最後の呑み会
テスト期間中に僕は何をやってるんでしょうか。
第三話、どうぞ。
「え……?」
「……何度も言わせるな、お前は、クビだ」
「えええええ!?」
磯山の非情な発言によって、部屋中に大吉の悲鳴が響き渡る。
「……うるさいぞ大吉、心臓に悪い」
「いや、だって……、クビって……、ウソでしょ、磯山さん……?」
「……ウソじゃない。 これは事実で決定事項だ、もう覆らない」
「そんな……」
「……今度遅刻したらクビって、お前から言っただろ」
「あ……」
「失念してたな……、お前は本当に危機感が無いな、人生が懸かってるってのに」
大吉は、あまりのショックに目の前が真っ白になっていく。
(ウソだろ……、俺、25で無職になんのか……?)
「嫌ですよ、クビなんて!」
「わかってるよ、こっちも出来る事ならクビになんてしたくない」
「だったら何で!?」
「前にも言ったろ……、お前の仕事に対する姿勢が問題なんだ」
「俺、ちゃんとやる気もあるし、仕事もちゃんとやってますよ!」
「それは分かってる。 ただな、それでもお前は遅刻が多すぎる」
「うっ……」
「もう何日連続なんだ、ああ? もうこっちも限界だったんだよ、やる気の無い社員抱えられるほど、
HELLOには余裕が無いし、社会は甘くない。 社会をなめんなよ、若造が」
磯山の言葉には、長年最前線で戦ってきた男の貫禄があった。
大吉に、貫禄を持った磯山の言葉が鋭く、深く突き刺さる。
最早、大吉に返せる言葉は残っていなかった。
「……さあ、さっさと自分の机に行って仕事しろ。 最後くらい真面目に働けよ、若造。
仕事は残していく物じゃないぞ」
そう言い残し、磯山は部屋から静かに立ち去った。
磯山が部屋を去った後も、大吉は固まったまま動く事が出来なかった。
部屋を出た後、そのまま大吉は最後の仕事に就いた。
しかし、あまりのショックでぼんやりしていたためか、大吉は何回も磯山に注意を受ける結果となった。
そして、夜の8時になり、社員たちの目の前で大吉に退職金が渡された。
「ほれ、退職金だ。 今までよく働いてくれた、感謝するよ」
「……ありがとうございました」
社長はさっさと退職金の入った封筒を大吉に押し付けると、そのまま
「よ~し、んじゃ、飲み会行くぞ! ぱーっと行こうか!」
と、号令をかける。
すると、社員たちは「おおーっ!」と、嬉しそうに叫んだ。
その様子を見て、大吉はテンションが下がるのを感じる。
(おいおい、お前ら目の前でクビになってる社員が居るのに、よくそんなにテンション上げられるな……)
そう心の中で呟くと、深いため息をついた。
その様子を見て、磯山は大吉に声をかけた。
「おい、大吉。 お前も来い、奢ってやるよ」
「え、でも……」
「遠慮するなよ。 お前は3年間も俺たちの仲間だったんだ、最後くらいぱーっと行こうや、な?」
「……はい」
磯山の言葉に社長や周りのハイテンションもが重なり、もう大吉にはどうする事も出来なかった。
そして、大吉は上司に拉致され、今日まで仲間だった社員たちと夜の街に繰り出した。
場所は変わり、大吉たち一行は「呑んだくれ」という居酒屋にやってきていた。
「呑んだくれ」は、早くて安く、しかも旨い料理が出るという、隠れた名店だった。
そして、一行は座敷席を素早く占領し、すでに全員の手にはビールがなみなみと注がれたジョッキが握られていた。
「乾杯!」
「今日もお疲れ様でしたっ!」
社長の音頭を皮切りに、全員は続々とビールを飲み始めた。
そのスピードは速く、周りからは続々と「おかわりっ!」という嬉しそうな声が聞こえてくる。
「まあ、大吉も飲めよ、旨いぞ?」
「はい……」
さすがに、大吉のテンションは低かった。
無理も無い。 呑気な大吉でもさすがについ数分前に勤め先をクビになってしまっては、
テンションも上げるに上げられないし、上げようとも思えない。
そんな大吉を哀れんでか、磯山は大吉の隣に座り、彼に話しかけた。
「おい大吉、大丈夫か? 顔色悪いぞ」
「……いや、さすがにクビになってすぐにテンションは上げられませんって」
「……まあ、それもそうか」
「第一、クビ宣言したの磯山さんでしょう?」
「まあ、な……、出来る事なら、俺もお前をクビにはしたくなかったよ」
「え?」
「そりゃあお前、誰が好き好んで大事な部下をクビにする? そんな上司は居ないぞ、普通は」
「……じゃあ、クビにしなかったらいいじゃないですか」
その言葉を受け、磯山は辛そうな表情を浮かべて顔を伏せた。 そして、言いにくそうに大吉に告げた。
「仕方ないんだ……、うちも経営は上手く回ってるとは言い難いし、規模もそこまでじゃない。
だからな、使えない社員は、切り捨てないといけないんだ。 マイナス要因が居れば、
その分経営は厳しくなる。 ……これは、仕方ない事なんだよ」
磯山の言葉は、大吉の心に深く刺さった。
「……そう、ですよね……」
そして、やっとその言葉を呟くと、大吉は長いため息を付いた。
「……さあ、呑め呑め」
「……はい」
久しぶりに仲間と飲んだビールは、なぜかひどく苦かった。
……正直に言います。 僕は呑み会に参加した事がありません。
まあ、中学生が酒呑むわけにもいきませんしね
それどころか、僕は東京に住んでもいません。
そのため、作中に出る東京、呑み会などの描写はほぼ勘で書いています。
ちなみに唯一の資料はテレビ。
「おい、本当の東京はこんなんじゃねーよ田舎者が」
……その通りです。言い返す言葉も出てきません。
こんなぐっだぐだな小説と筆者ですが、これからもよろしくお願いします。