第3話 行動を共にすることに
目が焼けるような痛みに転げ回る事、数分。ようやく目が馴れてきたかと思ったら目の前には浅黒い人の掌が迫っていた。逃げなければいけない。でも逃げられるほど根性も座ってなければ、腰は抜けている。
「まあ、目の前で人が死なれるくらいなら俺が死んだ方が楽かもな。あんたが死ななくて良かったぜ、じゃあな」
ストンと肩の力が抜けていく。今なら殺されても良い。いつの間に自分を殺そうとする奴の心配なんかするほど優しくなったんだろうか。あはは、可笑しいな。
「………」
「……?」
おかしい、いつまで経っても攻撃が飛んでこない。死ぬ覚悟で現実から目を背けていた瞼をそっと開けると浅黒い人は無防備にもその場で横になって寝ていた。
「……殺さないのか?」
「……」
返事はしてくれないようだ。しかし彼がいつ気を変えて襲って来るか分からなかったが、逃げたら自身の存在を隠すために俺を殺しに来るだろう。それは間違いない。ならば、いっそのこと彼に近づいてみよう。同じ人間なら、話は通じるはずだ。
「…えっと、こんにちは?で通用するのかな…。こんにちは、俺は御影晴彦って言います。浅黒い肌のお兄さんはなんて名前…でしょうか」
俺が挨拶をして自己紹介をしていると彼の顔がこちらを向いた。
「教えると思うか?」
「うーん、どうかな。ここで逃げたら絶対に教えてくれないし、てか存在を隠すために俺を殺しに来るだろうし、理由は知らないけど殺されるくらいなら仲良くなれないか?ほら、同じ人間なんだから話し合いで解決できないかな?」
「俺が、人間?あいつらと同じ人族に見えるのか?」
「見えるよ。肌の色なんか俺の知ってるところにはもっと黒い人が居るし体格も大きいけど人間のそれでしょ。何が違うの?むしろ俺、間違ってる?なら申し訳ないことをしたなぁ」
「そんなに早口でまくし立てるな、そうか、お前は何も知らない。今のご時世でそんな奴も居るのか。ふはは、良いぜ。殺さないでやる。その代わり、暫く行動を共にしてもらう。街には帰れないからな」
「本当に?」
俺は聞き返してしまった。彼はそれを不安で怯えているのかと思ったようで「あァ、残念だなぁァ」と皮肉に笑ってきた。しかし本当のところは違っている。こんな前も後ろも分からない状況で誰かと一緒になれるというのは、何よりも嬉しいことなんだ。
「えぇっと、名前を教えてほしいです。俺のことは晴彦って呼んでもらえると嬉しいですから」
「ああ?まだそんな事言ってんのかよ。しかも、よく見たら全然悲観してねぇな。むしろ嬉しそう?訳わかんねぇ野郎だ」
「あっ、お兄さん何歳?」
「は?毎回毎回話題を切り替えるのが早いな。24歳くらいだな」
「おお、俺もそのくらいだから敬語外して良いですか?」
「今更だろ!?お前何回か既にタメ利いてるからな!?」
彼は突っ込み気質、ツッコミ役なのかもしれない。そんなどうでも良いことを考えれるほどに彼に対しての恐怖心や緊張はほぐれていた。
「名前ないと不便だからさ、兄貴って呼んで良いか?」
「なんで兄貴なんだよ」
「だってそんなマッスルボディ見ちゃったらそう呼ぶしかないじゃないか。ふふ、宜しくね。兄貴」
「訳わかんねぇ」
一先ず、名前を教えてくれるまでは兄貴で固定しよう。
こうして兄貴と俺は場所を移すことにした。いつまでもここに立ち止まっているのは危険だ、あのくそ野郎達がここにまた戻ってくるかもしれない。急いで場所を変えなければ、安心して寝ることも出来やしない。