答え。
「ちょっとアユミっ」
「綺麗だよ……ミコトちゃん」
「や、ひゃんっ!」
「とっても可愛いよ、ミコトちゃん」
ここはトイレの個室の中、おそらくこの女子トイレには私たち二人以外はいないであろうその空間。
そんなトイレの個室の一つに私たちはいた。
肌と肌が触れ合う直前で、お互いの吐息が明瞭に聞こえて、火照るように頬を赤くした二人がここにはいる。
ええと……なぜこんなことになったのかしら。
* *
「ごめん……なさい」
私の前へと立ちあがって突然の告白をしてくれる彼女がいた。
そしてそんな告白を無為にも断ってしまう私がいた。
「え……」
見える彼女の表情は見る見る青ざめていく。
それは自分の言ったことで、全てを壊してしまったかのような。それに我に返って気付いてしまったような。
「え、え……」
聞き返すように彼女は私に声を漏らした。
そして次の瞬間には膝からガクリと倒れるようにして公園の決して綺麗ではない土砂の上に座りこんだ。
小柄な彼女は地面に座ったことで未だにベンチに座る私を見上げるようにして表情がゆっくりとゆっくりと消えていった。
そして瞳からは涙が頬を伝って一筋
「違うの! アユミ! 聞いてっ」
「そっか……やっぱり私は嫌われてたんだね。そうだよね、気持ち悪いよね」
「アユミ、聞いてってば!」
「女の同士なのに付き合うって……頭がおかしいよね、うん。自覚がないわけじゃなかったの」
「聞いてアユミ!」
「でもそれでも私はミコトちゃんが好きで、大好きで、好きで仕方なくて」
「だからアユミ」
「ミコトちゃんは美人で綺麗で可愛くて、きっといつか好きな人が出来て、きっと離れてしまう気がして、それで、それで――」
「話を聞いてっ、アユミ!」
「っ!」
私が声を張り上げると、また我に返ったようにはっとして直ぐに沈黙する。
すると涙腺が崩れるようにして、大粒の涙が彼女の綺麗な顔を伝って行く。
それはとても綺麗なものなのに、それは見ているだけで胸が苦しい。
「アユミ。私はあなたのことが嫌いじゃないわ、いいえ嫌いなわけがないの」
「…………」
私は彼女が、アユミが大好きだ。
いつも一緒にいて、どんな時も隣にいてくれて。どれだけ心強かったか。
「私はアユミのことが好きよ」
「………ぇ」
それは本心、私のことを好きといってくれたアユミと同じように。
「でもね、私は分からないわ。付き合って、というのが分からないの」
「それは……」
私は大人ぶっているだけの子供だから。色恋沙汰なんて今まで一切ない。だから分からない。
「アユミと一緒にいれるだけで幸せで、アユミの笑顔を見れるだけで私は嬉しいのよ」
「…………ミコトちゃん」
私にとってのそれは温かな時間で、これからもずっとそうだと良いと思い続けていた。
「分からないまま、答えて。それでふいにもしかしたらアユミとの時間を、日々を台無しにしてしまうかもしれない――そう思ったの」
「じゃあ……」
「付き合うことは出来ないけれど、私が好きなアユミと一緒にいたい。こんな答えでごめんね、アユ――」
そう言い切る前にアユミは私の胸に飛びこんでいた。
それに少し驚くものの、小さな頃のアユミのように胸の中で泣きじゃくる今のアユミが愛おしくて、両手でそっと包み込む。
「ごめんなさいごめんなさい! ミコトちゃんが遠くに行っちゃいそうで、それで私焦って、ミコトちゃんを傷つけて、困らせて……ごめんなさいごめんなさい!」
アユミは私のことをそこまで想ってくれた。
その事実に私の胸はポカポカと次第に温かくなっていく、幸せに満たされるようにゆっくりと。
「いいのいいの、私こそアユミを不安にさせてしまってごめんなさいね……私は口下手で、変なところプライド高いから」
それでもしかしたらアユミを失ってしまったかと思うと自分が憎たらしく思えてくる。
「ありがとうミコトちゃん……ありがとうミコトちゃん」
「これからもよろしくね、アユミ」
彼女の小さな頭を柔らかく抱いて、眼を瞑る。
お互いの気持ちを知ることのできた私たちはこれからどうなるのかな――
それはきっと今まで以上に私たちは幸せになれると、私は思う。
アユミ、あなたはどう思うかしら?
* *
「さっき強く握ったところ……大丈夫?」
泣きやみ顔を上げたアユミは眼の下を腫れぼったくしつつも落ちついて、そして先程のことを心配して不安気に表情を向けてくる。
「心配しないで、大丈夫よ――」
言い切ったはずなのに。
「ああっ! 赤くなってる、ごめんねごめんねミコトちゃんっ!」
「謝らないでって……気がめいってしまうわ」
「ば、絆創膏はった方がいいのかな!? ううんもしかしたら包帯かも!?」
「大げさすぎるわよ。第一、赤くなっているだけでしょう? すぐに赤みも引くわ」
「あああああああ、冷やした方がいいのかな。ど、どどどどどどどうしよう!?」
「落ちつきなさい、アユミ」
「そうだ! ミコトちゃん、こっち!」
「え、ちょっと――」
* *
そうして連れられるまま公園のトイレの個室へと。
公園にしては小奇麗な手入れの行き届いているトイレに私を連れ込むと一つの個室に私を押しこんでアユミが入り鍵を締めた。
「な、なにを……」
「こういうときは舐めればいいはず」
そんなこと初めて聞いたのだけど。
「ねえアユミ、それは一体どこで知ったのかしら。きっとそんなことは――」
「ああ、まだ赤いよミコトちゃんっ! 今すぐにでもっ」
「人の話を聞きなさいっ!」
制服の袖をまくられて腕が露わになり、少し赤みのある手首に温かくそれぢて湿り気を帯びた何かが触れた。
「あぁっ」
「これでいいと思うんだけど」
「と、良くないわよ! とにかくいいってば!」
「あ……ミコトちゃんの肌綺麗」
「え、だから舐めるのは……ひゃっ!」
それで最初に戻る。
途中からは私の体を舐め回すようにあちこちをぺたぺたと触り始め、最初の目的を忘れるように舐められた。
……肌がべとべとってことはないのだけど、触れる度くすぐったく。ふとももの弱い私は舐められるごとに喘いでしまっていた。
改めて、ええと……なぜこんなことになったのかしら。
羞恥に悶える私と、舐められることを嬉しく気持ちいいと思う自分の葛藤の中で。
十数分の間個室に入りこんで二人過ごしていた。
……過ごす、というには少し恥ずかしい内容だったのだけど。
それでも私を好きでいてくれるアユミが嬉しくて、ついついままにされてした。
うーん、いいのかしら……これで?