してみたい。
休日、居間のテレビをぼーっと眺めていた。
そこには昼ドラが延々と流れている、一人の男性を取りあうシーン、女性どうしで軽い喧嘩になるシーン、そして男女のキスシーン。
そこで思わず音量を下げてしまった、ちょっと気まずい。
私以外に居間には誰もいないけれど、そのままテレビを消してもやもやした気持ちで私は自室へと戻った。
キスって……どうなのかな。
ふいに私は思った。風邪の時にミコトちゃんが顔を寄せて。頬にそっと唇を当ててキスしてきたことを覚えている。
あの時のミコトちゃんの香り、感じる体温、ふっとかかる吐息を私は忘れられなかった。
でも頬にキス、そこまで変なことではない……と、思う。だってお母さんとかは子供の頃やってくれたし、私もしたし。
ならくちびるとくちびるならどうなんだろう?
唇に指をあてた、そこまで柔らかい感じもしない。自分の頬をぷにぷにしてもそこまで変わらない。
でも、この唇と唇が恋人同士だと触れ合うんだよね――
「…………」
恋人同士……私とミコトちゃんは付き合ってるわけで、それに違いない。
ということはするべきなのかな? した方がいいのかな?
だけど女の子同士だよね、これって変なのかな、いいのかな。
「でも」
して、みたい。
好奇心、冒険心。キスって気持ち良いんだろうか、したらどうなるのか。ちょっと興味がある。
ミコトちゃんとキスしてみたい。したらミコトちゃんはどんな表情をするだろう、どんな気持ちになるだろう。
やって、みたい。
意識し出すとどうにもシチュエーションを思考してしまう。
教室で、公園で、トイレは……ちょっと違うかな。家でもいいかもしれない、うん。
流石に人目に付かないほうがいいかな、私たちの関係をあぴーる出来るけど……流石にやめておいた方がいいよね。
どう切り出そう、ミコトちゃんはどういう風に答えてくれるだろう。
ミコトちゃんからかな、私からかな。どっちが先に唇を寄せるのかな。
ミコトちゃんからがいいな、でも私から不意にしてミコトちゃんがちょっと動揺するのも見たいかも。
想像が止まらない。
けれど多分そうはならないし、きっと私がキスしよって言ってもミコトちゃんは冗談だと思うだろうし。
でも、ちょっと言ってみたい。
それを聞いたミコトちゃんの挙動だけでも、私はミコトちゃんの可愛い一面を見れて満足できるかもしれない。
「明日が楽しみ!」
今日は日曜日、明日を心待ちにしながら休日が過ぎていく。
「おはよう、アユミ」
「おはよーミコトちゃん!」
翌日、いつものようにミコトちゃんと合流して通学路を歩く。
私もミコトちゃんもいつも通りだけれど、私の頭の中はキスのことでいっぱいだ。
いつ切り出そう、どういう風に切り出そう、そうしたらミコトちゃんはどういう反応をするだろう。
そう考えるだけでどきどきもわくわくも止まらない。
「ねえミコトちゃん」
「なに?」
ああ、我慢できない。
もう言ってしまおう。
でも、ちょっと人がそれなりにいる通学路で声に出すのは恥ずかしいよね。
「急に立ちどまってどうしたの?」
「ミコトちゃんちょっと耳を貸して――」
「?」
ミコトちゃんはその通りに箕意をこちらへと向けてくる。
すこしだけ背伸びをして、私は言ってしまった。
キスしてみたい。