うそつきの笑顔
「私やっぱり裕太のこと好きなんだよね!」
「そうか。」
「えー、反応冷たいー。」
「気のせいだよ。」
いつもの公園。
いつものベンチ。
いつもの二人。
放課後のそこで、僕と美香はいつも通り美香の好きな裕太の話をしていた。
僕たちは周りからはお似合い夫婦~、だとか、男女の友情のいい例だ、とか皮肉のような褒め言葉をよくもらう。
僕はそうは思ってない。
所詮幼なじみ、その程度にしか思っていない。
「んでー、今日裕太が私に…」
美香は相変わらず僕に構わずのろけだす。
そもそも美香と裕太は付き合ったりしてるわけではないのだが。
「そういえばおばさん。元気?」
僕の母は体が弱い。
風邪でよく体を壊す。
今も体調を崩している。
「今日ご飯作ってあげる。帰ろ!!」
美香はそう言ってすっと立ち上がり、笑顔でこちらを向く。
僕も従って立つ。
二人並んで僕の家へ向かった。
ご飯を作ってもらって食卓を囲む。
それも昔から。
二人で部屋で話す。
それも昔から。
異性として意識してたつもりがなかったから今まで気付いていなかった。
でも最近、美香から裕太の話を聞かされ続けて気づいた。
僕は美香が好きらしい。
けど美香はそれに気付くこともなく、気付かせるつもりもなく、
僕は隠し続けた。
好きな人の好きな人の話を聞かされる。
付き合ってる訳ではない。でも他の人から見たら付き合ってるように見えるような生活がもどかしくてしかたなかった。
いっそのこと僕たちの一緒にいる時間が減ったらいいんじゃないかとも考えた。
好きと気付いてから、毎日が遅く感じた。
ただただつらかった。
でも僕は笑顔を作り続ける。
彼女の喜ぶ顔を失いたくなかった。
そんなある日、僕は噂を聞いた。
裕太が美香を好きらしい。
好きというより狙っていると。
それからはあっという間だった。
二人は付き合い始めた。
その日の放課後。
「私ね、裕太と付き合うことになったの。」
「おめでとう。」
「なんか、冷たいな~」
「そんなことないよ、美香が嬉しそうな顔を見ていて僕も幸せだって」
「大げさだよ。」
僕は笑った。
うそつきの笑顔。
美香の笑顔のために。
僕はうそつきの笑顔を作り続けた。
いつもの公園。
いつものベンチ。
いつもの二人。
昔の二人じゃない。
昔の二人はもういない。
僕は新しい二人と目が合う。
「お似合い夫婦だね。」
うそつきの笑顔で。