通学路。
「おはよっ、ミコトちゃん」
「おはよう、アユミ」
通学路で出会うところから私たちの日々が始まる。
商店街とは逆方向の住宅地側に住んでいて、家もお互いのところまで行くのに徒歩三十秒。
親同士も時折お茶に誘ったり誘われたりして仲がそれなりにいいらしい。
私は幼いころからアユミの顔を見ていて、アユミも私のことを見てくれていた。
幼馴染で親友という間柄といったところかしら。
それもあの告白の後だとどうにも違う感じがするのだけど……というかアユミが主に吹っ切れている気がする。
あのト、トイレ連れ込みとか!
「どうしたのミコトちゃん、顔が赤いよ?」
「いいえ、なんでもないわ」
舐められた腕をさすって余計に恥ずかしくなる。今思ってもどうしてあんなことになったのかしら!
「ねえミコトちゃん」
「なに?」
いつも通りに、今までどおり。何かを切りだすように彼女は言うものの――
「手、繋ご?」
隣を歩く彼女がこちらへと顔を向けてそう言った。
「へ?」
思わず間抜けな答えを返してしまう。
「だから、手を繋ごうよ、ミコトちゃん」
「え、でもそれって、いや、でも」
いきなりの申し出に私は焦り動揺した。急にこの子は何を言い出すのかと。
大の高校生にもなって手を繋ぐなんて……嫌じゃないけど恥ずかしいわ!
「だめ……かな」
上目遣いで、気のせいか瞳も潤んでいた。
なんというかこのまま見つめていたら、私の方から可愛さに抱き締めてしまいそうになり、ぶっきらぼうに私は手を出しアユミの柔らかく温もりを感じる手を握った。
「ありがと、ミコトちゃんっ」
「…………」
私はと言うと恥ずかしさに目を背けている。自分でも思うけども相当にウブだ。
告白を受けた直後からはどうにもアユミに手玉に取られている気がする。
悪い気はしないけども……ううん、なんかちょっとシャクだ。
「えい」
小さく声をあげて、アユミの指に自分の指を絡ませた。
「ミ、ミコトちゃん!?」
「別にいいでしょ?」
「……うん、もちろんだよ」
勝気でいようとしたものの、彼女の笑顔の前では形無しだった。
なんで、アユミは可愛いのかしらね。なんか憎たらしく思えてくるわ。
「ミコトちゃん、痛い痛い!」
「……ふんだ」
素直になれない私は照れ隠しに絡ませる指を動かした。それでも少しなので言うだけで彼女はそれほど痛くはないはず。
「なんでむくれてるのー、ミコトちゃん?」
「べつにー」
そうは言うものの繋いだ手は放す気はない。そしてアユミも放す気配は微塵もなかった。
少しの通学路をいつもよりもゆっくりとした速度で歩いて行く。
もう少しで初夏の訪れを示す四月の末。私たちはその季節の移り変わりに気を留めることなく過ごしていった。