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幼き慕情、春に抱かれる  作者: くじら
5/10

《5話》少年は風を呼び



風が驚くほど

暖かくなっている。


もうすぐ冬が

終わるのだろうか…?






「あ……。」



沙枝はこの日も、

樹にもたれて眠る少年に触れようとして

我に帰った。


心臓の鼓動が痛い、

すごくうるさい、

身体の芯が

熱くなるようだ。


これは何かの病なのか?

だとしたらなんて心地の良い病なんだろう。

沙枝はそう思った。


彼女は少年を

起こすことはせず、

幹の反対側に回って

腰を降ろす。


晴れ渡った空に

飛行機雲が線を描いて、


穏やかで、

あたたかな日だった。


そんな空気が

気持ちよくて、

沙枝も樹に身体を預けて目を閉じる。


まるで樹に抱かれているような感覚。



生命の

強さやあたたかさが

身体に伝わって

来るようだ。


沙枝はゆっくりと

深呼吸をした。



風が驚くほど

暖かくなっている。


もうすぐ

春が来るのだろうか…?




---………





「ん……。」



いたずら好きな風が

少年の髪を撫でて、

彼はふと目を醒ました。

風が、驚くほど

暖かくなっている。



「もうそろそろだね…」


そう呟いたところで、

少年は反対側から

かすかな息遣いを聞いた。


樹に身体の預けて、

沙枝が眠っている。


閉じられた瞼が、

さらさらの髪が、

優しい息の音が、


少年の瑠璃の瞳に

それはそれは

気持ち良さそうに

美しく映った。



「君も眠って

いるのかい…?」



少年は樹に触れながら

語りかける。



「だけどそろそろ

起きなくちゃ…。

春になる仕度を

しないとね。」



それから、少年は

沙枝を見つめて

寂しげな表情になる。



「もうすぐ冬は

終わるんだ…。」



沙枝はもちろん

何も答えず、樹と共に

すやすや眠っている。


その表情がすごく

幸せそうで、少年も

胸があたたまるような

感覚になった。


トクン…と、

かすかな高鳴りを感じる。


少年には、その高鳴りの意味がわからなかった。



「もう少し…

もう少しだけ

眠ってもいいかな…?」



少年はそう言って

ひとつ欠伸をして、

そのままゆっくりと

地面に腰を降ろす。



沙枝の隣に。





「君はあったかいね…」




その言葉を

誰に言ったのかは



少年にも

わからない。





---続




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