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独り。


 今日の朝のことだった。

 学校に行く為に身なりを整えてスカートのホックを止めていた時、突然に携帯の着信が鳴った。

 それは私が設定してある通りならアユミからの着信であり、そしてメールだった。

 そこには、


「今日は風邪で学校行けなくなっちゃった――」


 というような内容で、思わず私は返信してしまう。


「大丈夫だよ、数日大人しくすれば下がると思うから。心配ありがとね」


 と返って来る。

 メールの返信が出来て、それでその風邪の状態がさほど悪くないと思えてきて胸を撫で下ろす。


「そういえば……」



* *



 前日のこと。

 いつも元気に跳ねるアユミの姿はなく、今日は静かで少し気分が悪そうにも思えた。


「アユミ、何かあったの?」

「う、ううん」


 答える声にいつものような元気さはなく、やっぱり沈んでいる。


「大丈夫だよ、ミコトちゃん――」


 そう言うといつもの笑みを浮かべる。

 もしかして口で言いたくないだけで”あの日”なのかもしれない。


 思って、その後言及をすることはなかった。



* *



 一人の通学路を鞄を提げて歩いて行く。

 厚い雲が包みこむ空は、今にも泣き出しそうで。鞄と逆の手には赤色の傘を持っていた。


「(気付いてあげられれば良かったのに……)」


 歩いて行く最中に昨日の変化を思い出し、今朝のメールも考える。

 いつも隣にいて、いつも傍にいる彼女の体調の変化にも気付けないなんて――と自分を責めたくなってくる。

 自分を責めることでアユミの体調が良くなるならいくらでもしてあがるのだけど……無理な話よね。 


「はぁ」


 生徒がとぼとぼと登校していく中で、私は深いため息をついた。




 その日は本当に退屈だった。

 授業で隣にアユミがいない。休み時間に話を出来るアユミがいない。お昼ご飯を一緒食べるアユミがいない。

 ひとりぼっちだった。

 確かに話したりする友人もいるし、昼食も学食へと誘われた。

 それでも私はなぜか断って、一人で全体的に目減りしたクラスの中で弁当をつついた。


「……アユミ」


 と思ってはっとする。声に出してしまうほどに私はどれだけにアユミに依存しているのかしら、と。

 いけないわ、私。こんな風にアユミが休んだことは今までに何度かあるじゃない、その時も少し寂しかっただけで――


「(やっぱり寂しいのは確かで)」


 そして心にぽっかり大きな穴が空いたような喪失感。

 私はアユミがいないだけで心が不安定になってしまう――なんのかしらね。

 今はアユミが心配で仕方なく、早くこの学校が終わってしまえと思う。


「(お見舞い……いかなくちゃね)」


 それは自分に対しての命令のようなものだった。

 すると窓から見える景色に線が混じり始め、ぽつりぽつり、そしてざぁぁと雨打ち音が。


 空が泣きだす。

 私は広げた弁当箱をあまり食が進むことなく閉じた。




「これで……いいわよね」


 傘を指しながら商店街のスーパーで買ったものの入った袋を覗く。

 そこにはヨーグルトやプリンなどの喉通りの良い物が入っている。


「(アユミはフルーツゼリーが好きだったわね)」


 そこには数種類の色鮮やかなフルーツゼリーが入っている。

 そして私はアユミの家のインターホンを押した。


『はいー……ってミコトちゃん? あがってあがって』


 いつもの陽気なアユミのお母さんの声が聞こえる。


「はい」


 そうして私はアユミの家に上がり「お見舞いにきてくれたの? ありがとうねー、きっち今はあの子寝てると思う――」というような話をしてくれて。

 そして「今から私、少し外に出なくちゃいけないの。少しあの子の傍に居てやってくれないかしら?」その提案というよなものは「はい、いいですよ」と私も少しアユミの顔が見たかった。

 今日見れなかった分をじっくりと。

 アユミのお母さんは外へと出て行った。私は幼少期にはしょっちゅうに訪れていたことで覚えているアユミの部屋へと向かった。

 そして「アユミ」と可愛らしい字で書かれたプレートの下げられた扉の前に立ってドアをコンコンと軽く叩いた。


「アユミー、私よー」


 ……返答はなかった。


「入るわね」


 そうして扉を開けると、そこにはアユミがいた。

 ベッドに体を横たえて、顔を紅潮させてすやすやと眠る彼女がそこにいた。


「…………」


 近づくと、そこには安らかに寝息をたてるアユミがいて。


「久しぶりね」


 一日振りなのに、そう思えてしまう。


「……起きないわよね」


 一人ごちにそう呟く。アユミが寝ていて私が起きていることは少なく、こうしてアユミが寝息をたてる姿を見る機会は乏しかった。


「……ふふ、かわいい」


 覗きこんで、やっぱりアユミは可愛らしかった。不謹慎かもしれないけども、少し色っぽくもあった。


「…………」


 そこにはアユミの小さな体があり、少し熱で赤みがかったアユミの顔がある。


「少しぐらい……いいわよね」


 私はそうしてぺたんとカーペット張りの床に膝立ちすると、目線の先にちょうどアユミの顔がある。


「早く元気になってね――」


 私はアユミの頬に軽くキスをした。



「ミ……コトちゃん?」



 するとアユミは目を覚ましてしまい、思わずあたふたとしてしまう。


「ありがとね、ミコトちゃん」


 風のせいで舌足らずに喋るアユミ。


「お見舞いと、それと――キス」


 起きてたのかと、私は驚きしてしまったことをアユミから知らされる。



「お姫様は――王子様のキスで目が覚めるの」 



 そして私の王子様は大好きなミコトちゃんだよ――夢の中にいて口走っているようなことを聞かされる。

 寝ぼけていたとしても、そのアユミの言葉に私の顔はアユミとは違う熱を持っていた――

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