第十八話 vs冒険者 前半
本日一話目!
ヤバい。
アリスと言う魔物に出会ったアズク達の感想だった。特に闇に深い右眼が危険だと警鐘を鳴らしていた。近くにオーガもいたが、それが霞むほどにだ。種族でいえば、オーガの方が上のように見えるが、あの少女みたいな人形の眼から視線を離せないでいた。そんな存在から声を掛けられた。
「そこにいるのは誰だ?」
アズク達の判断はすぐ行動に移していた。そう、逃走だ。森の中を逃げ回り、街まで走ろうとした。アズクが少女から視線を外そうとした時、少女が何かを投げているのが見えた。
その物体は、アズク達を超えて落ちてきた。その物体とは、体長が20~30センチしかない人形で、全身が真っ白だった。
「何それーーーー動いた!?」
「ッ、魔力を持っているぞ!!」
白い人形はむくりと起き上がったかと思えば、顔には口しかなく、ただ白いだけの存在だった。魔術師のゼアクは白い人形に魔力が備わっているとすぐにわかった。
その魔力を持つ真っ白な人形が口を三日月に歪めるとーーーー
「全員! 防御をしろぉぉぉぉぉ!!」
ゼアクがそう叫び、皆が防御を固めた。白い人形は急に光り出した後にーーーー爆発が起きた。
「ぐぅっ!?」
爆風で4人とも森から出されて、平地へ転がっていく。ゼアクが叫んでくれたお陰で、重傷を負った者はいない。皆が無事だったことに安堵するアズクだったが、安心出来ない状況だったことを思い出した。
「どうだったかな。俺の人形爆弾は」
「ッ、お前は……」
近くから声を掛けられ、4人とも体勢を立て直し、それぞれが武器を構えた。目の前にいる少女はそれに合わせて、魔力を纏う剣を構えてきた。
「ふむふむ、4人のパーティで近距離タイプが3人、遠距離タイプは1人か」
「言葉を……お前は上位の魔物か、魔人のどちらだ?」
答えてくれると思っていないが、逃げ道を確保しなければ……
「それに答えると思っていんのか? それに、お前達はすぐ死ぬから知っても意味はないさ」
「答えないか……、リン! お前は街へ向かえ!見た情報を伝えーー」
「そうさせるかよ」
少女は近くにあったオーガの部位をを両手に持ち、さっきのと同じ白い人形を創り出していた。
『人形遊戯』の『人形作成』で、オーガの部位を材料にして人形爆弾を作成し、自分達を挟む位置へ投げてきた。
逃げ道を塞がれたか!?
「逃がさないよ。森に逃げようとしたら、爆発させるよ。ただ、こっちに向かってくるなら、俺が直接に相手をしてやろう」
挑発だと理解しているが、爆弾になっている人形の方へ逃げれば、重傷を負ってしまうのは先程の爆発で理解している。なら、目の前にいる少女を倒さなければならない。皆は覚悟を決め、少女と戦うことに決めたーーーー
こちらに武器を構えてきた冒険者に対して、アリスはあるスキルを発動したまま、観察をしていた。
(蒼の濃さで強さが変わる? 白は弱く、蒼が濃いほどに強いって感じかなぁ)
新しいスキルである『白蒼魂視』は、魂に現れる色で強さを知ることが出来る能力だ。白く見えればアリスより弱く、蒼は自分より強いということ。
ただ、アリス自身が強化された場合は色が薄まったり変わったりする。
目の前にいる冒険者は全員が蒼の色で、自分より強いのが理解出来る。
「お前達は冒険者で強い方かもしれないが、俺には勝てないぞ。バトラ、怪我をしている盾の奴をやるよ」
「まぁ、それぐらいなら」
バトラも強化してない状態では、冒険者の方が強いと本能で理解していた。怪我をしている人なら互角に戦えるといった所だ。
「3人は俺とやろうぜ。『狂気発作』!!」
5倍の力に増して、蒼だった色が薄くなって、蒼より白に近い色に見えるようになった。自分が強化すれば、色も変わっていく。
狂気状態で5倍の力へ高まり、手に入れた『蛇曲剣』を持って突っ込んでいく。
「早い!?」
「させるかッ!!」
「ダルク!?」
盾持ちのダルクが皆の盾になるように前へ出てきた。怪我をしているが、盾で皆を守るぐらいならわけでもない。剣と盾が衝突し、あまりの重さにダルクは顔を歪むが……耐えた。
「ハアァァァァァ!!」
「うぐっ!?」
アリスは更に力を込め、力尽くでダルクごと盾を吹き飛ばしていた。力を出した瞬間に、アズクが剣で斬りかかってきたが、右手の『魔爪』で受け止めていた。
「なっ、狂気状態じゃないのか!?」
「甘えよ!」
蛇曲剣が隙だらけの脇腹へ向かう所だったが、魔力を感じて、咄嗟に離れていた。
アリスがいた場所に圧力が掛かって、地面が凹んでいた。離れた隙に、アズクは後ろにいた2人と合流していた。
「ゼアク、助かった!」
「いえ。それにしても、興味深いですね。『狂気発作』を使って、狂気状態なのに、明らかに理性がある」
「厄介だね。知性と理性があり、高い力も早さを持っている」
狂気状態なのに、理性が残っていてスキルも使えたことに疑問を浮かべていた。それよりも、力と早さが確実にアリスの方が上だ。
アズク達にとっては、ダルクも合流して相手をしたいのだが……
「コイツも強い!」
「まぁ、アリス程ではないけど、お前よりは強いのは確かかな?」
ダルクは吹き飛ばされた先にバトラが待ち構えていて、一対一になっていた。ダルクはすぐに皆と合流をしたかったが、バトラがそうさせてくれなかった。そのバトラが思い出したように、戦闘中なのにアリスに顔を向けて話してきた。
「そういえば、名乗らないの? ネームドモンスターとやった時は名乗っていたみたいだけど」
「はぁ? 何故、わざわざ名乗ってやる必要があんだよ?」
「畏怖させる意味があるとか」
「それは有名になっていなかったら駄目じゃないのか? ふむ……、やってみっか?」
「そうですねー」
気が抜けそうな会話に冒険者達は呆然としていたが、アリス達は気にしてなかった。
「さて、少しは俺のことを教えてやろう! 俺は生まれて間もない、ただのネームドモンスターでアリスと言う。目的は人間への復讐だ!」
「私はアリスの配下、バトラね。目的は……う~ん、アリスが何かを起こすとこを見てみたいかな」
呆気に取られていたが、目的が人間への復讐と聞き、冒険者は身構えていた。人間としか指定されてないことは、人間の全てを敵に考えているとも取れる。アズクは唾を飲み込み、気になったことを質問してみた。
「あんたは人形の魔物だよな……? 復讐は捨てられたからか?」
人形の魔物にありがちなことで、捨てられたことに恨みを持ち、魔物化することも珍しくはない。森の中で捨てられることは少ないから、数は少ないが…………
「ふん、捨てられたからではないぞ。話はもういいだろ、お前らに教えてやる義理はねぇし」
「待っ」
「待たねえよ! 死ね」
アリスの行動にバトラも動き始める。武器を向けられ、アズク達も武器を構えなおす。ダルクが前にいない状態では、剣士のアズクが出るしかない。ゼアクは魔法の詠唱に入ったが、完成する前にアズクの正面にアリスが現れてしまう。アズクは小さな盾を上げ、防御しようとする。
「ほらぁ!」
「『身体強化』!」
強化していなければ、ダルクみたいに吹き飛ばされるのはわかっていた。力が増して、受けても大丈夫だとアズクは判断して防御に入ったがーーーー
アリスの剣がぐにゃりと曲がった。
盾を避けるように、剣本体が曲がってアズクの顔へ向かおうとしていた。それが見えたアズクは驚きながらも、無理矢理に後ろへ下がっていた。
「ほぉ? 浅い傷で済ますとはな」
避けたおかげで、頬に一本線が出来ただけで済んでいた。追撃をしようとしたアリスだったが、横からまた魔力を感じて、追撃を止めて剣を振っていた。
ガチッと火花が散った。
そこには、バンダナを巻いた少女のリンがいた。短剣でアリスを狙っていたが、こっちに向かっていた剣を受けていた。
「隠密か」
「うげっ、見破るの早いよ~」
「早く離れろ!!」
「うわぁっ!?」
先程みたいに剣が曲がり、そのまま脚を斬ろうとしたが動きが早くて無傷に避けられてしまった。関心していたら、今度はアズクの後ろから強い魔力を感じた。そこには、魔法を完成させたゼアクがいた。
「押し潰れなさい、『豪風堕』!!」
空から密集された風の魔法が落ちてきた。アリスを押しつぶそうとの魂胆だったが…………
「『魔爪』、『一文字』ぃぃぃ!!」
一本に集中させた爪が魔法を切り裂き、霧散させていた。
「なっ!?」
「弱い、人間はその程度か?」
「どうやら、様子見をしている余裕はないみたいだな」
リーダーであるアズクは様子見を止め、本気で行くことにするようだ。不気味であったアリスにどんなスキルがあるか調べておきたかったが、その調子では、こっちがやられると理解したのだ。
アズクは初めから決めていた合図を出した。それを見たリンは頷く。
「死ぬなよ!」
「ああ! 確実に届けろよ!」
そして、後ろを振り返って走り出した。脚が早いリンは集めた情報を街に届けるために、この場から離脱するのだ。
「逃すと思っているのか!」
「行かせない!」
アリスがすぐリンを追おうとするが、アズクが止める。
「ちっ、しょうがねぇな……」
アリスは自分で追いかけるの諦め、近くにあった兄オーガの身体を持ち、人形に変えた。先程の白い人形ではなく、関節が多い化け物の人形が出来ていた。
「行け」
それをすぐに森へ投げていた。凄いスピードで飛んで行ったため、魔法で撃ち落とすことは出来なかった。
「あっちは人形に任せることにするが、お前らは逃さねえぞ!」
アリスは使い慣れてない剣を使うの止め、両手に『魔爪』を構えた。アズクとゼアクも集中を高め、アリスと相対するのだった…………
次は昼12時になります。




