表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やわらかな風が吹く丘の上で待つ君に、この言葉を音にして届けられたら  作者: 雨後乃筍


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/13

LIKEとLOVE

「LIKEとLOVEは違う。同じ様に言葉は言う人によって重さが違う」

 そう言ったのは私の大学時代からの親友、美咲だった。


 美咲はまるでモデルさんのようなスタイルと、アイドルなみの顔立ちの、とにかく大学内でも目立つ存在で、他校からも美咲目当てで大学を訪れる人が出るほどだった。ナンパを受けた数は計測不能。繁華街を歩けば芸能事務所から声を掛けられたこともあると聞いた。


 ただ、その多くは美咲に声を掛けた次の瞬間に脱落して行った。



 美咲は聴覚障害者で、音は全く聞こえず、喋ることもできなかった。コミュニケーションは手話か筆談。


 手話はもちろん覚えないと使えないし、健常者が覚えるのは至難の業だ。筆談も想像以上に精神力を使う。最初はみんな筆談を頑張るのだが、そのうち疲れてしまい、脱落して行った。


 そして、そのハードルを超えたとしても、残りは美咲の性格にやられて離れて行った。


 美咲は、その容姿以上に頭の回転も早く体力行動力もあり、いわゆる「守ってあげたい」欲を満たしてくれるような女性ではなかった。

 判断が早くて論理的、行動力もあり、アルコールも強い。日常的に使っているのでIT系もお手の物。一度IT系で学生起業をしている人が近づいて来たが、数時間後にはスゴスゴと撤退していった。


 そして邪な考えを持って近づいてくる男たちも、美咲はことごとく返り討ちにしていた。もちろん合法的に。


 最初の頃は美咲が酔わされて何かされるんじゃって心配してたけど、途中から私が美咲に介抱される側に回っていた。

 そんな私をダシに使い、早々に撤退する。いつもそんなパターンだった。男たちも、聴覚障害者の美咲と酔い潰れた私に飲み代を請求する気になれなかったようだった。


 そんな美咲と私の出会いは、大学の手話サークルでだった。


 私が手話サークルを選んだのは、楽そうで拘束時間が短かったから。あとイケメンの先輩がいたから。それだけの理由だった。そこにいたのが大学2年生の美咲だった。美咲とは同じ年だったが、私は一浪しての入学だったため、年次では後輩になっていた。


 美咲は、サークルの中の姫、いや、女神様と言ってもいいぐらい目立っていた。数多くの男が、美咲目当てにサークルに入ったが、その大半はすぐに脱落して行った。


 美咲は無双を続け私はそれのお供。もちろん私は手話ができたので、通訳することもあったけど、美咲は相手の口の動きで、ある程度何を言っているのかわかるので、あまり通訳をする必要もなかった。ただ美咲の手話を相手に伝える時ぐらいだが、美咲は「後よろしく」とか「適当に断っておいて」って、私に丸投げすることもあった。


 そんな美咲が就職活動中に、障害者枠があり積極的に障害者を採用していたこの会社に美咲が就職した。まさに自分の置かれた立場を100%利用する美咲の強かな性格を物語っているエピソードだ。


(利用できるものはなんでも利用しないと)


 そんなことを美咲はよく言っていた。だから私も、そんな美咲のコネを頼って同じ会社に就職したのだった。


 手話ができるのと、美咲の口ききが効いたらしい。


 美咲に(こんなことして、チートっぽくない?)って聞いたら(使えるものはなんでも使え)って返ってきた。


 美咲は会社でも大活躍をしていた。


 声は出せなかったが、パワーポイントとホワイトボードを駆使したプレゼンテーション力で「相対性理論も中学生に分かるように説明できる」とまで言われていた。美咲自身は(それは無理)って言っていたけど。


 取引先との飲み比べでも相手を潰しては無双をしていたらしい。セクハラ男性陣を何人も手玉に取って、相手のSNSを特定し奥さんの事をちらつかせて相手を震え上がらせた事もあり、取引先の女性陣からも慕われていると聞いている。


 そんな美咲と私は、6年目となり、今同じプロジェクトチームにいる。相手の話し言葉を文字にするアプリ「ポケモジ」のプロジェクトチームだった。


 美咲は聴覚障害者の気持ちがわかるということでの採用。私は美咲の補佐ということで参加している。


 このプロジェクトの中でも美咲は無双ぶりを発揮していた。


「ポケモジ」の特徴は、話者を識別し、誰が話したことかを特定して文字に起こすことだった。これは美咲の発案だった。


(同じ好きでもLOVEとLIKEでは意味が違うでしょ?同じ様に誰が言ったかで意味が違ってくるの。絵里が私に言う好きと、絵里が惚れた相手に言う好きが違うようにね)


 と、美咲がウインクしながら言ってた。その仕草がチャーミングで女の私でもドキッとした。まったく、このあざといモンスターめ!


 聴覚障害者は、複数人で話していると、顔を正面から見るのが難しく、何を言っているのかわからないことが多い。さらに、従来品では文字起こし機能はあるが、せいぜいどの方向にいたのか、どのマイクで拾った音なのかを特定するだけだった。


(それでは意味がない!)

 と美咲は強調した。


 健常者が音で誰が話しているか聞き分けるように、聴覚障害者も誰が話しているかを識別する必要があると。そうしないと、言葉は単なる記号でしかない。誰が発した言葉なのかを特定することで、言葉は人の心を伝達することができると。


 これは美咲のプレゼンの時の話だった。


 美咲は人がしゃべっている口元の形で、おおよその話している内容を察することができる。これには前後の文脈が重要らしい。「選択肢」と「洗濯機」は、ほぼ同じ口の形だが、前後の文脈で判断しているとのこと。


 美咲曰く、SNSやネットの切り抜き記事のようなもの、らしい。

 SNSやネット記事では、前後の文脈を無視して切り取られて、別の解釈をされることがあると言う。


(前にコメンテーターの言葉が炎上した事があったでしょ?)

 と美咲は言っていたが、私は覚えていなかった。と言うかそもそも知らない。


 そのコメンテーターは「女性は子供を生む機械」と発言し炎上していた。コレだけ見たら、とんでもない発言だ。


 だが、実際には「女性は子供を生む機械だということを言う人もいるが、そんなことはない」と否定していた発言だった。


 まったく真逆の意図だ。


(もちろん悪意を持って切り抜かれたらどうしようもないけどね。でもそれを恐れていたら何も言えなくなっちゃうでしょ?)


(だからこそ、誰が言ったのかが重要なの)


 今は「ポケモジ」では、話者が特定できるように声の特徴を記録し、次に同じ特徴の人が話した時に識別できるようになっている。


 同時に人物名を登録でき、「誰が」話したかを特定できるようになった。個人情報の問題があったが、音の特徴をユニークなコード化することで問題をクリアすることができた。


 登録した情報は、原則他の人には共有されず、自分の端末にのみ保存される。


 この機能の開発に半年以上費やした。


 美咲は諦めることをしなかった。何度も開発部に足を運び、βテストを何度も重ねて、やっと実用レベルの試作品ができたところだ。


 その機能はすさまじく、5、6人でわいわい話している時でも的確に話者を特定することができていた。また公共の音声アナウンスなどは全ユーザーに共有し人間と機械的なアナウンスを区別し判定できていた。


(聴覚障害者にとって、外出先での緊急放送の見える化は命を守るツールなの)


 実際に東日本大震災の時は防災無線や呼び方の声が届かず、2倍以上の犠牲者を出したらしい。


(その時に、このポケモジの機能があればね)

 美咲は手を強く握りしめた。


 先日のプレゼンでは、美咲はわざと紛糾するような議案を投下して、議論が紛糾しているところを、的確に話者を特定して見せたのだった。


 まさに、ぐうの音も出ない状態だった。


 ただ営業部役員の滑川だけは、面白くない顔をしていたが。この滑川は、美咲が機能追加した時に「そんな高いものは、障害者のような貧乏人には売れない」と言い放った男だった。元々ハラスメント疑惑があり、いけすかない男だったが、これほどまでとは思わなかった。


 結局、その役員会では滑川の意見に引きずられ、費用の削減を検討することになった。


 そこで美咲が取った次の手が、厚生労働省の補助金だった。大学時代から聴覚障害者のボランティアをしていた美咲は、厚生労働省にもツテがあり、この話を持って行ったようだ。


 障害者支援の補助金対象にすることができれば、購入のハードルが下がる。宣伝にもなる。利用者が増えれば、それだけ統計データが蓄積し、さらなる機能向上が見込める。


 また美咲の無双が始まったと私は思っていた。ここまでくると嫉妬心も起きない。ただ美咲の手伝いをしているだけで満足だった。


 こんなすごい人と親友なんだぞって自慢したくなる。


<つづく>


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ