第十五話 ギルドの発令
本日四話目!
「あんな切り札もあったんだな。それにしても、強すぎだろ」
「ん~?」
「アリスは元はただの人形から狂人形に変化したんだよな?」
「さっき、話した通りにな」
ここへ来る前に、アリスが初めはただの人形だったことを話してあった。だが、バトラは今みたいに魔素と魔力を吸収出来る能力があったとしても、これだけ蹂躙できる程に強くなれるとは思えなかった。まだ何かがあると感じていた。
だが、それを知る方法はバトラにないので、その疑問は後にすることに決めた。とにかく、今は味方なのだから、それだけ強いのは好ましい。
「ネームドモンスターだけあって、魔素と魔力が沢山あるね!! オーガの集落にネームドモンスターはいないよね?」
「あぁ、残念ながらな」
「ちぇっ、ゴブリンやオークよりは多いだけでもマシと考えるか」
オーガは魔物の中でも中堅と言えるぐらいに強いが、アリスにとっては餌にしか見えていなかった。バトラはその考えを諌めることもなく、様子を見るだけに留めた。
アリスなら、オーガ相手でも蹂躙するように動き回れるだろうの確信があった。
「お待たせ!」
全ての魔物から吸い取り終わったアリスは、オーガの集落に行こうと笑顔で催促する。バトラはその笑顔の裏に狂気が潜んでいるのを知っているので、和ごめなかった。
「何処の誰がこんな化物を生み出したんだか……」
「ん~? なんか言った?」
「いえ、なんでも。次に行こうか。距離は大体半日ぐらいかな」
「いざ、出発!」
次はオーガの集落を潰しに、脚を進めていく。アリス達が集落を潰すことに集中している中、人間の街ではーーーー
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リディア王国のギルドにて、発令が発された。正体不明の魔物か魔人が魔物の集落を潰し回っている可能性が出た。
このつい、数組の冒険者がいくつか潰された集落を見つけたことから始まる。潰された集落が1つや2つだけなら大騒ぎにならなかっただろう。だが、今回は潰された集落が5つ以上に昇り、死体も意味不明だ。
発令されたクエストの内容が、正体不明の魔物及び魔人の調査であり、見つけたら絶対に討伐しなければならないわけでもない。危険度はBでなかなか高い基準となっている。
その発令を聞いた1つのパーティは酒を飲みながら、話し合っていた。
「ふむふむ、その正体不明の魔物及び魔人の調査をするクエストか。無理に戦わなくてもいいなら、受けるか?」
「すまねぇな。怪我をしていなければ、戦っても良かったがなぁ」
「馬鹿なの? もし、魔人だったら私達じゃ勝てないわよ」
「うむ、まだ魔物か魔人かわかってないから、戦うのは避けるべきだ」
皆を纏める剣士のリーダーであるアズク、盾役で武器を持つ側の右手を負傷しているダルク、頭にバンダナを巻き幼さを残す女性のリン、黒いローブを着て、冷静に判断する魔術師のゼアク。この4人がパーティを組んでおり、発令があったクエストを受けようとしていた。危険度はBだが、このパーティはBランクの優秀な冒険者達でもあるのだ。
「準備はもう終わらせてあるから、行こうか」
「そうだな。まず、東から調べてみようぜ」
「ダルクはお留守番をした方がいいんじゃねぇ?」
「いや、俺もどんな魔物か気になるしな。それに、新しい盾は1つだけで攻撃と防御が出来るから、戦いは問題ないぞ」
「問題ありだろ。まだ新しい盾に慣れていないだろう? 防御だけに専念していた方が吉だ」
新しい盾は買ったばかりで、慣れてないのは確かである。それに、余程の事がなければ、他の仲間がここら辺の魔物程度は簡単に片付けるだろう。
「うーむ、わかったよ。ゼアクが言うなら、そうした方がいいだろうな」
「あぁ、無理はしないでくれ」
「脚を引っ張るなよ?」
「何ぉう!!」
今みたいにダルクとリンがたまに揉めるが、パーティの仲や連携は良い方である。他のパーティも発令されたクエストを受けて、バラバラの方角へ向かう中、アズクのパーティは東へ向かっていく。
「なぁ……、なんか様子がおかしくないか?」
東にある森の中へ入って半日経った。そして、森の様子がおかしい事に気付いた。一先に気付いたのは、リーダーのアズクだった。それに皆も同意する。
「確かに、魔物の姿が見えねぇや」
「こんなことはあり得るのか?」
「余程強い魔物が近くにいるか、何かに駆逐されたか……死体がないから、前者の可能性があるな」
強い魔物、魔人だとしたら集落を潰した奴かもしれない。その可能性があり、周りを注意深く観察してみる。そこに、リンが何かを見つけた。
「なんだこりゃ? 槍っぽいな」
「全てが鉄で出来ているな。いや、ボロボロだから、ただの鉄屑だな」
「なんで、こんなにあるんだ? 他の冒険者の物にしては、槍ばかりだし、全てが鉄で出来ているのはあり得ない」
人間が使う槍は、全て鉄で出来ている訳でもない。鉄だけではなく、他の鉱石を混ぜているのが普通であり、鉄だけで出来た槍なんて、人間には重すぎるだからだ。なら、この槍はーーーー
「魔物か魔人が使っている奴で間違いないな」
「なんで、ここに捨てられているように、置いてあるの?」
「わからんが、ここで何かしていたのは間違いないはず。槍か……」
「なんだ? 何か気になることがあるのか?」
リーダーのアズクは考え込んだ。集落にあった死体は、斬られているのと無傷の二種類だと聞いている。つまり、槍で串刺しにされていた死体はなかったという事。なら、この槍は関係ないのか……と考えていた時にーーーー
「っ!? 聞こえたか!?」
「あぁ、向こうからか……」
雄叫びの様な音が森の奥から聞こえてきた。それに気付き、警戒しながら近づいて行く。
「ちょっと待った。ここからは『隠密』を使うから、手に捕まっていろ」
リンは盗賊や暗殺者がよく使うスキル、『隠密』を発動した。発動すれば、気配が薄くなり姿を見つけにくくすることが出来る。
音が聞こえた場所まで行くと、森から平地になった。その平地には、藁や木で作られた家があり、ゴブリンの集落よりも広かった。
それよりも、トンデモないことが起きているのがわかった。
「何あれ……」
「オーガの死体だらけだな」
「しっ! まだ向こうで戦いの音が聞こえている!」
広場だと思える場所では砂煙が盛り上がって、戦っている音が聞こえーーーーなくなった。
「音が止んだ?」
「終わったみたいだな……よし、森のギリギリまで行き、姿を確認してみるぞ」
「了解」
森と平地の境界線ギリギリまで近づき、何者か調べに行く。そして、その姿が見えるようになった。
「っ!?」
「アレは……小さな少女?」
見えた姿は、右眼が欠けている小さな少女がオーガの首を掴んで、心臓へ爪を突き刺している所だった。
「なんか、関わっちゃ駄目な気配がするが……」
「ヤバいヤバいよ! すぐ逃げようよ!!」
4人共、その少女がヤバいと理解していた。すぐにこの場から離れようとしたがーーー
「そこにいるのは誰だ?」
その少女の顔はこっちへ向いており、その欠けた右眼は4人がいる場所を射抜いていたのだったーーーー
次は昼12時です。




