5話 柊先生の夢って・・・。
聞こえてくるものはいいことばかりじゃない
現実はつらいもの
でも、そこから見つけるものは
本当の愛と確信・・・
椿くんに接近して10日目が経つ。
作り上げた先生と生徒の関係は、いまだに壊れてはいない。
だけど、涙を流しそうになったあの日から7日間。
椿くんとは挨拶はしても授業も話もしていない。
というか私から避けてしまっているのだ。
この関係をどうにか保ちたくて。
でも、なぜかなにもしないだけでこんなにも距離を感じる。
自然消滅。
そんなことを思うと今度こそ涙が出る。
今日は図書室に行ってみることにしてみた。
そこにいたのは。
「柊くん・・。」
「やっときましたね。泣き虫さん。もう、何日も来ないので椿があなたのためなんかに心配をしていましたよ。」
そうか。椿くん心配してたんだ。
「ごめん。ちょっと用事があって・・。」
少し嘘をついた。でも用事はあったから。
机に向かい座る。
教科書とノートを広げ授業が始まった。
熱心に柊くんは教える。
「ストップ。なんでここでこの方式を使うんですか?よく考えてください。」
「わかってるよ!」
なんどもいわれなんども書き直す。
それを続けていくごとに宿題をざっと1時間で終わすことが出来た。
「柊くんって本当の先生みたい。ははっ」
特に厳しいところが、でもわかりやすく教えてくれる。
「・・・ありがとうございます。一応私の将来は・・その。」
「柊くんの夢って・・・先生!?」
「はい。」
私は苦笑いをした。
もしかしたら、私に教えてくれてる理由って柊くんのため?
そう思うと、お兄さんの思いとすこし悲しい想いが突き上げる。
涙ぐんでしまう。
「そっか。柊くんならなれるよ!」
「・・・」
彼は何を思ったのか私をじっと見つめた。
メガネに隠れる心を見透かしてしまうような綺麗な目。
椿くんにそっくりでそっくりで
胸が痛くなる。
「では、いい頃合ですし帰りましょう。」
「ぅん。」
柊先生はどこまで知っているのかな?
何でも知っていそうで恐いな。
帰り道。
「あの・・・なんで同じ方向に向かっているんでしょう?」
「駅が同じだからでしょう。」
なぜか、隣に柊くんがいる。
まぁ、椿くんのことを知るいい機会かもしれない。
「ねぇ。椿くんっていつも姿勢が悪いよね?」
「そんなわけないでしょう。椿はいつも姿勢を正しています。」
「えっ?でも、授業中いつもおこられてるよ?」
柊くんは手を顎にあてた。
後ろは誰ですかと聞くので私と答えると、ぽんと手のひらに拳を乗せる。
「椿は優しいので黒板の見えないあなたのためなんかにわざとしているんではないでしょうか?」
心が温かくなる。
常々、そうなんじゃないかと浮かれていたけど、柊くんに言われたおかげで少しほっとした。
「そっか。椿くんいつもやさしいもんね。だから、人気者なのかな?」
「それは、そうでしょう。椿は私の自慢の兄ですから。でも、狙う奴は許しません。」
これまた問題発言。
に聞こえてしまう。こういう人なんだろうと諦める私もどうだかと思うけど・・
少し無言の時間が経つ。
「あの・・・あなたにあって考えていたのですが、どこかで見た記憶が・・」
不安な鼓動が高鳴る。
「なっなに?」
「泣き虫さん。前に図書室であっていませんか?私の記憶が正しければ、あなたは本を落としていたような・・?」
「っ!」
現実を知った。
なんとなく分かっていたけど聞けずにいた。
椿くんだと思い込んでいた人は柊くんだった。
「・・・」
だから、柊くんが好き?
わからない。
「・・もし、あの時の私が椿だと思っていたのなら、いいんじゃないんですか?恋の始まりなんてどーでもいいでしょう。」
柊くんは私が椿くんのこと好きなことを知っていた。
「そんなっ!どーでもなんて。」
「じゃあ、私を好きになれますか?なれないでしょう。あなたが今椿のこと好きなことには変わりない。」
・・・
「私は柊先生、ご指導ありがとうございます。」
「うむ。よろしい。」
本当に先生みたい。
少し戸惑ったが好きなことには変わりなんてない。
好きなのは、朝日向椿くん。