第二十二話 笑う執事
本日二話目!
「痛てぇぇっ……、何も殴ることはなかったんじゃないか」
「黙りなさい。貴方は無闇に注目を集めさせて、何がしたいのよ!!」
殴ったのはメアリーだったようで、リントは頭を摩りながら答えていた。3人は大騒ぎになったギルドから素早く抜け出して、受けたクエストをこなしに、街の外へ出ていた。
「だってさ、あのパーティ名は考えた中で1番良いと思っただけだもん」
「だもんって、貴方はね……」
「もしかして、カズトが神の使徒だったことに繋がりがあるのか?」
「そうさ! 神の使徒でミトラスに選ばれたと聞いていたし、憧れの勇者を目指すためにやれることはやりたいじゃないか!」
「それで、あのパーティ名か……」
リュグは納得したが、渋い顔をしていた。『太陽の使徒』はリントだけではなく、パーティ名であることから、リュグとメアリーも含まれるのだ。
簡単に言えば、恥ずかしいと思っていた。
「なぁ、クエストが終わったら、名前を考え直さないか……?」
「なんでだよ。決まったもんは決まったんだから!」
「はぁっ…」
リントは頑として変えるつもりはないようで、リュグは諦めたように溜息を吐いていた。
「もういいわ……、さっさとクエストを終わらせて、宿に帰りたいわ…………って、何を黙って考え込んでいるのよ?」
メアリーはまだクエストをしてもないのに、疲れたような雰囲気だったが、黙ったリントに訝しむ表情を向けていた。
「あ、いや。さっきの依頼について考えていたんだよ」
「ん? 正体不明の魔物か魔人が集落を潰し回っていることか?」
「それもあるけど、1つのパーティがまだ帰ってきていない。なんか、嫌な予感がしないか?」
「む、冒険者が帰ってこないことは珍しくはないが……、正体不明であることが気になるな。潰された集落を調べれば、少しは情報がありそうなんだがな」
リュグも情報の少なさに気になったようだ。今ある情報は、数々の集落が潰されており、奇妙な死体が残っていた。全ての死体は魔石が残ったままで、魔物か魔人の仕業だと考えている。
「何か無ければ良いんだがーーうおっ!?」
「じ、地震!?」
地面が大きく揺れ、2人はバランスを崩して座り込んでいた。リントだけは遠くを見るような視線で立ち尽くしていた。大きな揺れは長く続かず、少しずつ小さくなっていった。
「地震? 千年前も大きな地震があったと聞いたことがあるが……、まさか、何かの予兆が?」
「わからないわ。でも、これだけ大きい地震は千年前の地震以来から一度も起こっていなかった筈よ」
「多分、この地震は人為的な物だと思うよ。向こうから巨大な魔力を感じたから、その人がやったんじゃないの?」
「巨大な魔力だと?」
「…………よく感じ取れたわね。山を5つも越えた先から僅かに感じ取れるわ」
リントだけ、山を5つ越えた先で巨大な魔力が現れたことを瞬時に悟っていた。これだけの距離があったら、すぐに感じ取ることは普通は出来ないことである。
まさに、『特別な勇者』と呼ばれるぐらいに素質が高いのは納得だ。
「あー、小さくなっていくからもう探し出せないな。しかし、凄い魔力だったねー」
「凄いで済まないわけじゃないでしょ! アレが魔物か魔人だったら危険よ!? 今からギルドに帰って、伝えに行くわよ!!」
「えっ!? 依頼はーー」
「そんなのは後よ!!」
メアリーに引き摺られて街へ向かう中、リントは嘆きながらも大人しく引き摺られているのだった。リュグは苦笑しながら、それに着いて行く…………
しかし、さっきの地震と巨大な魔力は何だったのか?
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ホホッ、漲って来ますね!!」
「また現れたかと思えば…、ラスボス感を出してどうしたいんだよ!?」
2人が目的地へ向かっている途中で、ロドムが現れた。そして、そのロドムが急に抑えていた魔力を解放し始めていた。
ラスボス感を出そうとしているのか、魔王の部下であるロドムは手を大きく広げて内なる魔力を増大させていた。抑えていた魔力を解放した瞬間に、地響きが鳴り響いて地面が大きく揺れた。ロドムのことを知らないバトラは格上の化け物が現れたと身体を震えて涙目になっていた。
もう、ここまでなんだ……と悟り始めていた頃に、増大されていた魔力が小さくなっていく。魔力で威圧になっていたのが弱まり、バトラは固まっていた身体が動くようになり、腰を抜かしていた。
「ったく、何をしたかったんだよ? まさか、登場のためにやっただけなら、周りの迷惑を考えやがれ!!」
「あ、アリス!?」
巨大な敵にそんな口を発するなんて、自殺行為だと止めようとするバトラだったが、まだ腰を抜かしているので動けないでいた。
バトラの想像に反して、ロドムは笑うだけだった。
「ホホッ、地震を起こすのが目的でしたので。聞いたことはありませんか? この世界で地震が起きることは、何らかの予兆だと知らせるのと同義だと」
「はぁっ? そんなの、俺が知っているわけないだろ。バトラ、そいつが言っていることは本当なのか?」
「あ、はい……」
おっかなびっくりで短い返事しか返せないバトラだったが、アリスはそんなことは気にしない。ロドムが言っていたことは本当のことだったとしても、何のために?
「これぐらいの地震は千年ぶりになりますが、その時代は何があったかは?」
「…………真実か知らんが、魔神ゼロが現れ、勇者カズトが英雄になった時代だな」
「そうです! その時も魔神ゼロによって起こされた地震がありました。そう、今のようにッ!!」
此処まで聞いて、アリスは1つの推測を思いついた。目の前にいる笑う執事がやりたいことに。
「まさか、あの時のと模倣しているつもりか?」
「ホホッ、そうです。私は予感を感じています! その時代と同じことが起きると。なので、貴女の存在を地震によって、予兆を世界に鳴り響かせました!!」
「世界って、この地震じゃ、近くにある幾つかの街に届いただけだろ。この予兆を知らせることに意味があるか知らんが」
「それは、後の楽しみですな。これで、私はやる事が終わったので戻りますね」
「本当に地震を起こすだけが目的だったのかよ……」
ロドムの目的、アリスの代わりに世界へ予兆を知らせる地震を起こすことを終わらせたロドムは、主人の元に帰ろうとする。だが、それをアリスは止めていた。
「あ、待ってくれ。頼みたいことがある」
「ホホッ? 何かありましたかな?」
目の前の少女が助けを求めることなどはしないと思っていたので、ロドムは何を求められているのか想像できていなかった。次の言葉が予想外だったようで、ロドムは呆気に取られることになる。
「簡単なことだ。バトラに着させる執事服というか、燕尾服を何着か寄越してくれ」
「「はい??」」
バトラとロドムが声を揃えた瞬間であった。
「ホホッ、確かに似合いますな!」
「うんうん、そうだろ」
「なんで、こうなるの……?」
バトラは困惑していた。化け物が現れて、恐怖に動けないバトラだったが、今は燕尾服を着せられていた。
意味がわからないとアリスに目線を向けていたら、説明してくれた。
「初めに会った時から、執事に似合いそうだと思ったから、着させてみただけだ」
「それだけで……?」
他に名前も執事の英語であるバトラーから取り出したことも起因にあるが、それは言わない。
それよりも、執事の真似事をしてみて欲しいと頼んでみた。
「では、アリス様のことをお嬢様と呼んで如何?」
「えぇと、お嬢様……?」
訳もわからないまま、ロドムの言う通りにやってみたが…………表情は困惑のままで敬っている雰囲気などは全くなかった。
「なんか、似合わねー。今までの喋り方に慣れてしまったからなのか、違和感しか感じないな……」
「おいっ、やらせておいて、その感想はどうなんだよ」
ここまでやらせておいて、違和感が感じるとか似合わないと言われるとか、バトラは心に傷が付きそうだった。
「あー、その喋り方のが安心するわ。執事の真似事はその格好だけでいいや」
「ホホッ、楽しませてくれた礼に、その燕尾服は差し上げます。その燕尾服はただの服ではなく、破けても自動で修復し、防御力も少しありますので、下手な防具よりは強いです」
「おい、高性能だな」
意外にも高性能だったことに驚くアリス達。これで用は終わったのことで、ロドムは影の中に消えていったのだった。
「思わずの登場だったが、燕尾服を貰えただけでも利得があったか」
「こっちはまだ何だかわからないままなんだけどな……」
アリスとロドムの関係が良くわからないバトラは疲れた表情だった。もうそういうのは勘弁だと思いつつ、アリスと一緒にいたらまた遭遇するだろうと予感していたーーーー
次は明日の朝7時になります。




