量に取り込んでも、アリス様は自覚を保っております。なら、この『魔王の証』でも耐えられます!!」
「それは可能性があるだけだろうが……まぁ、更に強くなれるなら、受け入れてやる!!」
耐えられる可能性があるだけで、完全に安全だと言い難い代物だが、アリスは既に受け入れる覚悟を持っていた。普通の『魔王の証』を使うより更に強くなれるなら、問題はなかった。
黒いカードを受け取った後、核がある右眼の側に近づける。距離が10センチも無くなった先に、吸収し始めた。
「――――――――――――――――…………む? あっさりと吸収し終わったな?」
「素晴らしい、あれだけの魔力をあっさりと吸収してなお、まだ余裕があるとは……」
感覚的に強くなったのはわかったが、身体に変化は無かった。何か新しいスキルを手に入れたと言う事はなかった。
「何も変わって――――お、称号が魔王と載っているな。確かに、魔王になったのは間違いないが……見た目の変化がないとなんか、寂しいな」
「いいえ、アリス様は異様な進化しており、魔王になった程度ではそうそうと変わらなかっただけかと思います」
「魔王になった程度ねぇ……おっと、忘れちゃ駄目な事があったな」
アリスはアルベルトが使っていた魔剣、『聖錬剣』を吸収するのを忘れない。魔王が使っていた能力を取り込んだといっていたから、とても強い効果があるだろうとワクワクしていた。
早速、吸収し終わったら、壁に向かって試してみる。
「えいっ!」
壁から数十メートルは離れていたのに、一瞬の間で爪で斬られた様な跡が出来ていた。
「これは、王者能力『武蓮王』の能力に近いですね」
「知っているの?」
「はい、千年前に人間の魔王がいました。人間とも仲が良かったので、自分の力を込めた魔剣を誰かに渡していた可能性がありますね」
「へぇ、この力は便利だな。中間を無くす能力って、あまり聞かないな」
試し切りを終わらせたアリスは配下になったヨハンを連れて、まだ戦っている二人の下へ向かうのだった――――
まさか、ヨハンがアリスの配下になることになりました!!
予測していた人はいたかな?




