第四十七話 別の魔王
はい、続きをどうぞ!
「魔王を倒す……? それが魔王になる条件なのか?」
「そうだな、正確には魔王が持つある証を殺して奪うことだ」
ある証と言われても、わからないが、魔王を殺せばわかることだろう。しかし、そのためには魔王と会う必要がある。そして、勝たなければならない。
「ええと、聞いていいかな? 魔王は何人いるの?」
「お前は、前の大鬼か。というか、見た事が無い種族だな」
「あ、はい」
「まぁいい、魔王をやっているのは八人だ」
今の世界は、八人の魔王がいる。アリス達が知っている魔王は千年前から生きていて、人間も良く知っている魔王二人のミディとニオキス、さっき会った魔王フォネスだけだ。他に表立って活動しない魔王も数人はいるだろうと予想していたが、八人もいるとは思わなかった。
「半数は魔神ゼロの配下だった者だから、ほとんどは千年前から生きているぞ」
「魔神ゼロはそんなに沢山の魔王を配下にしていたのかよ?」
「いや、少し違うな。最初はほとんどが少し強い魔物や人間を配下にして、強くしていた。元から魔王だったのを配下にしたわけでもないし、魔神ゼロは化物じみた能力を沢山持っていたから、出来た事だが」
本当に、魔神ゼロと言う人物は化け物だったらしい。人物と実際に出会った事がある人の言葉は何やらと現実感がある。
「殆どが千年前から生きている魔王って、厳しくない?」
マキナは経験が厚い魔王が多数いる中で、その一人を倒さなければならないことに恐縮していた。確かに、戦いは経験が多いほどに有利なのは確かだ。アリスは王者能力を持っているが、魔王の力は未知数で経験も全く掛け離れ過ぎている。戦うとしたら、アリスに勝ち目があるのは何処なのかわからなかった。
「三百年程度の魔王もいるが、私には何処にいるか知らないから教えられん」
「ん、知っていたら、教えてくれたのか?」
「ミディ様が気に掛かっている奴に悪態を尽かないさ」
「そうなのか、それは助かるが……魔王の居場所を知らないと会うことは出来ないな……」
「いや、その魔王の居場所は知らないだけで、知っている魔王もいるぞ?」
「もしかして、千年前から生きている魔王……?」
「そうだ」
ナガレの言葉にバトラは顔を青くしていた。アリスが強いといえ、千年前から生きている魔王とは敵対したいとは思っていなかった。魔王になりたいアリスは――――
「そうか、その魔王の名は?」
「魔神ゼロの配下だった魔王、ヨハンだ」
ヨハンと名が出た瞬間に――――
「何か用か?」
「っ!?」
突然に聞こえた声へ眼を向けると、真っ白い服を着た男性がいた。魔力を感じさせる事も無く、一瞬で現れたことに驚いた。転移をして来たとしても、転移した時に発する魔力の残滓が現れるはずが、それが無かった。
「ヨハン……いや、本人はここにいないな」
「本人がここにいない?」
「ただの映像だ。それよりも、用があるのではないか?」
現れたのは、さっきまで話していたヨハンと言う魔王のようだ。だが、映像とは意味がわからなかった。それに動揺しつつ、何とかヨハンに話しかけてみる。
「用があったと言うか、魔王になりたいからその方法を聞いたばかりなんだ」
「魔王になりたい? ……そういうことか。ナガレ、私の住処まで案内してあげなさい」
「わかった」
「では」
ヨハンはそう言うと、姿が消えたかと思えば―――1枚の紙になって消え去った。
「紙?」
「アレは、ヨハンの能力だ。紙から映像を出しただけで、本人は別の場所にいる。招待されたが、行くか?」
「あ、あの、招待の件を断ることは……?」
「無理だな。ヨハンが何を思ってなのか、わからないが、直接に話をしたいのは間違いないだろう」
「はぁ……」
バトラがびくびくとナガレに伺ったが、断れないと知り、諦めを含んだ溜息を吐くのだった。ナガレは「転移するぞ」と言うだけで、全員の足元に魔方陣が現れる。その一瞬で、アリス達は何処か建物の中にいた。
「転移は本当に一瞬だな……」
「こっちだ」
ナガレは何回か来た事があるのか、迷いのない足運びで、廊下をさっさと進んでいく。アリス達はそれに着いていき。
廊下は殺風的で何も置いておらず、いくつか扉を素通りしていく。何本か曲がり道を曲がった後に、一つの扉が勝手に開いてく。
「連れてきたぞ」
「ご苦労」
開いた扉の先には、ヨハンが立っていた。さっきの映像と変わりのない姿で、アリス達を待っていたという感じだった。
「早速、魔王になりたいのはその娘で間違いないか? 一応、自己紹介しておくが、私は魔王の一人、ヨハンと言う」
「俺はアリスだ。魔王になりたいのは間違いない」
「そうか。それにしても、お前の魂は面白い構造をしているな。まるで、あの方の様だ――――」
ヨハンは何処か嬉しそうな表情を浮かべているように見えた。その表情は一瞬だけで、元の無表情に戻った。
「さて、魔王になりたいのだったな。それには、証が必要になるとナガレから聞いたな?」
「そうだが、魔王を倒さないと駄目だよな。もしかして、お前が相手をしてくれるのか?」
「ふっ」
ヨハンは微笑を浮かべて、手元を胸の近くまで上げると……何かが現れた。それが何かに気付いたナガレは驚愕していた。
「っ!? まさか、それは―――」
「なんだ、カードみたいな物は? 魔力がとんでもないのはわかるが……」
ヨハンの手に現れたのは、黒いカードみたいな物だった。魔力が大量に詰め込まれているのはわかるが、アリスはそれが何なのかわかっていない。
「これが、お前が望んでいる魔王になる為の証だ」
……は? あれが、魔王になる為の証?
ナガレの話では、魔王を殺さないと駄目だと聞いたのに、ヨハンの手には魔王になるための証がある。本物なのかと疑っていたが、先にヨハンが教えてくれた。
「安心しろ。これは本物だ」
「殺さないと奪えないのではなかったのか?」
「あぁ、ナガレからはそう聞いているのだな。それは、嘘ではない。私の持つ魔王の証は、中にある」
魔王の証を持っていない手で自分の心臓がある辺りを指していた。つまり、ヨハンの物は中にあるということ。なら、その手元にある物は――――
「二枚目の魔王の証だ。今は誰にも使われていない物だから、すぐ使える物だ」
「……何か条件があるのか?」
二枚目があるなら、何も無理に戦って奪う必要はない。アリスをここに呼んだならば、二枚目の証を渡す意思は僅かながらもある可能性がある。しかし、それには条件が付くのが想像できる。
「わかっているようだな。条件と言うほどではないが、お前の力を見せて貰う。そして、実力があると理解したら、これを渡そう」
「実力を見せろと言う事か。なら、相手は誰だ? お前か?」
「いや、私の能力は相手の力を見るには向いてないから、戦わない。単純なことだ、勇者を一人殺してくればいい」
「ヨハン……何を考えている?」
ヨハンが出した条件にナガレが目を鋭くして、咎める様な声質になっていた。
「何も。魔王の誰かを指定しても、何処にいるかわからないだろうし、知っている魔王は殆どが千年前から生きている化物だ。そんなの相手をさせるのは可哀相じゃないか? 勇者なら、今のアリスならいい勝負になるだろう」
「……それだけか?」
「他に何が?」
「…………いや」
ナガレは追求を諦めた。本当の目的が見えないが、ヨハンが口を開くとは思えなかったからだ。ナガレからの追求がもうないと理解したヨハンは再び、アリスに向き合った。
「どうだ、やるか?」
「やるぞ。お前が指定する勇者はただの勇者じゃないだろうな?」
「そうだ。召喚されたばかりの勇者ではない。ある二つ名を持った少しは有名な勇者だ」
「ほう、何処にいる?」
アリスは既にやる気満々だった。バトラとマキナはその様子を見て、ヨハンと戦わないことに安堵しつつ、次の戦いでは活躍して、アリスの助けになれるように頑張ろうと思うのだった。
「『勇者王の子孫』の二つ名を持っているアルベルトだ。その勇者は、魔神ゼロ様を倒した勇者カズトの子孫だ――――」




