《1話》少女は冬と対峙する
こんにちは。このページを開いていただき
ありがとうございます。初めての連載小説に挑戦します。
更新が遅かったり、
誤字脱字があったり、
見苦しい文章だったり、
いろいろあるかとは思いますが、読んでいただければ幸いです。
誤字脱字の指摘、
感想など遠慮なくお寄せください。
桜の木の下には、
死者が埋まっている。
いつか、母からまことしやかにそう聞かされて
以来、沙枝は西の丘の桜の木になんとなく近づけなくなっていた。
もっとも、その桜はとうに枯れており、今は花どころか葉さえつけない
有り様。
ただただ、太い幹だけを丘に落ち着けながら
佇むだけである。
十三の冬のある日、
沙枝はその桜の木と
対峙していた。
彼女自身、母親の話を単なる迷信だと気がついたのは最近になってからである。
それまでの恐怖心が嘘のように、沙枝はひどく
冷静だった。
ただ、その生を失った太い老木の肌に触れ、
春になっても花開く
ことのない桜に
沙枝は一抹の寂しさにも似た感情を抱いていた。
「………!!」
人の気配がする…。
沙枝は一瞬にして
神経を尖らせた。
息遣いが聞こえるのだ。
それも幹の反対側から。
沙枝はゆっくりと回り
込んで様子を窺う。
「あら……。」
まず目にしたのは、
雪のような色の髪。
閉じられた目の瞼の先、
髪と同じ色の睫。
規則的でやわらかな
寝息。華奢な身体を
幹にあずけて座り、
ひとりの少年が
眠っている。
その時、沙枝に恐怖や
警戒の念は無く、
眠る少年の姿や彼を
取り巻く空気が、
清らかで、あまりにも
綺麗で、純粋に美しいと
感じていた。
まるで創るべくして
創られたような美。
身じろぎ一つ、呼吸一つ、冬の木枯らし一つで
それは壊れてしまい
そうだ…と、沙枝は
しばし動くことが
できない。
「…………。」
しかし同時に、彼女は
少年に触れたくて
仕方なかった。
それはきっと本能。
沙枝はすやすやと眠る
少年に向かってゆっくり
手を伸ばす。
人差し指の背が少年の
頬に、ほんのわずかに
触れる。
「つめたい…。」
沙枝は刹那、
呼吸も忘れていた。
その時、乾いた北風がサァッと吹き抜けて
いった。
風に誘われるように、
少年の瞼はゆっくりと
開かれる。
それは、蕾が花開く
瞬間によく似ていた。
「あ…。」
少年は頬に触れている
沙枝の指先を見て、
小さな声を上げる。
「あ…っ…
ごめんなさい…!!」
我に帰った沙枝は慌てて手を引っ込めて謝った。
改めて二人の目が合う。
すると、少年の瞳が
ぱっと明るくなり、
その表情が歓喜に
染まっていった。
「君だ……。」
沙枝の目を真っ直ぐに見つめたまま、少年は
ゆっくりと立ち上がる。
沙枝は再び、少年の
瞳の麗しい輝きに
魅入った。
「やっと会えた……!」
少年はそう言いながら、ゆっくりと、一切の
躊躇のない動きで
目の前の沙枝に両手を
伸ばす。
「ずっと待ってたよ…」
彼のしなやかな手は
優しく沙枝の頬を
包み込んでいた。
「え……?」
少年の指先が少しだけ
冷たいと、
沙枝はそれだけをゆっくりと感じた。
--続