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告白。

 逃げ出している時に私は思った。


 もしかしたら今私が感じている気持ちは、アユミも感じたものと同じだったのかもしれないと。


 確かに私は、時折男子に告白されることもあれば、手紙を貰うことだってあった。

 それでも私はそれらをつっぱね続けた。告白されてもすぐに断った。手紙の返事も書かなかった。


 でもそれを見たアユミは、不安に思ったかもしれない。


 私はアユミとの日々が、変わらない関係が恒久的だと。

 どこかで私は確信を持っていて、それを当たり前だと思っていた。


 走って、走ってきっとアユミは気付いていないはずなのに逃げて、逃げた。


「はぁはぁ」


 いつの間にか使っていない教室が集中しているところまで走っていた。

 壁に寄り掛かって、肩で息をする。


「…………ああ」


 胸が痛い。アユミの告白された光景を見て、アユミの答えを聞くこともせずに逃げ出した時から。

 私は考えてしまう。アユミがその告白を受け入れたあとのことを。


 これでアユミは私の隣からいなくなってしまうのだろうか?


 もしアユミがいいと思った人で、付き合うというなら。

 友人……いや、親友の私は祝うべきなのだ。アユミの幸せを願うべきなのだ。


「…………やだ」


 いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ。

 アユミがいなくなったら、私はどうなるの? 一日アユミがいなかっただけで、あれほどに不安に駆られた自分を思い出す。

 

 無理なんだ。

 アユミがいなければ、私はどうしようもない。


 幼いころからずっと一緒で、それが当たり前で、それが今まで続いてて。

 でもきっとアユミと付き合う人が出来たら、変わってしまう。

 きっと歩調は段々と合わなくなって、きっと私は取り残されてしまう。

 もう……悪い想像だけしか浮かばない。


「あぁ…………」


 かつての私なら、どうだっただろう。

 大人ぶって、アユミがいいならいいんじゃない? と軽い言葉で背中を押していたのかもしれない。


 でも変わってしまった。


 アユミに告白された日から、私は今まで以上にアユミのことを考えてしまって、意識してしまって。

 見せる仕草の一つ一つに気を取られる。小さい頃から一緒に居て、一緒に遊んで、一緒に話す、良き親友だったはずなのに。


「…………そっか」 


 きっといつまでも偽る自分は臆病で、最低なのだと思う。

 それは無理で、そんなの有り得ないから。と勝手に線を引いて、口に出さずに拒んでいた。

 素直になればいいのに、そうすればここまで苦しむこともなかったのに。



「私は……アユミのことが好きなんだ」



 それはもう親友以上の感情で、一時ひとときも離れたくない程に。

 彼女に少しの異変が、出来事があるだけで、動揺してしまう程に。


 アユミはどんな気持ちで告白した?


 私が少し意地悪なことを言ったから。

 それで不安にさせられて、アユミらしくない行動もして……それも私の気持ちを確かめる為だった? 

 告白した直後のアユミが私を好きだったとして、もしかすると今は変わっているかもしれない。

 あの時の私にはわからなかった。言い訳にしか聞こえなくても、私にはアユミの気持ちがわからなかった。


 今なら分かる。

 きっと、今の私と同じ気持ち。



 そしてまた私は走り出していた。

 少しだけ流した涙を手でぬぐって、アユミが戻っているであろう教室へ。


 通じなくても、私の想いは今伝える。

 きっと、それなら後悔しない。



* *



 一人の長身の女の子が、少し背丈の小さな女の子を連れて学校の校舎を出ました。

 長身の女の子は背丈の小さな女の子の手を引いて、休み時間でも短い授業間の休みの為に閑散とした学校の庭のようなところまでやってきます。

 そして、長身の女の子が草木に囲まれながらもぽっかりと空いた空間のある芝のところで立ち止まりました。

 

「ミコトちゃん、どうしたの?」


 何故連れてこられたのか分からない、背丈の小さな女の子は首を傾げながらミコトと呼ばれる長身の女の子へと聞きます。


「ごめんね、アユミ。ちょっと話したいことがあったの」


 手を合わせるように、突然連れだしたことをアユミと呼ばれる背丈の小さな女の子に詫びます。


「それで、どうしたの?」


 笑顔で聞くアユミに対して、ミコトは少し顔を強張らせます。

 まるで、これから何か一大決心の告白をするかのような。


「アユミ、あのね――」


 ――そして、そのミコトの告白にアユミは今まででも最高の笑顔で頷いた。



 その後二人がどうなったかは、これから始まる物語の通り。



 これは親友以上の関係へと変わった二人の女の子の物語。

 きっとそれは、ずっとずっと続くことで――それからはもう変わらない。

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