第四十一話 vs魔王フォネス
本日三話目!!
突然に現れた魔王フォネスに計画を邪魔され、殺せた人数は予定の半分に減らされてしまった。しかし、魔王が人間を守るとか予想は出来ないのは仕方が無いだろう。魔王は人間の敵だと知っていたが、魔王フォネスにとっては、この国に守りたい物があったのかと気に掛かった。
「邪魔をしてくれたな。しかし、何故、魔王が人間の国を守る?」
「あら、小さい子がリーダーなの。……魔力も一番高いみたいね」
「質問に答えるつもりはないのか?」
「質問ね、人間はどうでもいいけど、貴方はやり過ぎなのよ。近くに九尾族の集落があるのだから、騒ぎをあまり大きくしたくはないよね」
近くにある九尾族の集落はフォネスが世界中に散らばっていた九尾族を保護して、生活できるまでは庇護していたのだ。
もし、アリスが騒ぎを大きくすれば、人間の国から討伐隊が出されて、集落が巻き添えになってしまう可能性がある。それを望まないフォネスは止めに入ったのだ。出来れば、一発目も止めることが出来れば良かったが、距離があったため来るのに時間が掛かってしまい、間に合わなかった。
「なるほど。で、お前はこれからどうする?」
「わかっているでしょ? 放っておくには、貴方は危険過ぎるわ。だから、ここで消えてもらうわ」
「そうか、そうか……死ね」
アリスは相手が魔王だろうが、敵なら容赦はしない。負けたら終わりなのを理解しているからだろう。魔王爪を伸ばして、空中に立っているフォネスへ攻撃を届けようとする。
しかし、その攻撃はあっさりと避けられた。舌打ちし、隣を見るとバトラとマキナは顔を青くして身体が震えていた。フォネスの『威圧』による効果だと理解し、アリスだけで闘うことに決めた。
「お前らはアレを壊せ! それぐらいなら出来るだろ!?」
「アリス様!? 一人で魔王と――――」
「今のお前らじゃ、足手纏いだ!! いいから、さっさといけ!!」
「わ、わかった」
「はい……」
二人には勇者に関する魔道具の破壊を任せ、アリスは一対一でフォネスを倒せなくても時間を稼ぐつもりだ。
「貴方は逃げないのね。その心意気に免じて、王者能力は使わないであげるわ。使ったら、弱い虐めになりそうだもの」
「王者能力だと?」
「その反応、貴方は持っていないのね。簡単に言えば、希少スキルよりも強力なスキルだと思えばいいわ」
アリスは王者能力のことを知らない。だが、言葉から強力な能力だと判断できる。それを使われないなら、魔王が相手であっても善戦は出来るだろうと思っていたが――――
「こっちよ」
「っ!?」
短距離転移でフォネスはアリスの後ろへ移動していた。声を掛けてこなかったら、防御が間に合わなくて、死んでいた可能性が高かった。防御が間に合ったアリスだったが、ただの裏拳で20メートルも吹き飛ばされ、木々が折れていく。
「これで終わりなの――――お?」
この感触から、この程度の魔物だったら終わっているとわかっていた。だが、あっさりと反撃を食らっていたことにフォネスは驚いていた。魔力を燃やす『愚焔』をフォネスの右腕に発火しており、今も魔力を燃やし続けていた。
「これは、魔力を燃やしているのね。私は焔に関する攻撃は無効するはずなのに、これは通っちゃうのね」
フォネスはロドムがやっていたのと同じように右腕に魔力を纏い、その魔力ごと捨てていた。アリスの反撃はそれで終わらず、森の中から遠距離で『愚焔』と『愚氷』を発動していた。『愚氷』は進化した時に手に入れたスキルで、魔力を燃やす『愚焔』と違い、『愚氷』は凍らせた部分の体力を消費させる。
二つの効果を持った焔と氷がフォネスへ襲う。
「面倒なスキルをお持ちなのですね。魔力の盾で防げるのかな」
試しに魔力の盾を顕現したが、焔だけを受け止め、氷はフォネスの身体まで通った。だが、あっさりと氷は砕かれて、消費した体力は僅かだけだった。
「なるほど、なるほど、焔は魔力で氷は体力を消費させるのですね。次はこうすればいい!!」
今度は隣にあった木を片手で折り、魔力を纏うことで今度は二つのスキルから盾にすることが出来た。あっさりと対策されたアリスだったが、今は時間稼ぎをしているので構わない。
アリスは何を待っているのかは――――
ドオオオォォォォォン!!
星神宮から爆発が起きた。それは二人が達成した証拠である。アリスはすぐ星神宮から漏れ出る魔力の全てを吸い取る。
「っ!? その能力はゼロ様のと――――」
「『狂気発作』、『激昂発作』!!」
「!?」
遠距離から攻撃して来なかったアリスが突然に近距離から攻撃へ行動してきたことと、更に先程より格段に強化してきたことに驚いていた。一瞬でフォネスの腹へ拳が打ち込まれ、さっきのアリスと同じように20メートルほど吹き飛ばされていた。
だが、アリスはこのまま手を抜かずに続けて攻撃を加えていく。
「魔王爪、ぶっ飛べぇぇぇぇぇ!!」
星神宮にいた死体から吸収した魔剣の効果は、剣先そのものを飛ばす能力だったので、今は爪そのものを飛ばせるようになっていた。斬撃ではなく、爪本体を飛ばしているので、威力はとても高い。それが吹き飛んだ場所に向かっていき、向こうから何かを吐き出すような音が聞こえた。当たったのは確かだが、それだけで終わったとは思えない。
アリスが思っていた通りに、フォネスは少し血反吐を吐いていたが、身体はほぼ無傷に近かった。ダメージが無かったというより、すぐ回復したのが正しいだろう。
「驚いた。貴方の実力は魔王に迫る程の強さがあるわ」
「ちっ、無傷な姿で出てきて褒められても嬉しくないな」
「でもね、やっぱり魔王には通じないのよ」
アリスはわかっていた。フォネスは今まで手加減していたことに。そして、これからフォネスの強さの一部だけを見せられることになる。瞬きの時で魔力の剣が生み出されて、アリスの目の前へ出てきた。
「っ!?」
「遅い」
前に現れたフォネスだったが、爪を前に出している間に後ろへ移動し終わっていた。今のアリスは元の十倍も強化されているのに、反応することが出来なかった。背中から斬られたが、アリスは『斬撃無効』を持っているから、ダメージを受けていない。すぐ爪を後ろに向けていたが――――
「貴方は状態異常の強化を使っているのに、理性を失わないのね。更に斬撃を無効するか」
「ぐっ!」
アリスは咄嗟に高速思考で追いつこうとしたが、後ろから前へ移動したフォネスには追いつけない。今度は剣ではなく、拳で頬を殴られた。身体は追いつかないとわかり、すぐダメージを逃がせるように首を回していた。その早い判断でアリスは首が吹き飛ぶことはなかった。
手を動かしても追いつかないなら、爪だけを曲げて動きの短縮を計ろうとした。
「爪だけで動かせるとは思わなかったわ」
「クソ、早すぎんだろ!?」
当たったが、服だけを斬っただけでフォネスにはダメージが通っていない。それ以上に、動きが早すぎる。今のフォネスは『高速思考』の上、『超速思考』に瞬間に移動できる脚力があり、一段階と下がるアリスはフォネスに追いつけないのだ。
王者能力を使わなくても、スピードだけでアリスを圧倒している。それを理解しているアリスだが、今はやれることは少ない。
「殴れば、ダメージは通るみたいだからとりあえず、ぼこるね」
アリスはスピードが違う相手に諦めず、爪を振るい続けた。その時間は数分。
「もう終わりね」
木を支えに座り込むアリス。痛みはないが、殴られてばかりで衝撃が身体の芯を揺らされてダメージを受けていた。そのため、脚が上手く動いてくれなくなってきたのだ。
誰が見てももう終わりだとわかる状況で、フォネスは止めを刺そうと、アリスの元へ歩いていく。
「アリス様をやらせない!!」
「はあっ、なんで魔王と戦うことになるんだろう……」
星神宮から戻ってきた二人はアリスがやられるのを見ていられず、思わず魔王の前へ出ていた。
「私の狙いはその子だけよ。無駄に殺すの趣味じゃないから」
「それでも、アリス様はやらせないです!! アリス様は世界の頂点に立つお方なのです!!」
「まあ、死んででも守るとまでは言わないけど、こいつには恩があるんでね」
「お馬鹿さんだね。そういうの嫌いじゃないけど……」
フォネスは魔力弾を撃ちだし、アリスから二人を剥がすように吹き飛ばす。それだけで二人は動けない程にダメージを受けていた。
「仲間に想われているわね、貴方は。仲間と大人しくすれば良かったのに、どうしてかしら? もし、これから大人しくして、監視を認めるなら、見逃すことも考えてもいいけど?」
「……くくっ、大人しくだと? それは無理な相談だ。俺には、人間に復讐すると、決めたんだぁぁぁ!! 人に言われたから、はいそうですと言うと思うなよ!!」
「残念だわ――――あら?」
地中から魔力を感じ、それがアリスの元へ向かっていることに眉を潜めたが、何もしなかった。それが驕りだったことに気付かず――――
「ようやく来たか」
町から帰ってきた人形、数百人の魔力をぱんぱんと詰め込んだ人形がだ。人形から魔力を全て吸収し、力を溜めていく。
「これが貴方の最後の切り札かしら? その魔力量なら進化が出来るわね」
「進化は……しねえ」
「え?」
進化はしない。フォネス相手に進化しても、本気で王者能力を使われたら、確実に負ける。なら、油断してもらっているうちに、今の全力を打ち込んだ方が勝ち目は僅かだがある。
右手の爪に全ての魔力を集めて纏める。爪に数百人分の魔力を纏めるのは初めてだが、なんか出来るような気がした。
「喰らえ、俺の全開だぁぁぁぁぁ!!」
フォネスはここから避けることも出来るが、周りに被害が広がるのを防ぐために、受けることに決めた。さっきの爪より高い威力があるのは理解できたが、魔力の盾で受け止められると判断した。
魔力の盾が一瞬で構成され、爪と盾が衝突しようとしていたところに――――
爪に黒い焔が纏った。魔力を消費させる焔、それが魔力で出来た爪に纏う。そんな矛盾が起きたが、魔力の爪には弱っていく気配がなく、盾だけを消していく。
「なっ」
「これで、決まれぇぇぇぇぇ!!」
盾は切り裂かれ、爪はフォネスへ届いた。そして、爆発が起きて二人の周りに黒い煙が漂う――――




