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eye  作者: いるか
10/10

私がボロボロと涙をこぼしていたら、彼がゆっくりとまぶたをあげた。


私が大好きな目で、私を見た。


どんどんどんどん涙は溢れる。


「どうした?」


彼は寝ぼけ眼で優しくいった。


私はスプーンを握りしめたまま、彼に抱きついた。

彼は衝撃で息がつまったのか、うっ、と声を漏らしてから、私の背中をさすった。

とてもやさしい手だった。

涙が止まる気配はなかった。

視界の端で、自傷した部分から血がだらだら流れていた。


数十分たった(私の感覚では)頃。

私の涙は枯渇したのか、もう涙はでなかった。

血も、流れてはいるものの、先ほどより勢いを弱めていた。


彼がもう一度優しく、どうした?と聞いた。

私の頬を両手ではさんで、私の好きな目で私をじっと見つめて。


「苦しいの。」

私はいった。


彼は、何が、とは聞かなかった。

かわりに、そうか、といって、またわたしをぎゅっとした。ないはずの涙がまたこぼれそうだった。


だからね。


苦しいからね。


「別れよう。」


といった。


私はこれが身勝手なのだと気づいていた。けれど、気づかないふりをして、彼を傷つける言葉をいった。


さっき作った偽物の理由を、できるだけ感情を込めていう。


「わたし、浮気してるの。」

でももう、たえられなくなっちゃって。


そういった。


彼は表情を少しも変えなかった。きっと彼は、怒るだろうな、と予想していた分そのギャップに驚かされた。


「本当に?」

ビックリするくらいいつも通りに、彼は聞いた。

揺れる。

ぐらぐら。


いつもの、幸せな、穏やかな日常を思い出してしまって。


けれど。


その隅っこで、また、目を抉りたい気持ちが芽生えてしまって私は踏みとどまる。


「本当に。・・・・・ごめんね。」

泣きそうになって、私はうつむいた。


「悲しいなぁ。」


彼は小さな声でいった。

ぎゅうっと胸がしびれた。なんだろうこれは。


ごめんね、ともう一回謝ったら、かれは、違うよ、と首をふった。


「たぶんね。お前が謝っていることと、俺が悲しんでいることとは違うんだよ。」


彼はたんたんといった。


「俺はね、はじめて嘘をつかれたから悲しいんだ。」

私は驚いて、声も出なかった。


「嘘なんて、ついてないよ。」

精一杯平静を装っていう。

声がふるふる震えていた。


「にこめの嘘だ。」

彼は泣きそうな顔で笑った。


私は泣きたくなった。けれど涙は流れてくれない。


「お前が考えていること、たぶん俺はわかってる。」

彼は笑いを引っ込めると、真面目な顔をした。


「俺らは価値観がにてる。けど、出発点が違えばそれもずれてくる。お前は、自分が悪いんだと思ってるかもしれない。だからそこからずれるんだ。俺はお前が悪いなんて思ってない。」


彼は、私がなにも言わないのに、私が考えてきたこと全て見ていたみたいにしゃべった。私が悩んでいることすべて、彼は分かっているのだろうか。


私が悪いに決まってる。そういいたかったけど、彼の目を見ていたら、私は悪くないのかなって、自分を許しそうになった。

ばかだ。私が悪いに決まってる。こんなおかしな趣味、他の子は持っていない。私のこの趣味がなければ、誰も苦しまないですむ。


やっぱり私が悪い。どう考えても、どこを切り取っても、例え彼が悪くないといっても。


「お前は俺と一緒にいたくないの。」

「居たいよ。」

「それなら話は早い。」


別れるとか、浮気したとか、そういう嘘はつけても、彼と一緒にいたくないなんて嘘は私にはつけなかった。

嘘をつくべきなのに。口からその言葉を吐き出すことは、どうしてもできなかった。


彼はおもむろに立ち上がって、本棚の方へ近づいていった。ここは私の部屋だ。オレンジの香りがかすかにする。

本棚の一番したの段を探り、探し物を見つけたのか、なにかをつかんでこちらに戻ってきた。


彼が手にしていたのは消毒液と絆創膏と脱脂綿だった。


そばにあった、未開封のミネラルウォーターを開けて脱脂綿に含ませる。床に少し、水がこぼれた。

そして問答無用で私の傷口の周りに押し当てた。

ズキッと傷口がいたんだ。


じくじくと痛みが広がっていく。


「痛い。」

彼は心底楽しそうに笑い声をあげた。

「我慢。」


抗議をしても、受け流して、次に彼は消毒液にてをかけた。そして、さっき洗ったみたいに、傷口に消毒液を押し付けられた。

ものすごくいたかった。

彼は、噛むことの他に、傷口の手当ても好きだった。

幸せそうに手当てして、保健の先生もいいな、などとふざけたことをいっていた。


消毒を終え絆創膏を貼ると、彼は満足そうだった。


「俺のこと好き?」

突然、倦怠期のカップルみたいなことをいう。


「・・・・・好きだよ。」

当たり前だ。

好きじゃなかったらこんなに苦しくないはずだ。

胸をぎゅっと押さえる。

外の痛みで消そうとしても、内側の痛みはおさまらなかった。


そんならいいよ。


彼の発言は意味不明だった。

わたしは首をかしげる。


あげる。


かれはいった。


わたしは再度、首をかしげた。理解が追い付かない。


「俺の目、あげる。」


穏やかに彼がいう。くるりと、目の中の光が回る。

思考が。完全に。止まった。


わたしは、今まで握っていて、離そうとしても離れなかったスプーンを取り落とした。


カーンと金属音が響いた。


彼の穏やかな声と金属音が、頭のなかで反射した。


中途半端ですが、自分はバッドエンドもハッピーエンドも同時に考えてしまうので、あえて書かないことにしました。彼女と彼の今後は、ご想像にお任せします。駄文ですが、読んでいただきありがとうございました。

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