表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

第八夫人エスメラルダの陰湿

第八夫人エスメラルダの陰湿2

作者: ヒッポ
掲載日:2026/03/02

 

 1.第七夫人セツトラリュスカの悲嘆


 セツトラリュスカは、自分が世界で一番哀れなのだと知っている。それを知った日は覚えていない。記憶にもないほど幼い頃だったからだ。


 世界で一番。男とか女とか子供とか大人とかは関係なく、世界で一番セツトラリュスカは可哀想なのだ。

 世界の何もかもがセツトラリュスカに理不尽を強いる。それを知っているから、セツトラリュスカはいつも部屋で一人きり、涙を流して我が身を哀れんでいる。


 セツトラリュスカは雪深い帝国の第十三皇女として生まれた。まず一つ目の哀れがこれ。

 兄と姉が合わせて十二人もいる。しかも時をおかずして弟と妹が生まれ、結局全部で十五人いるうちの十三番目という半端な位置に納まった。これが哀れでなくてなんなの、とセツトラリュスカは思う。


 二つ目の哀れは、母が侯爵家出身の側妃であったこと。

 母が正妃であったなら、もしくは母の生家が公爵家であったなら、きっとセツトラリュスカは周囲にもっと目をかけてもらえたはずだった。

 その証拠に、正妃の娘である姉のドレスは宝石で作られた花で飾られていた。対してセツトラリュスカのドレスは、向こうが透けて見えるほど細い糸で編まれたレースだけ。そのレースを指に乗せて透かすたび、ほらね、哀れでしょう、とセツトラリュスカの花弁のような唇からはため息が零れた。


 三つ目の哀れは、容姿が父である皇帝によく似ていたこと。

 母も、母を同じくする兄姉も、母の違う兄姉も、セツトラリュスカの後に生まれた弟妹だって、それぞれの母に似た美しい色を持っているのに。セツトラリュスカときたら、髪も目も父によく似た色しか持たない。城の外の霊峰を覆う雪のような、冷え切った色だ。

 父がセツトラリュスカを抱き上げて「お前だけが余と同じ色だな」と目を細める度、やっぱりわたくし哀れなのね、とセツトラリュスカは嘆いた。

 きっと父も、愛した女たちと同じ温かい色の子供を望んでいたに違いないのに。


 四つ目の哀れは、五つ目の哀れは、六つ目の哀れは。

 セツトラリュスカは、その全てを数えて生きてきた。だってセツトラリュスカは世界で一番哀れで可哀想で悲しい人間だから。

 朝食の内容も、習い事の教師も、座る席の順番だってセツトラリュスカが世界一哀れであることを証明していた。セツトラリュスカが我が身を哀れんで泣くのを取り囲んで慰める侍女だって、たった二十人しかいない。


 いつだってセツトラリュスカは、母が与えられた離宮の赤々と燃える暖炉の前で、毛布にくるまって真珠のような涙を落とす。そうするとまた侍女たちや、時には兄や姉、またある時は母が、しまいには父がやってきて可哀想なセツトラリュスカを慰める。

 だからやっぱりセツトラリュスカは、ほらね、わたくし世界一可哀想なんだわ、と涙に暮れるのだった。


 *


 セツトラリュスカが年頃になると、父である皇帝は隣国の草原の民の長に嫁ぐよう命じた。

 その夫に既に六人もの妻がいても、既に後を継ぐ息子が決まっていても、自分の悲しい運命を受け入れた無力で非力なセツトラリュスカはただ涙を零すのみで、文句も言わず従った。


 己が第七夫人と呼ばれることも。

 本来なら大聖堂や神殿で行われるべき皇女の結婚式が、屋敷の大広間で行われたことも。

 荘厳であるべきそれが、ただ騒々しい宴であったことも。

 離宮ではなく部屋を一室与えられたのみであることも。

 夜に部屋を訪ねた夫が、帝国のマナーの一つも知らないことも。

 夫がセツトラリュスカの名前を上手く言えないばかりか、勝手にあだ名を付けたことも。

 生まれた息子に伝統的な草原の民の名を付けなければならなかったことも。

 その息子が書物より剣術より魔術より虫をこよなく愛することも。

 その全てを、セツトラリュスカは涙と共に受け入れた。

 抵抗する術を持たない哀れなセツトラリュスカには、それしかできないのだ。


 セツトラリュスカが嫁いだ先の草原の民は、揃ってセツトラリュスカに酷いことばかりを言う。

 中でも夫の第一夫人は、セツトラリュスカに殊更冷たく当たった。セツトラリュスカに部屋から出ることを強要し、食事を共にすることを強要し、草原の民の装束を身につけることを強要し、セツトラリュスカが涙ながらにそれらを断るとため息を吐いて「まったく困った子だね」などと言うのだ。

 霊峰に住まう龍を冠に頂く帝国の皇女であるというのに、異国で子供扱いされる己の哀れさにセツトラリュスカは絶句した。


 食事だって、セツトラリュスカが自ら料理人を帝国から呼び寄せた。

 装束だって、セツトラリュスカが自ら帝国から運ぶよう指示をした。

 第一夫人はそれらをまるで酷い我が儘のように言う。セツトラリュスカが料理人を呼び寄せなければ、誰が帝国の食事や菓子をセツトラリュスカのために用意するというのか。装束を運ばせなければ、毎日何を着て過ごせというのか。

 それらを訴えても草原の民は一人も理解してくれない。それもこれも、セツトラリュスカが世界で一番哀れだからだ。


 そんな理解されない日々を、セツトラリュスカはただ涙を零して耐え忍んだ。試練はいつだって狙い澄ましたようにセツトラリュスカを襲ってくる。こんなのあんまりではないの、と嘆いたところで、セツトラリュスカが世界で一番哀れなのは変わらない。


「ああ…わたくしには何もできない…」


 己に与えられた部屋の中で、絨毯に膝をついたセツトラリュスカは唇を噛み締めて、嫋やかな両手で顔を覆った。帝国から持ち込んだ絨毯は、帝国の中でも高貴な者しか触れられない希少なものだ。とある村にのみ伝わる製法で織られた絨毯は密度が高く、セツトラリュスカの膝を柔らかく受け止める。


「姫様、姫様おいたわしや…」


 幼い頃から慣れ親しんだ侍女が、セツトラリュスカの背中に手を添える。侍女だってそう、祖国ですら二十人しかいなかったのに、嫁ぐにあたりたった十人に減らされてしまった。これではどうやって身なりを整えていいかすら分からない。だからセツトラリュスカが部屋から出ないのは当然のことなのに、第一夫人は部屋から出ろと言う。

 草原の民の文官は「それだけいれば十分でしょう」と言うばかりで、侍女が足りないというセツトラリュスカの訴えはあっけなく退けられた。「ちょっと二十人は予算が」「部屋の数が」などと言って取り合ってくれないのだ。


 セツトラリュスカのためにと村人たちが特別に織り上げた絨毯の、蜘蛛の糸より細い糸で繊細に描かれた帝国伝統の模様が涙で色を変えるのを見つめながら、セツトラリュスカは今日起こったばかりの悲しい出来事を思い出した。




 部屋の扉がノックもなしに開かれて、そこから夫の第三夫人がひょいと顔を出したのはセツトラリュスカが午後のお茶を終えて書物を開こうとした時だった。

 息子は兄たちと遊びに出かけており、今日は夫が尋ねてくる予定もない。セツトラリュスカが存分に自分を哀れむことができる、穏やかな午後だ。


 第三夫人は北方の秘境の呪い師で、つまりさらに北方にある帝国からやって来たセツトラリュスカにしてみれば、草原の民の王宮にいる誰よりも文化的に近しいものを持っている。だからか、第三夫人は嫁いだ頃から何くれとなくセツトラリュスカの部屋にやって来た。もちろんセツトラリュスカは部屋に来て欲しいなどと、言ったことどころか思ったことすらない。

 体を半分だけ部屋に入れた第三夫人は前髪で隠れた目をセツトラリュスカに向けて、返事も待たずにぼそぼそと低い声を出した。


「新しい我らのわたしたちの妹がくるねできるね。あんたも準備したほうがよい。菓子がよいよ、たくさんいっぱい準備してね」

「なにを…」

「あとさっきあんたの息子が庭を走ってて池に落ちた」


 それだけ言って、第三夫人はすぐに扉の向こうへと顔を引っ込めた。扉が音もなく閉まる。

 第三夫人は奇妙な話し方をする。夫はあれは呪い師が住まう秘境の民特有の喋り方なのだと言うが、それが嘘だとセツトラリュスカは知っていた。

 だってセツトラリュスカが祖国で何度も会ったことのある秘境の民は、皆普通の言葉を喋っていた。あのように同じ意味の言葉を繰り返す不可解な喋り方などしない。

 セツトラリュスカが何も知らないと思って軽んじて、皆で騙そうとしているのだ。そう思う度セツトラリュスカは悔しさに唇を噛んだ。


 しかしどれだけ奇妙であっても、第三夫人の呪い師としての実力は確かなものだ。それにセツトラリュスカと違い、日々気軽に屋敷内を歩き回る第三夫人の持つ情報は鮮度が高い。

 彼女の言ったとおり、きっと朝とは違う服で泣きべそをかいて戻ってくるだろう息子のため、セツトラリュスカは侍女に温かい茶の用意を命じた。そして自分は窓辺の寝椅子で体を休めながら、第三夫人の言葉の意味を考えた。

 第三夫人は妹と言った。祖国の父が新たに妻を娶ったという話は聞かないし、父の妻たちにもう子供が産める歳の者はいない。果たしてどういう意味なのか。


 考えるまでもなく、思った通りに朝とは違う服を着て戻ってきた息子によって真相は知らされた。息子の体より少し大きい衣服は裾に五の字が刺繍されていたので、池に落ちたあと第五夫人の子の服を借りたらしい。


 息子は泣いていなかった。本人の話すところによると、池に落ちたものの着替えたあとは一緒に遊んでいた母親違いの兄たちに寄ってたかって撫で回されて、第五夫人に持ち上げてくるくる回されて、皆で一緒に歌いながら踊って、それで満足したらしい。

 だから元気いっぱい、大好きな母が怪我がないか尋ねるより先に「あたらしいお母様がくるって!」と報告した。


 つまり夫に新しい妻が来るということだ。第三夫人の言う妹とは義理の妹のことだったのだ。セツトラリュスカより若い妻。王国から来る妻。

 ああ、これが悲劇でないならなんだというの。セツトラリュスカは寝椅子に突っ伏して咽び泣いた。その足元に侍女が膝を着く。息子は少し離れた所で首から下げた籠を夢中で覗き込んでいた。


「旦那様はわたくしなどもうどうでもよいのだわ…」

「おかわいそうに、姫様…」

「かあさまおやつ食べていい?」

「夕飯前ですよ、少しにしなさい。ああ、わたくしはもう飽きられてしまったのですのね…」

「若のお好きな揚げ菓子がございますよ。ああ姫様、姫様、泣かないでくださいまし…」

「かあさま、にいさまはこないだのきいろいお菓子がすきなんだって」

「ではまた用意しておきましょうね。歳を取って美しさを失いゆくわたくしなど必要ないというの…」

「材料を取り寄せるよう言っておきましょう。姫様、姫様は誰よりもお美しゅうございます…」

「ねえかあさま、僕がみつけた虫、さわる?」

「母様は虫はちょっと…見るだけでいいかしら」

「姫様、虫籠は私が押さえておりますよ。さぁ若、籠をこちらへ」

「あっ」

「あーっ!」

「姫様―!」

「僕の虫!」


 息子の籠から飛び出した虫は部屋中を縦横無尽に飛び回り、大騒ぎを聞きつけてやってきた夫が虫を捕まえて籠に戻すまで続いた。


 *


 第八夫人はそれから程なく嫁いで来た。第八夫人のために開かれた結婚式という名の宴にセツトラリュスカは出なかったけれど、自室の窓から覗き見た娘は若く、細く、小さく、そして美しかった。草原の民にも、帝国にもない王国の色の瞳をしている。それはつまり、王国でも身分が高いということだ。


「わたくしきっと、若くて美しい妻にうつつを抜かした旦那様に忘れられてしまうのだわ…」

「そうかなぁ」

「やがて誰からも忘れられて一人この部屋で朽ちていくの…」

「そんなことないんじゃないかなぁ」

「いつだってそう、そう定められているのよ…」

「どうかなぁ」


 セツトラリュスカは夜に部屋を訪ねてきた夫の胸元にぴたりと引っ付いて涙を零した。その髪を撫でながら、夫が眠そうな声で慰める。

 ああほら、このように必死に慰めるなんて、やはり誰から見てもわたくしは哀れなのね。益々確信を強くするセツトラリュスカの瞳からは、涙が途切れることなく流れている。


「ねえセトラン、仲良くしてあげてよ」

「わたくしがそう望んでも、きっと若くて新しい妻はこのような哀れなわたくしに興味など持ちませんわ…」

「多分気が合うと思うんだよなぁ」


 何度言ってもあだ名で呼ぶことを止めようとしない夫との会話を思い出しながら、セツトラリュスカはあれが夫の予告だったのだと気付いた。

 当の本人である第八夫人を目の前にしてのことだった。


 今セツトラリュスカの前には、件の第八夫人が堂々と立っている。朝食の時間が終わってすぐに、常識外れではないギリギリの時間に部屋を尋ねてきた。

 第八夫人は嫁いでしばらくは大人しくしていたが、どうやら子守役を買って出たようで最近では子供らと遊び歩いているのだと聞いている。セツトラリュスカの息子も連日第八夫人に遊んで貰い、帰ってきては今日は何をしたと楽しそうに話すのが日課になっている。

 セツトラリュスカが黙っている間にも、第八夫人の物怖じすることのない視線がセツトラリュスカと、セツトラリュスカが自分のために帝国から取り寄せた家具をぐるりと眺める。


「七の姉様はお部屋から出ないとか。だからこちらからご挨拶に伺いましたの」


 このセツトラリュスカに対して、随分と不遜な物言いをする。しかしセツトラリュスカはそれに腹を立てるより、どうしても気になることがあった。


「な、七の姉様ってわたくしのことかしら…」

「ええもちろん。私は第八夫人だもの。第七夫人なら私の姉様でしょ」

「このような、このような、ああ…。お前、菓子が好きなのでしたね、おあがりなさい」

「はぁい」


 部屋に入った第八夫人は、セツトラリュスカがすすめるより早く席に座った。


 侍女が用意した菓子を、第八夫人は端から順に、味を確かめるように口に放り込む。その仕草は上品なのに、どこか幼さを感じさせる。身に纏った草原の民の衣装は彼女のために誂えられたのだと分かる仕立てのよさで、所作からはそれを着慣れているのが滲んでいる。


 くるくるきょろきょろとあっちこっちを見て回る様子はまるで、まだ幼い息子のようだ。セツトラリュスカが少々の無作法を怒らないと分かると、今度は「あれはなぁに」「ねぇこれはなーに」と部屋中を飛び回っては指さす所など、息子より幼く見える。

 セツトラリュスカだって、ここが帝国であったなら第八夫人の無作法を見かねて牢に入れよくらいは言った。だがここは草原の民の地で、そして草原の民はこのくらいの奔放さを無作法に数えない。


 許されることを確信した第八夫人は、仕舞いには通りがかりの第六夫人を部屋に引っ張り込んで、ぺちゃくちゃと噂話まで始めてしまった。

「お姉さまが言っていたけど、地下牢の奥には隠し部屋があって…」とか、「ねぇ六の姉様が言ってた香水、あれどこにも売ってなくなーい?」とか、「裏庭のお花、あれ何のお花?」とか、どうでもいい事ばかりを第八夫人が可愛らしい声で捲し立てる。


 それにまた第六夫人が、「あんたね、隠し部屋の奥では三つ首の龍が謎かけを出してくるって噂があるのよ! あんたなんか一呑みよ!」だの、「売ってない香水なんてあるわけないでしょ! あんたが売ってもらえないだけ!」だの、「触ってみなさいよ! 弾けて服が汁まみれよ!」だの姦しく騒ぐ。


 仕方がないからセツトラリュスカも、「龍はわたくしの命を狙っているのだわ…地下には毒虫がいますから行ってはいけません」とか、「わたくしに似合う香水なんてどこにも…あなた自分が誰の妻だか忘れたの。屋敷に呼びつけておしまい」とか、「ああ花にすら軽んじられるわたくし…裏庭は薬草が多いから欲しければ薬師をお呼びなさい。かぶれる草がありますからね」と返事をしてやった。


 やがて第六夫人が仕事があると部屋を出ていっても、第八夫人は居座ってあれやこれやと話し続けた。どうやら遊び相手に飢えているらしい。毎日子供達が遊んでくれるとは言っても、子供相手ではできない話もある。

 結局お茶を六杯も飲み干して、「これ好きかも」と言った菓子と、何も言わなかったけれど三つ食べた菓子を多めに包んでやれば、第八夫人は機嫌良く「また来るね」と手を振って部屋を後にした。そして静かになった部屋で、セツトラリュスカは妹に遊び場と認識されるような部屋を持つ我が身の哀れさを改めて嘆いた。

 セツトラリュスカの悲しみは尽きることがない。


 *


 部屋から出ずとも、セツトラリュスカの元には日々沢山の噂話が飛び込んでくる。セツトラリュスカが帝国から引き連れてきた十人の侍女はとびきり忠実で優秀で、セツトラリュスカが何も言わなくても己の仕事をよく弁えている。

 それに何より今一番の噂の的である第八夫人が自ら飛び込んできて、最近あった楽しい出来事だのをぺちゃくちゃと喋っていくので、噂を集める必要さえない。

 その第八夫人が王国では罪人だっただの、その王国との戦争を止めただの、むしろ王国に攻め込んだのが第八夫人だの、何やら第四夫人に王国からファンレターが引っ切りなしに届くだの。いつにも増して騒がしい日々が終わった頃だった。

 王国の戴冠式に行くのだと夫が告げ、夫と、帯同する第二夫人と第六夫人を部屋の窓から見送った日から一月。「つまんない」と嘆く割に子供達と走り回る第八夫人の笑い声を遠く聞いていた日。

 それは、門を守る衛士にも、哨戒に立つ兵にも、夫に代わり政務にあたる第一夫人にも、もちろんセツトラリュスカにも気付かれることなく入り込んだ。


 四方八方で聞きなれない足音がする。この屋敷は石で作られていて、草原の民は室内では布の靴を履くから足音などしないはずなのに。


 最初に「賊が」と言いながらセツトラリュスカの部屋に駆け込んできたのは跡取りとなる第一夫人の息子で、その両手は母親の違う幼い弟妹の手を引いていた。

 弟妹を部屋に置いてすぐにまた飛び出して行こうとするのを、セツトラリュスカが手だけで制した。総領息子はもどかしそうにセツトラリュスカを見上げたが、黙って引き下がり、そのまま泣く弟妹を抱きしめる。

 セツトラリュスカの膝に抱きついていた息子も、長兄の腕の中に避難する。


 それを横目に、セツトラリュスカは大きく開け放った自室の扉の前で目を伏せた。


「ああわたくし、わたくしは…」


 次から次へとセツトラリュスカの部屋には人が飛び込んでくる。六人目、七人目。

 侍女に両脇を固められた第八夫人も辿り着いた。これで十一人。


「このような…」


 セツトラリュスカの着る帝国の分厚く温かい装束の袖口が、白く凍りつく。十五人、十六人。剣戟の音が近付いてくる。


「やはりわたくしは世界で一番哀れなのだわ…」

「いいよ!」


 最後に第四夫人が剣を構えたまま第二息女と共に部屋に飛び込んだのを確認して、セツトラリュスカは大きく大きく息を吸い込んだ。

 涙を湛えた目は扉の向こう、第四夫人を追ってきた知らない足音の持ち主達を無感動に捉える。

 これらの他にも、屋敷の中に賊が入り込んでいるのかはセツトラリュスカには分からない。だがこの屋敷の中で息をすべきでない者が何人いたとて、セツトラリュスカには関係がない。全て凍らせてしまえば区別はない。


 それはもう音だった。音だったと思う、と後に第八夫人が語った。セツトラリュスカが正確に、完璧に、過去の最も偉大な魔術師が書き残した通りに吐き出した古代の魔術は、素養のない者には呪文とすら認識できない。魔術とはそういうものだ。

 そして、世界は真っ白に凍り付いた。


 セツトラリュスカは両手で顔を覆った。


「わたくしが哀れなばかりに…このような力無き羽虫ごときに挑まれるなんて…ああ…なんて可哀想なわたくし…」


 壁も、柱も、床すらも侵入者と共に凍っている。離れた場所で兵と交戦していた侵入者も一人残らず凍っているはずだ。セツトラリュスカにはそれが出来る。その気になれば屋敷を丸ごと氷漬けにだってできるのだ。

 吐いた息すらも凍るような世界で、セツトラリュスカはまた自分を哀れむことしかできない。だってセツトラリュスカは世界で一番哀れなのだから。


「ええ、チートじゃん…」


 背後で呟いた第八夫人の言葉の意味は分からなかった。だがどうやら賞賛の意味が込められていそうだったので、セツトラリュスカは悪い気がしなかった。姉を敬う妹は可愛い。




 後の歴史書において、セツトラリュスカの名前は歴史上最も強大な魔術師の一人として登場し、特に防衛戦においては並ぶ者なしと記されている。



 2.


「これは、大事件よ!」

「まあ…」


 エスメラルダが重々しく言った言葉に反応したのは、第七夫人だけだった。

 第七夫人はいつも部屋から一歩も出ずに泣いているが、遊びに行っても邪険にするでもなく付き合ってくれるのでエスメラルダは大好きだ。

 泣いている理由はエスメラルダにはよく分からないが、友達いなさそうだな、とは思う。言葉にはしない。もちろんここがエスメラルダの故郷である王国であるならば真っ先にあげつらい高笑い攻撃の材料にしたが、今いるのは思いやりに溢れた蛮族の地である。


 王国から嫁いできて一年半。ついにエスメラルダは思いやりとやらのぼんやりとした輪郭を掴むことに成功したのだ。知ってる知ってる噂に聞く伝説のやつね。から、なんかどうやら実在してるらしい。くらいの認識の変化だ。もはや進化といってもいい。王国人にも思いやりを感じ取る機能、ありました。

 ちなみに蛮族の地とて特別思いやりに溢れているわけではないし、どちらかと言えば血なまぐさい歴史を持っているが、王国に比べれば世界中どこでも思いやりに溢れているので誤差である。


 一年半前、エスメラルダは王国からこの蛮族の地に嫁いできた。持てる全てを使って故郷の聖女を陥れ、欺き、騙し、蹴落とさんとした奮闘むなしく敗北からの断罪により、友好とは名ばかりの人身御供のように動物の生き血を啜ると噂の蛮族に差し出されたのだ。その道中で前世の記憶を取り戻し、以来特に生き血を啜っていなかった蛮族の地で楽しくやっている。


 何せエスメラルダの嫁いだ時点で既に夫となる蛮族の族長には七人の妻がおり、十一人の子供がおり、しかも将来を嘱望された跡継ぎの長男がいた。追放の道中で目論んだ内政チートだの改革だの町おこしだの以前に、エスメラルダが出来ることどころか期待されていることすらなかったのである。


 しかしエスメラルダは今の生活を気に入っている。夫は優しいし、夫の七人の妻達は面白いし、子供達は懐いてくれる。少し前に王国がちょっかいをかけてきた時にここぞとばかりに活躍したせいで、屋敷内の武官や文官からは時折恐ろしげな視線を向けられるが、それも悪くない。エスメラルダは王国では誰もが畏怖し道を開けるような存在だったのだ。心地よさすら感じる。




 さてその愛する夫が王国の戴冠式に招待され、第二夫人、第六夫人と共に旅立ってから一月。

 怪しげな風体の男達が屋敷に入り込んでから数時間。

 それらが第七夫人によって氷漬けにされてから数十分。

 危険があった場合には、と教えられたとおりに第七夫人の部屋に逃げ込んだエスメラルダだが、まさか第七夫人の魔術がここまでとは思っていなかった。

 王国でこの規模の魔術が使えるのは、王城の筆頭魔術師くらいだろう。


 それはさておき、侵入者である。他国を訪問する夫には当然ながら兵も大勢随伴しており、平素と比べれば屋敷の警備は手薄であっただろう。そこに警備の隙を突いて、数十人にも及ぶ暗殺者。


 間違いない、慣れ親しんだ故郷のやり口。


 エスメラルダは確信を持って頷いた。聖女だ。己が唯一ライバルであると認めた、完膚なきまでに叩きのめされた、そして数ヶ月前に復讐を完遂した聖女が、帰ってきた。


 エスメラルダには分かっていた。聖女はこれしきの敗北で諦めるような女ではない。そうでなければエスメラルダのライバルたり得ない。

 嬉しくて嬉しくて、エスメラルダはにまにまと笑った。自分がそうであったように、聖女もまたどうやってか生き延びて、王国人らしくエスメラルダに復讐をしに戻ってきてくれたのだ。私たちってやっぱり相思相愛。

 屋敷を襲わせる、という品性の欠片もないやり方もまた平民上がりで涙と笑顔だけが武器のあの聖女らしい。きっと氷漬けになったこの男達も、聖女の涙だか微笑みだかに唆されたのだ。


 事件だと言ったきり一人でニヤつくエスメラルダに、第七夫人が不審そうな目を向けた。よもやお前が黒幕か、というこれまたエスメラルダには慣れ親しんだ視線だ。

 しかし今回ばかりは黒幕だと思われるわけにはいかないし、実際黒幕ではない。この蛮族の地では、エスメラルダはまだ何も企んでいないし、企んだとしてもこんな品性の欠片もないやり方ではなく優雅にエレガントに徹底的にやる。かつて聖女にそうしたように。

 コホンとわざとらしく咳払いをして、エスメラルダは第七夫人に向き合った。


「大事件よ、七の姉様!」

「まあ…」


 第七夫人の返事はつれない。興味がないのだとありありと伝わってくる。付き合いの短いエスメラルダでも第七夫人の一番の興味が自身の哀れさだと分かっているので、実際屋敷の侵入者になど一切興味はないのだろう。


「犯人を捜さなきゃ!」

「犯人…ですの? 虫けらどもは全て氷漬けでしてよ」

「虫けら…。ええと、虫けらを唆した人がいるはずでしょ!」

「はあ…」


 聖女が戻ってきたならば、エスメラルダはどんな茶番にも全力でのってやらなければならない。

 だというのに分かっているのかいないのか。第七夫人は気のない返事をするばかりだ。これはだめかもしれない。

 エスメラルダは新たな遊び相手を探すべく部屋を見回した。


 第一夫人。頼れる大好きなお姉さまは夫の代わりに集まった武官や文官に矢継ぎ早に指示を出している。とてもお姉さま遊ぼ、なんて言えるような状況ではない。


 第二夫人。軍神と名高い憧れの佳人は王国へ向かっていて不在。もう既に会いたくて寂しくて泣いちゃいそう。生まれてこの方泣いたことないけど。


 第三夫人。常ならば一番構ってくれるはずだが今は据わった目で中空を睨み、言葉とも歌とも取れない低い音を口から漏らしている。秘技を駆使している最中の呪い師には、さすがのエスメラルダも話しかけられない。


 第四夫人。国一番の剣士である男装の麗人は、既に剣を手に部屋を飛び出している。きっと屋敷中をくまなく点検しているのだろう。いかにエスメラルダを甘やかす筆頭といえど、後を追ったところで追い返されるだけだ。


 第五夫人。いつもは朗らかに笑うその人も、不安そうな子供達を両手に抱き抱え膝にも乗せ、得意の歌で慰めている。エスメラルダも泣き真似をしてその膝に懐きたいが、今はその時ではない。


 第六夫人。一番の仲良しの大商人も王国へ向かっていて不在。いたら絶対誘ったのに。絶対楽しかったのに。


 遊び相手の子供達は言わずもがな。今は誘ったところで付いてきてくれる筈もない。


 姉たちの顔を順繰りに見て、エスメラルダは再び第七夫人に向き直った。

 暇人はここにいる二人しかいないのだ。仕方ない、やはり第七夫人を巻き込むしかない。


「探偵団を! 作ります!」

「はあ…」


 相手がどれだけ乗り気でなかろうと、エスメラルダがやると決めた。やると決めたのなら絶対にやる。エスメラルダはそういう女である。

 だからこそ聖女様を陰湿にいじめ抜き異端審問一歩手前まで追い詰め、やり返されて追放された後も諦めず、ついには王子殿下ごと復讐を完遂したのだから。


 *


「まず、探偵ってなんですの?」


 どうやら引き下がらないらしいと察した第七夫人が、対面に座ったエスメラルダに問う。第七夫人の部屋だが、常とは違い扉が開け放たれたままで、周囲を人が走り回っている。屋敷内の主要な者の殆どがこの部屋にいた。何せ第七夫人こそが屋敷どころかこの国の防衛の要であるので、本当に危険がないと確認されるまでは側にいるのが一番安全なのだ。


 ちなみに第七夫人は「虫退治は終わったと申しましたのに、信じて貰えない哀れなわたくし…」とつい先ほどひと泣きして第一夫人に「念のためだよ!」と叱られている。

 説明を聞くところによると、第七夫人の魔術に精密性はさほどなく、第三夫人が呪いで印を付けた殺してはいけない人間以外の全ての人間を凍り付かせたらしい。それはさすがのエスメラルダも「点検はいると思ーう」と賛同した。


 探偵の意味を聞かれてエスメラルダは困った。犯人捜しをするなら探偵だ、と安直に前世の記憶から引っ張り出してきただけで、説明を出来るほど詳しいわけではない。

 エスメラルダの前世はどちらかと言えば教養の低い人間だったし、何より前世の記憶は大変薄らぼんやりしている。そもそも前世が教養高かったり記憶がはっきりしていれば、当初目論んだ内政チートだの改革だの町おこしだのに力いっぱい取り組んでいた。


 エスメラルダだって夜中に何度も前世の自分を「なんて役に立たないの!」と罵ったのだ。

 朝のラッシュ時に比較的空いている車両とかお惣菜が美味しいスーパーとかどうでも良いから治水工事の方法とかを覚えておきなさいよ。信号が青になるタイミングとか可燃ゴミの曜日とかそういうことじゃなくて!


「探偵っていうのはぁ、頭が良くて…」

「あたま…」


 あまりに自信がないものだから、いつもならば考えなくてもペラペラとよく回るはずの口も錆び付いたように動かない。第七夫人が思いのほか興味を示して聞く体勢に入っているのもまた辛い。そんなに真剣に聞いてもらえるほどの説明を出来る未来が見えない。


 エスメラルダはできる限り厳格に見えるように、腕組みをした。手本は会議の時の夫だ。夫は妻の前ではのんびりおっとり眠そうな熊のようだが、部下の前では威厳があり怖そうなのだ。


「色んな所を見て回って推理して犯人を当てちゃうのよ、頭が良いから」

「まあ、ではわたくしは向いていませんわ。わたくし推理なんてとても…。拷問ならお役に立てましたのに、やはり必要とされないわたくしなど…」

「大丈夫よ七の姉様! 探偵には暴力担当の相棒がいるものよ!」

「あら、そうですの? それならわたくし得意ですわ」


 意見の一致に、エスメラルダはにっこりと笑った。珍しく第七夫人も頬を赤らめている。いかにも儚げで守ってあげたくなるような美女である。


「セツトラリュスカ・エスメラルダ探偵団の結成よ!」

「セトランですわよ、エイリャン」

「セトラン・エイリャン探偵団!」

「よろしい」


 エスメラルダは妹仕草を心得ているので、探偵団の名前の最初に姉の名前を持ってくるし、忠告は素直に聞くのだ。

 エスメラルダは元気に拳を振り上げた。


「じゃあ早速! 犯人捜しに出発!」

「行きませんわよ」


 間髪入れずに第七夫人の言葉に、エスメラルダは思わず彼女を二度見した。今までの数十分の内に交わした会話が高速で脳内を巡る。


 忙しく立ち働く人々の中、暇人二人は確かに探偵団もどきの結成で合意したはずだ。

 まるで素晴らしく狡猾で巧みで何より陰湿な作戦があるんですよ、という顔で第七夫人と話し込んでいたから様々な仕事を振られずに済んでいたのに、ここで第七夫人に裏切られてはめざとい第一夫人に暇なことを見抜かれて、やれ怪しい輩の尋問だの抜け道の捜索だのに駆り出されてしまう。

 エスメラルダは自分の全く仕事のない第八夫人という立場を大変に気に入っているのだ。絶対に働きたくない。細々とした用事なんてやりたくない。悪いことをやる時だけ呼んでほしい。


「え、ど、だって七の姉様一緒に探偵団…」

「ええ、やりましょうね」

「だから一緒に証拠探しに…」

「わたくしこの部屋からは出ませんわよ」

「探偵団…」

「ええ、やりましょうね」


 第七夫人の表情は崩れない。相変わらず儚げで、悲しげで、何かに耐えるように眉間に僅かな皺を寄せている。一見すると、エスメラルダが第七夫人に我が儘を言って無理難題を突きつけているようにしか見えない。


「部屋から出なきゃ推理できないわよーう!」

「でもわたくし、この部屋からは出ませんの」


 エスメラルダは、なんだかんだと第七夫人は自分を妹として可愛がってくれるから、頼めば部屋から出てくれると思っていた。第一夫人がどれだけ口やかましく言っても聞かない第七夫人も、自分が言うならば、と。

 帝国人の我の強さを甘く見ていた。頑固とも言う。帝国人はこれと決めたら何がなんでも貫き通すのだ。そうでなければあのような雪深い、年中凍り付いた山中に国を築かない。


「でもそうしたら、暴力係がいなくなっちゃーう!」

「この部屋からでもお前の周囲を全て凍らせるくらいできますよ」

「そうじゃなくて!」


 エスメラルダは第七夫人と遊びたいのだ。一人で探偵ごっこがしたいわけではない。せっかく聖女が戻ってきてくれたのだから、皆で楽しさを分かち合いたい。一人でやると失敗する、という教訓も痛いほど得ている。

 折れそうにないエスメラルダに、第七夫人は「なんて哀れなわたくし…」と呟きながら周囲を見回した。

 そして一点に目を留めると、その真っ白な長い指でそっと指さした。


「ほら、丁度良いのがいましたわよ。剣も持っていますわ」

「えっ」


 そろそろ泣き真似をしてみようかとしていたエスメラルダが見た先で、巻き込まれると思っていなかったらしい総領息子が目を見開いていた。


 *


「はあ…セツトラリュスカ様が部屋を出られないのは仕方がないですけど」

「ええ!?」


 第七夫人が約束を守ってくれない、という訴えに、総領息子が納得顔で頷いたものだから、エスメラルダは心底驚いた。

 総領息子は自分の味方をしてくれるに違いないと思っていたのだ。だってエスメラルダと総領息子はもう散々良いことも悪いことも一緒にやった友達で、言うなれば義母も義息も超えた親友で、二人まとめて叱られた数など両手では収まらないのに。

 驚きのあまり大きな声を出てしまったせいで、難しい顔で話し合っていた部屋の中の面々の目が一瞬エスメラルダに向かった。しかしそれどころではないのでエスメラルダは全て無視をした。


「なんでよーう!」

「だってセツトラリュスカ様の傍が一番安全だから、皆この部屋に集まってるんですよ」


 さすが頭脳明晰、眉目秀麗、非の打ち所がないと持て囃され、エスメラルダに連れ回されるようになるまでは只の一度も叱られたことなどないと噂されていた蛮族自慢の跡継ぎ息子だけある。この上なく正論である。


 エスメラルダは念のため、精一杯可愛らしく拗ねた顔をしてみせた。しかし総領息子も第七夫人も眉一つ動かしてはくれなかった。第四夫人ならばこの顔でころっと騙されて機嫌を取ってくれるのに。

 エスメラルダは渾身の拗ね顔をすぐさま引っ込め、顎の下に皺を寄せた。エスメラルダは意味がない媚びを売り続けるなんて非効率なことはしない。そもそも効くとも思っていなかった。


「それで、なんで僕が一緒に行くことになるんですか」


 総領息子はこの頃遂にエスメラルダに追いついた背をぐっと伸ばした。父から譲られた剣に手を掛けて、いかにも自分は暇じゃないという顔をしてみせる。

 それを鼻で笑ったのは第七夫人だ。


「まあお前、ここにいて何か仕事があるかしら」

「お言葉ですが、セツトラリュスカ様…」

「それに何ですの、その言葉遣い」

「え、今怒られる流れ? 七の姉様って礼儀とか厳しい感じ?」

「ちょっと、八の母様は黙っててよ」

「それです」


 パキン、と第七夫人の手元で氷が爆ぜる音がした。総領息子の肩が跳ねる。

 第七夫人は帝国では「凍土の御方」と呼ばれる稀代の氷雪魔術師である。その力を見込まれて、蛮族の地へと是非にと望まれ嫁いできた。

 魔力を暴走させることなどあり得ない。なのでこれは、分かりやすく警告であり威嚇だった。


「それ、とは」


 エスメラルダは、左を向いて総領息子の眉間を流れる汗を眺めた。第七夫人の出した氷で部屋は涼しいくらいだというのに。


「お前、エイリャンのことは母様と呼んでいるではないの」


 エスメラルダは、右を向いて第七夫人の眇められた目を眺めた。いつもはいかにも悲しげな印象を与える寄せられた眉が、今ばかりは威厳を湛えている。こうしていると、三千年に及ぶ帝国の歴史で常に君臨し続けた皇帝の血が垣間見える。


「ご不快でしたら…」

「なぜわたくしのことは母と呼ばないの」


 次はどちらが喋るのかな、と交互に二人の顔を眺めるが、それきり二人とも黙りこくってしまう。総領息子が助けを求めるように自分を見たので、エスメラルダは気分良く一歩前に出た。

 普段は自分は常識人ですよ、義母を諫める立場ですよ、と澄ました顔をしている義理の息子が自分に頼ってくるのは気分が良い。エスメラルダ、そういうのだーいすき。

 ここは義母として、世間の厳しさを教えてやらねばならない。


「七の母様って呼びなさいよーう」

「いえ、それは」

「私のことは八の母様って呼ぶじゃなーい」

「それは八の母様がそう呼ばなきゃ返事しないって言うから!」


 どれだけ大人ぶってみてもまだ十四歳、少しエスメラルダがつつくだけですぐに取り乱す。


 エスメラルダは知っている。最近、総領息子は生みの親である第一夫人のことを、母様ではなく母上と呼び始めた。思春期の到来である。それなのに今まで距離のあった第七夫人を今更母様と呼ぶのは、大変に気恥ずかしいことだろう。


 第七夫人は幼い子供達に人気だ。常に部屋におり、訪ねれば積極的に関わっては来ないが必ず帝国の菓子を出してくれ、まず怒らない。しかし第七夫人が嫁いできた時には既に物心ついていた総領息子からしてみれば、婚礼の日の気難しそうな隣国のお姫様という印象ばかりが記憶に残っているのだ。


 それを知っていながら、エスメラルダは二人を見守った。つつけそうな弱みは取り敢えずつつく。どうしようもない王国人のサガである。

 そもそも他の子供たちだって、義母のことを母とは呼んでいない。全員に母と呼ばせたエスメラルダだけが特例なのだ。


「母と呼んでももらえない…わたくしはなんて哀れなの…」

「あーあ、七の姉様を悲しませた」

「僕のせいじゃないです!」


 悲しげに俯く第七夫人の肩に、エスメラルダはわざとらしく「七の姉様泣かないでー」としなだれかかった。


「分かりました! 七の母様! 八の母様! これでいいんでしょう!」

「よろしい」


 当然ながら総領息子が折れて、第七夫人は先程までの悲しげな表情はどこへやら、一瞬でいつもの顔に戻っている。

 エスメラルダの探偵団は、これでようやく始動の体制が整った。


「犯人捜しっていったって、心当たりでもあるんですか?」


 エスメラルダと、第七夫人と、総領息子で小さな茶卓を囲んで頭を寄せ合う。その隙間にそっと茶が差し入れられた。三人が戯れている間も律儀にエスメラルダの後ろに控えていた無口な侍女だ。

 エスメラルダの周囲にいつもいる護衛は、今ばかりはエスメラルダの傍を離れて第四夫人の指示に従っている。なにせ人手不足なので仕方がない。


「帝国の手の者ではないのは確かですわよ」

「そうなの?」

「帝国の者があの程度の小物をこのわたくしに仕掛けてくる筈がありませんもの…」


 エスメラルダは第七夫人を見た。大真面目である。そしてそれが事実なのだと、つい先ほど目前で見たばかりだ。だからエスメラルダもまた大真面目な顔で頷いて、総領息子に視線を投げた。総領息子もまた大真面目な顔をしている。どうやらエスメラルダの言葉を待っているらしい。エスメラルダはそちらにも大きく頷いて見せた。


「この私に心当たりがないとでも?」

「まあ…」

「ここから名探偵エスメラルダの伝説が始まるのよ!」

「なんですか、名探偵って」


 エスメラルダは総領息子の言葉を無視した。第七夫人は興味が薄い故に誤魔化されてくれたが、優秀で真面目な総領息子はエスメラルダの適当な説明では何も納得してくれないと分かっているからだ。答えられない質問はそもそも聞かなければいいのである。


「それで誰ですの、犯人は」

「まだそれを言うべき時ではないわね…」

「なんですか、それ」


 言ってみたかっただけだ。あとは「犯人はお前だ」と、「こんな所にいられるか、俺は部屋に戻るぞ」と「面白い推理ですね探偵さん」と…。

 エスメラルダの薄っぺらい前世の知識は、石けんの作り方だの灌漑工事のやり方だのは絶対に覚えていないくせにこういうものばかり鮮明に記憶に留めている。恐らく相当に薄っぺらい人生を送っていたに違いない。


「まあとにかく! 行くのよ捜査に!」


 エスメラルダは手元の茶をぐいと飲み干して立ち上がった。相変わらずエスメラルダ好みの温度と濃さで、とても美味しい。

 意気揚々と歩き出したエスメラルダの後ろで、置いていかれそうになった総領息子が慌てている。その横では第七夫人が「わたくしはここで待っていますからね」と手を振った。



 3.


「えっ」


 エスメラルダは、そう言ったきり口を噤んだ。次に何と言えばいいのか分からなかった。

 そんなエスメラルダを、部屋に残っていた文官が不思議そうに見る。第四夫人はまだ戻っておらず、第三夫人と第五夫人は部屋から姿を消していた。子供達もいない。とりあえずの安全は確認されたということだろう。


 エスメラルダは今日一日、朝第七夫人の部屋を出てから今まで総領息子と二人で屋敷の隅々まで歩き回って犯人捜しもとい証拠探しをした。

 怪しい傷を見付けては第七夫人に報告し、怪しい音を聞いては第七夫人に知らせに行き、怪しい小石を拾っては第七夫人の前に並べた。第七夫人はそれらを見て「まあ」だの「あら」だの言って見せた。つまり大した成果はなかったということなのだが、とてもとても楽しかった。


 その遊びの間にも、エスメラルダは目を皿のようにして探していたのだ。

 王国の暗殺者が使う符牒、盗賊が使う符牒、果ては王の影が使う符牒までも探したのに、それらはどこにも見当たらない。

 あまりに見付からないものだから、では王国人ではないのだと第七夫人に帝国の暗殺者の符牒を教えて貰ってそれも探した。でも見付からない。さては聖女め蛮族の民を雇ったかと同じように総領息子にも聞いたが、総領息子は「符牒ってなんですかそれ」と顰め面をした。どうやら一つも知らないらしい。自国の暗殺者の符牒くらい一つ二つ覚えておくのが常識だというのに。


 それはさておき。そこまでしても聖女の痕跡が見付けられない。さすがは我が終生のライバル。一度は自分を負かした女。

 探したらすぐにでも痕跡を見付けられると思っていたのに、敵もさる者。エスメラルダが蛮族の地で学び、成長し、己が能力に磨きを掛けたように、聖女もまた断頭台から逃げ延び、力を増して戻ってきたのだろう。

 エスメラルダは内心聖女を称えながらも、収穫のないまま第七夫人の部屋へと戻った。おやつの時間だったからだ。


 戻ってきたエスメラルダに「さっきから一体なにをしてるんだい」と声をかけたのが第一夫人だった。

 今日一日忙しなく各所に指示を飛ばしていた第一夫人は疲れた顔をしていた。エスメラルダは今日ばかりは第一夫人は自分に構ってくれないだろうと思っていたので、話しかけられたのが嬉しくてぱっと笑った。もう二度と会えないと思っていたライバルと間もなく再び相まみえるという喜びと興奮で、エスメラルダは今日一日機嫌がいい。


 なのでその機嫌のまま、元気に「犯人を捜してるのよ!」と返事をした。

 それに返ってきたのが、「犯人は西の氏族だよ。こんなに入り込まれたのは初めてだけどね」という言葉だったのだ。


 だからエスメラルダは、「えっ」と言ったきり次の言葉が何も出なくなってしまった。


「まったくどこから入り込まれたんだか。西のもしつこいね」

「えーっと、それは絶対な感じ?」

「絶対?」

「西の氏族が犯人じゃない可能性もあったりしない?」

「まさか、奴らの使う武器を持ってる」


 エスメラルダは口を引き結んで黙った。

 だって、エスメラルダは本当の本当に心から犯人は聖女だと思っていたのだ。あの子が自分に復讐することを諦めず、全ての困難を乗り越えて、泥水を啜ってでもここまで来てくれたのだと。自分がそうしたように。


 あの子は聖女だから。百年に一度の光魔法の使い手だから。癒やしの手を持つ乙女だから。エスメラルダと対をなす存在だから。私たち二人で一つのはずだから。

 次はあの子が復讐する番だから。


「そういえば、そんなのもいましたわね…」


 隣にいた第七夫人がぼんやりと呟く。エスメラルダは顔を正面に向けたまま、ゆっくりと目だけで第七夫人を見た。第七夫人は相変わらず儚げに、嫋やかに、今にも泣きそうな瞳でそこに立っている。今日一日エスメラルダが持ち帰った報告を聞いていた時と同じ、何事にも興味のなさそうな表情で。


 目を見開いたまま一言も喋らないエスメラルダに、第一夫人は怪訝な顔をした。だが理由を聞くことはしなかった。疲れているのだ。


「僕ら、怪しいものがないか探してました」


 様子のおかしいエスメラルダを気遣ったのは総領息子だ。エスメラルダをチラチラと見ながら、今日一日で見付けたものを母親に報告している。


「エイリャン、あなたの心当たりとやらはどうでしたの」

「たった今なくなったわ!」


 第七夫人の質問に、エスメラルダはなけなしのプライドでどうにかそう言った。誰かの問いかけに答えられないなんて、そんな自分は許せない。自分の中に残った空元気をどうにかかき集めて押し出した言葉は、想定以上に元気に響いた。

 エスメラルダはくるりと背を向けて、第七夫人がいつも座っている窓際の寝椅子までふらふらと歩く。その後ろ姿を第七夫人がどんな表情で見ていようが、総領息子が第一夫人に何と説明しようが、第一夫人がそれにどんな反応をしようが、もうどうでもよかった。


 そりゃそう。

 そりゃそうすぎた。

 せっかく前世の記憶を思い出して、客観性という素晴らしいものを手に入れたというのに。エスメラルダときたら本当に思い込みの激しいうっかりさん。断頭台から逃げる術なんてあるはずないのに。あの断罪の夜だって、自分の勝利を確信して油断したから起こったのに。


 世の中そんなに甘くない。

 少し前、この蛮族の地に降り立った時に思った言葉を改めて噛み締める。

 エスメラルダの前世は大人の女だから、人生が上手くいかないことも、勝利を確信した時ほど負けることも、自分が思うほど世間が甘くないこともよく知っていた。

 でも今日ばかりはちょっと立ち直れそうになかった。


 絨毯の上にぺたりと座る。座ったつもりだが、上体はそのまま絨毯に吸い込まれていった。第七夫人の部屋にある毛足の長い細かな刺繍の絨毯は分厚くて、エスメラルダの体を柔らかく受け止める。


 全然おもしろくなーい。

 もうすっかりやる気をなくして、エスメラルダはそのまま横たわった。ふて寝である。蛮族は屋敷内では布靴を履くため、床は汚れていない。人前で床に寝転ぶのは少々はしたないが、それを咎めるような人間もこの場にはいない。


「それで、侵入経路は分かったのかい?」

「知らなーい」

「探偵とやらはどうしますの」

「解散よ解散」


 不貞腐れているので第一夫人の質問にも背中を向けたまま返事をする。

 無口で忠実な侍女が、音もなくエスメラルダの顔の前に菓子皿を置いた。そういえばおやつの時間だから戻ってきたのだった。


 エスメラルダは手を伸ばし、適当に最初に触った菓子を口に放り込んだ。ふて寝しているのだから寝転んだままおやつも食べる。エスメラルダの忠実な侍女たちは、主人の無作法もすべて黙認する。ただ菓子皿を動かして、取りやすい位置に調整した。


「何を拗ねてるんだか…。それより、あんたの出番だよ」

「ええ-?」


 大体王子だって何をしているのだ。脱獄の一つや二つしてみせて愛する女を救ってこその王子だろうに。あいつは昔からそうだった。中途半端に陰湿で、小心で、そうあれは六歳の夏のお茶会の時…。

 エスメラルダは陰湿な上に粘着質なので、誰かがした大昔の失敗を、どんな些細なものでも鮮明に思い出す事が出来る。絶対に忘れない。王子が式典で転んで、並み居る貴族の前で大恥をかいた日の天気だって鮮明に思い出せる。

 生まれて初めてあの王子に期待してやったというのに、結果がこのざま。自分の祖国の陰湿さを過信しすぎたのだ。奴らならもっとやれると思っていた。


「だいたい探偵ものの犯人がぽっと出でいいわけ? 過去の因縁とかの匂わせが足りなくなーい?」


 だらしなく寝転ってブツブツと呟くエスメラルダにため息を吐いて、第一夫人がその隣に座った。


「いいかい、仕掛けてきたのは西の氏族の一部だよ。西の氏族は分かるかい?」

「んー」


 エスメラルダが気のない返事をしても、第一夫人は話し続ける。


「うちの人の兄が戦死したってのは知ってるね。あそこの娘はうちの人の兄の…長男の方の妻だった。でも長男が戦死して、族長を継ぐのはうちの人になった。あの女はそのまま族長夫人になれると思っていたようだけど、そうはならなかった」


 エスメラルダはむくりと起き上がり、居住まいを正した。足を綺麗に揃え、広がっていた装束の裾を整える。

 エスメラルダ好みのすごく面白い話が始まった気がしたからだ。こちらも礼を尽くして聞かねばならない。


「その時あの女の腹には子供がいてね、あの女はその子が後を継ぐべきだと騒ぎ立てたんだが」

「似てないのね!?」

「それもあるけど、時期がどうもね」

「合わないのね!?」

「一度見ましたけれど、似ても似つきませんわ」

「当の子供は母親や祖父母を嫌ってとっくに家を出て行ってるっていうのにね。いつまでも諦めやしない」


 第七夫人もエスメラルダの隣に座り込んで、話に加わった。ゴシップは二人で話すより三人で話す方が倍楽しい。その場の全員が気心が知れているならなお良い。

 エスメラルダと第七夫人と第六夫人は三人集まっては噂話をする仲だが、その場でもこんなに面白い話は出なかった。第六夫人が帰ってきたら、なぜ教えてくれなかったのかと文句を言わねばならない。

 信用第一の商人である第六夫人は、決して嘘をつかない。嘘をつかないからといって必ず真実を言うわけでもない。だってそれって両立できるじゃない、とは本人の談。


「エイリャン、あなたの婚礼の席にも来ておりましたわよ」

「ええー、思い出せない」

「普段は立ち入らせないんだが、祝いに来た人間を追い返すのは縁起が悪い。あいつもそれが分かってて来たのさ」


 エスメラルダは腕を組んで婚礼と言うより大宴会と呼んだ方が相応しい夜を思い出すが、熱気にとにかく圧倒されていたことしか思い出せない。事前に言ってくれれば人となりを余すところなく見定めていたのだが、あの日は隣に座る夫が呪われているようにも見えないし「お前を愛することはない」とも言いそうにないしでそれを考えるだけで精一杯だった。


「そんなわけで何かとちょっかいをかけてくるのさ。エイリャンの婚礼からこっち落ち着いてたんだが、この準備をしてたんだろうね」

「旦那様がいないからついに仕掛けてきたのね!?」

「あと、あれの大嫌いな二番目もいないからね」


 あんなに美しくて儚くて賢くて戦争上手な二の姉様を嫌うなんて信じられない、とエスメラルダは目を見開いた。

 いつも第二夫人はエスメラルダをその低くてしっとりした声でそっと叱る。そうするともうエスメラルダは、この人に叱って貰うために生まれてきたような心地になるのに。


「それでその西の氏族は…」

「エイリャンの出番というのはなんですの?」


 身を乗り出して詳細を聞こうとしたエスメラルダを遮るように、第七夫人が聞いた。


「今までは哀れだと見逃してきたが、ここまで大規模にやられたら何かしら制裁をしなきゃいけない。でもあたしは留守を預かってるがね、西の氏族の者を牢にぶち込むほどの権限はないのさ。だから、あんたの出番だ、エイリャン」


 第七夫人と第一夫人が同時にエスメラルダを見た。横で黙って話を聞いていた総領息子もエスメラルダを見た。

 エスメラルダは口角が上がりそうになるのを必死に堪えながら、なんとか真顔を保った。焦ってはいけない。ここでがっついてはいけない。つい先ほど焦って思い込んでがっついた結果痛い目を見たばかりである。エスメラルダは学べる女なのだ。自分から言うのではなく、相手から言質を取らなければ。

 口の端をピクピクさせながらも何も言わないエスメラルダに、ついに第一夫人が折れて口を開いた。


「うちの人が帰ってくるまでの間、好きに嫌がらせしていいよ」

「やった! 任せて! 任せて! 得意分野よ!」

「最悪の得意分野だよ、八の母様…」


 総領息子が何を言おうとどうでも良かった。エスメラルダ、そういう仕事ならだーい好き。

 そしてエスメラルダは夢見るように語り始めた。


 あのね、大きいパーティーをしましょ。

 大きい大きいパーティーよ。渾身のパーティー。そこにあの女…西の氏族の人を招待するの。どうしても来て欲しいってお願いするの。

 きっと大喜びで来るでしょ。ついに自分が認められたんだって、次の族長の母は私だって、奪われたものを取り返すんだって。

 だからちゃんとおもてなしをして、礼儀を尽くしてあげるの。他の招待客とまったく同じように。上にも下にも特別扱いなんてしてあげないの。

 きっとおかしいなって顔をするから。おかしいなって顔をするけど、途中で帰ったりはしないから。


 西の氏族の住む場所は遠いでしょ。

 お部屋を用意してあげるの。ちょうど真ん中の部屋よ。上にも下にも特別扱いはしないから。いつまでいてもいいですよって言ってあげるの。

 きっと一日中屋敷の中を得意気に歩き回るから。命令してみたり我が儘言ってみたり、主人のように振る舞おうとするから。

 でも誰も言うことを聞いちゃ駄目よ。上でも下でもない、普通のお客様の扱いをするのよ。


 きっとあの人、自分が一番って顔をするでしょ。

 だから皆でお姉さまをちやほやするの。お姉さますごいですわ、お姉さまさすがですわ、お姉さまがいないと何もできませんわって。あの人が見ていても見ていなくても。

 七の姉様もよ。お姉さまが呼んだときだけは部屋から出るの。あの人きっと、七の姉様に近付こうとする。だって一番強いもの。お話を聞いてあげて、頷いてあげて、でもお姉さまに呼ばれたらすぐに部屋から出て行ってね。振り返ってはだめよ。悔しくて悔しくて、きっとあの人すごい顔をするはず。


 西の氏族ってあれでしょ。

 賢者の…賢人の…なんだっけ、頭の良いおうちでしょ。あの人の滞在が長引けば、まずいと思ってきっと家の誰かが迎えに来る。それを全部追い返すの。客人に無礼を働くことは許さんぞって。あの人は屋敷にいられる限り自分から帰ろうとはしないはずだから。

 こっちが黙ってるのを良いことに、今までずっと娘を野放しにしてきたんでしょ。多分あわよくばって思ってるのよね。

 焦るわよぅ。困るわよぅ。可愛いお馬鹿な娘は敵の手の中。そしたらもう弱みでしかないもの。

 ねえきっと何とかして会おうとするわよ。どこかから入り込んで、どうにかして連絡をして、なんとかして連れ帰ろうとするの。屋敷の、許可がなければ入れない場所にまで潜り込んで。


 全部が整ったら、きっとあの人も気が付くでしょ。

 自分が歓迎されてないんだって。全員で自分を馬鹿にしてるんだって。自分の望みは叶わないんだって。

 あの人は全部が憎くて、手元には潜り込んできた忠実な手勢がいて、怒り狂ってる。

 ねえ法典読んだことある? 私あれ大好き。屋敷内で道理無き私闘を行った場合は本人を処刑、直系尊属を追放するとか書いてあるし。

 ね、あとは分かるでしょ。


「よくもまあ、そう嫌がらせばかり思い付くもんだね」

「ありがとう!」


 賞賛の言葉に、エスメラルダはにっこり笑った。だが当の第一夫人は肩を竦めるだけだ。褒めたつもりはなかったらしい。

 どうやら文化の違いってやつね、とエスメラルダは真似して肩をちょっと持ち上げた。自慢げに持ち上げた口角は崩さない。エスメラルダにとって最高の賛辞なのは変わらないからだ。


「まあいい。さ、あんたたち聞いてたね! 宴の準備をしな!」


 第一夫人がため息を吐きながら立ち上がり、その呼びかけに俄に部屋が騒がしくなる。一度も口を挟まなかった文官たちもしっかり話は聞いていたらしい。小声で「こわっ」などと呟きながら足早に部屋を出て行く。

 もっと大きな声で怖がってくれてもいいのだけど、と思いながら眺めるエスメラルダに、第七夫人が囁いた。


「よろしいの? 西の氏族は…」

「二の姉様のおうちよね」


 エスメラルダとて、蛮族の地に嫁いでからこちら、ただ無職を楽しんでいたわけではない。地理を学び、気候を学び、歴史を学んだ。もちろん他の夫人たちの生家のこともしっかり学んだ。敵味方に関わらず、握れそうな弱みは全て握っておくべきだからだ。

 だから当然、第二夫人の実家である西の氏族が戦上手で鳴らしているのも、一枚岩ではないのも、第二夫人の父である家長と例の女の父であるその弟がことあるごとに揉めているのも知っている。


「二の姉様がやったこと、全部自分が出来るはずだったって思ってるから大嫌いなのよ、きっと」

「まあ…人には分相応というものがありますのに」

「二の姉様はきっと気にしてないけど、鬱陶しいとは思ってるはずよね」

「小バエのように飛び回っておりますもの」

「綺麗にお片付けしたら、二の姉様褒めてくれるかな」

「…あの戦争屋の何をそんなに気に入っているのか分かりませんわ…哀れなわたくし…」


 第七夫人がポロリと涙をこぼしたのを見て、エスメラルダはうきうきと立ち上がった。第七夫人が泣いたのなら、つまりもう屋敷内に緊張するような物事は何もないということだ。



 4.


 忙しなく宴の準備が進むなか、エスメラルダはいつも通りに毎日を過ごした。エスメラルダがすべきことは計画立案、あとは仕上げくらいで、実行はその範疇にない。仕事は最も得意な者に任せるべきなのだ。


 だから件の相手が到着したと告げられた時も、いつも通り第七夫人の息子と手を繋ぎ、他の子供達を引き連れて庭で遊んでいた。出迎えも、挨拶もしなかった。王国から嫁いだ高位貴族の娘であるエスメラルダは、蛮族の地方有力者の娘などに顔を見せる必要がないからだ。


 宴の間も与えられた席でつまらないという顔をして座っていたし、女が近寄っても開いた扇の後ろから一瞬片目を覗かせて上から下まで眺めて、あとは返事もしなかった。そういったことをさせたら右に出る者はいない、それがエスメラルダである。




 エスメラルダは廊下を早足に進む。見事な装飾を凝らした籠を両手で抱え、後ろからはこれまた装飾された箱を持った侍女を従えている。

 それを呼び止めたのが、件の女であった。


「エイリャン様、お待ちになって」


 エスメラルダは無言で立ち止まった。冷めた目で女を見やる。女の髪にはツヤがなく、尊大になり損ねたような笑みを浮かべている。


「そんなに急いでどちらへ行くの?」

「…お前に、その名で呼ぶことを許した覚えはないけれど」

「あ…」


 女が言い訳を述べる前に、エスメラルダは廊下の曲がり角に目をやり、わざとらしく「きゃあ」とはしゃいだ声を上げた。

 女が何事かとエスメラルダの視線の先を見る。


「お姉さま! こちらにいらしたのね!」

「おや、エイリャン」

「探していましたのよ!」


 エスメラルダは先ほどとはまるで別人のように喜色満面に、廊下の角を曲がって現れた第一夫人に駆け寄った。探していたもなにも、ここを歩いていると聞いてやって来たところだ。


「なにかあたしに用事かい?」

「ええ、ええ! 王国から宝石が届きましたのよ! お姉さまに似合うと思って取り寄せたの。父の領地から採掘されたもので、史上類を見ないほど大きくて…」


 両手に持っていた籠を第一夫人に差し出しながら、二人並んで女を振り返りもせずに立ち去る。背後でした何かが折れるような音は、髪飾りだろうか。


 角を二つほど曲がり、女と声も届かぬほど離れたことを確認してからエスメラルダは立ち止まった。


「あんた本当に、こんなことばっかり上手になって…」

「なによーう」

「まったく…」


 エスメラルダは口を尖らせて、わざとらしく拗ねた顔をした。いつか第七夫人と総領息子にしてみせた顔だ。あの時はまったく効果がなかったが、今回は明確に効いた。

 第一夫人が眉を下げて笑う。


「仕方が無い子だね」

「褒めてくれてもいいのよ」

「よくやったよくやった。それで、籠の中には何を入れてきたんだい」


 エスメラルダが両手で抱えていた籠に掛かっていた薄絹を、第一夫人が捲る。籠の中身が半分見えた所で第一夫人の手が止まり、そのまま布を戻した。


「あんたこれどうしたの」

「嫁入り道具を引っ張り出してきたの。お姉さまいる?」

「しまっときな!」


 エスメラルダは籠に手を突っ込んで石を鷲掴み、第一夫人に渡そうとした。

 エスメラルダの瞳と同じ色の、薄緑の大きな石だ。金の装飾で飾られたそれは、確かにエスメラルダの父の領地で採掘された、他に類を見ないほど大きなものだ。違うのは王国から届いたのではなく、エスメラルダが自分の手で王国から持ってきたということだけ。


 石がエスメラルダの瞳の色と同じということは王国に伝わる伝説の乙女の瞳の色と同じということで、王家に連なる者を証明する色ということで、つまり王城の宝物庫にしまい込まれていてもおかしくないということである。


 ぐいぐい差し出してくるエスメラルダを嫌そうに避けながら、第一夫人はまたため息を吐いた。エスメラルダは大好きなお姉さまに最近ため息が増えて心配している。


 *


 その女が廊下を酷い形相でやってきた時、エスメラルダはとても嬉しかった。

 隣にいた総領息子がエスメラルダを見る。


「分かってて今日一日近くにいたんですか?」

「濡れ衣よーう。そろそろかなーって思っただけ」

「それ母上には言いました?」

「言うわけないじゃなーい」

「喧嘩を止めることすらできない…哀れなわたくし…」


 総領息子がエスメラルダを睨む。剣術の鍛錬が終わった総領息子を引っ張って第七夫人の部屋へとやってきた所だったので、開かれた扉の前で第七夫人もぽろぽろと涙を零した。

 いかにも追い詰められている様子なので仕掛けてくるならそろそろだろうな、と思ったのも、それを誰にも言わなかったのも事実だ。だがきちんと標的である総領息子を第七夫人の部屋という安全地帯に連れてきたのだから、エスメラルダとしては褒めて欲しい。


「お前さえ! お前が!」


 見たところ女の手には刃物があるが、一人きりで他の人間はいなさそうだ。数日前に第三夫人が「ネズミが忍び込んで入り込んでうろついてるよ」と言っていたので、女のお迎えはきっと指示されて第一夫人の方に行っているのだろう。あいにくだがそちらは兵で固められているし、何より第四夫人がいる。来ると分かっている敵に第四夫人は負けない。


 エスメラルダは剣術の授業が終わったばかりで剣を持ったままの総領息子を上から下まで眺めた。同じように第七夫人も総領息子を見ている。総領息子本人は緊張した面持ちで柄に手を掛け、近付いてくる女を見ている。

 エスメラルダの目と、第七夫人の目が合った。


「きゃあー、助けてー」

「ああ、抵抗も出来ない、わたくしはなんて弱いの…」

「えっ」


 エスメラルダがぐいぐいと総領息子の背を押せば、第七夫人もよよと泣き崩れる。総領息子が戸惑いながらも前に出て剣を構えた。さすが出来息子と名高いだけはある。


 女はもう目前まで迫り、手に持った短刀を振りかぶっている。動作の大きいそれはエスメラルダの目でもはっきりと軌跡を追う事が出来た。であるならば当然日常的に剣を振る総領息子には止まっているも同然で、剣で短刀を弾く金属音が一つ二つと鳴る。動作に危なげはない。


「その調子よ出来息子!」

「やっておしまいなさい、出来息子」

「やめてください、母様たち!」


 五合も打ち合わない内に総領息子の剣が女の短刀を弾いて、短刀はエスメラルダの右後方で石造りの床に落ちた。それをチラリと見てから、エスメラルダはふざけるのを止めて女を見た。

 女は手を押さえ、血走った目でエスメラルダを睨んでいる。もう総領息子のことは見ていない。


「毒婦め! ここはお前がいていい場所じゃない!」


 意外なことにエスメラルダの評判を知っているらしい。大量の侵入者といい、今回のお迎えといい、屋敷の中に友人がいるのかもしれない。だとして、それを排除するのもエスメラルダの仕事ではない。


 エスメラルダとしては、この女のことはそう嫌いではなかった。

 王国では復讐する者こそが尊ばれる。誇りを汚され、地位を追われたと信じるなら復讐を行わなくてはならない。文句を言うだけで何もしないなら、それは蔑まれて然るべき行いだ。市井の民にすら笑い物にされるだろう。

 確かに女の計画は幼稚で杜撰でエスメラルダからすれば行き当たりばったりも良いところだが、やらないよりは遙かにマシなのでその意気やよし。


「わたしこそが! わたしこそが妻になるはずだったのに! お前のような女が!」


 ただそれは、これが王国であったならの話だ。

 ここは負けを認めて潔く身を引くことが美徳とされる地なので、女の行動は誰にも尊ばれない。現に今も、総領息子は眉間に皺を寄せて女を睨んでいる。


 王国にさえ生まれていれば、それなりに尊敬を集め、それなりに親しまれ、それなりに愛されたはずなのに。エスメラルダは同情めいた気持ちで女を見た。

 復讐する者は復讐し返される覚悟を持って臨むべきで、この女からはその覚悟は見えなかった。この国で最も陰湿で、粘着質で、復讐が上手なエスメラルダを相手にしているというのに。だから哀れに思う以外の感情は湧いてこない。


 あと単純に、ぽっと出すぎて思い入れが持てない。


 女にとっては十数年を費やす復讐劇も、エスメラルダにとってはつい先日知ったばかりの浅さである。


「まあ…」

「母様、下がって!」


 エスメラルダを睨んだまま、女は何事か低い声でぶつぶつと呟き始めた。エスメラルダに魔術の素養は薄いが、魔術で何事かを行使しようとしているのは理解できる。その呟きに合わせて女の、先ほどまで短刀を握っていた右手に淡い光が収縮していく。


 総領息子が防御の構えを取る。エスメラルダですらその防御が意味を成さないと知っている。

 魔術の行使を遮るのは、魔術でないと出来ない。よほどの天才でないかぎり、剣で防げるのは力の行使だけだ。そして総領息子は才能に溢れ将来を期待される少年だが、剣の天才という話は聞かない。


 大国の跡取りに相応しい気概でエスメラルダと第七夫人の前に立ち盾になろうとする総領息子の肩の上を、分厚い生地に覆われた腕がついと伸びた。細く長く、雪を思わせるほど真っ白な指が今にも魔術を発動せんとする女を指さす。


「随分丁寧な詠唱ですのね」


 そしてエスメラルダは、また音を聞いた。

 第七夫人の喉から発せられたエスメラルダには音としか判別できない呪文は、侵入した賊を凍らせた時よりも軽く短い。それでもまばたきの内に女の足を、腕を氷で覆った。当然女の魔術も発動を阻害され、空中に霧散している。


「七の姉様すごーい!」

「この程度の虫ごときに勝負を挑まれるなど…わたくしの不幸はいつまで続くの…」


 総領息子が剣を下ろし、困った顔で振り向いた。本人も自分の腕で防げるわけがないと分かっていたのだろう。ただ跡取りとして、義理の母たちを守るためにやるべきことをやったのだ。


「ありがとうございます…」

「魔術の勉強が足りていませんわ…。明日からわたくしの部屋へおいでなさい」

「…はい、七の母様」


 微笑み合う二人越しに、エスメラルダは凍り付いた女を見た。女を拘束した氷は頭を冷やすまではいかなかったらしい。まだ血走った目でエスメラルダたちを睨み、口角に泡を溜めながら怒鳴っている。


 怒り狂っていることは分かるのだが、言っている内容がエスメラルダには分からなかった。西の氏族の方言なのか、スラングなのか、聞いたことのない言葉ばかりだ。かろうじて、エスメラルダを指して売女と言っているのだけが分かる。嫁いできたばかりの頃、暇に飽かせて読みふけった古典文学に出てきた。


「お前さえいなければ! わたしが!」

「そうかなあ?」

「殺してやる! お前だけは絶対に!」


 殺害予告は流石にいただけない。そちらがその気なら、エスメラルダとしては徹底的にやるだけだ。反撃しようとして開いたエスメラルダの口を、背後から回された大きな手がそっと塞いだ。完全な不意打ちだった。


「それはできない。お前は明日の朝処刑する」


 伝説に聞く魔王とやらが本当にいるとして、きっとこんな声をしているに違いない。

 エスメラルダはそんなことを考えながら背後の気配を目だけで見上げた。女を睨み付ける顔は見たことがないほど険しく、エスメラルダが日頃熊さんみたいで可愛いと言う面影はない。

 神話によると、蛮族の祖先は黄金の狼だという。今の夫の姿を見れば、それに納得してしまうほどの迫力があった。

 第七夫人と総領息子が振り返って、帰還した夫を、父を見上げる。エスメラルダは第七夫人が顔に華やいだ笑みを浮かべるのを初めて見た。

 だが、言葉を発したのは総領息子が先だった。


「父上! 八の母様が!」

「まあなんて子!」


 まさか真っ先に告げ口されるとは思わず、エスメラルダは咄嗟に夫の手を引き剥がして抗議した。その間に第七夫人はそっと近寄って夫の左腕に寄り添っている。


「私叱られるようなことしてない!」

「そんなことないです!」


 遠くから近寄る足音が聞こえる。室内では布靴を履く風習だが、戦闘が予想される時は足まで甲冑を着込む。第一夫人の方を片付けた武官が大急ぎでこちらに向かってくるのだろう。

 総領息子の口を塞ごうと奮闘しながら、エスメラルダはその音を聞いていた。



 5.


「弟仕草ばっかり身につけて」

「そうだねぇ」


 夫が手ずから剥いた果物を、エスメラルダは皿に置かれるより早く受け取って齧り付いた。


「なによう、私そんなに悪くないもん」

「仲良くなったねぇ」


 夫の帰還から二日が経ったが、エスメラルダは告げ口をまだ怒っている。冤罪だとは言わない。王国人は陰湿で粘着質で卑劣で復讐が大好きだが、友だけは裏切らない。だから総領息子を嘘つき扱いすることは出来ない。


 確かに今回、第一夫人にも武官にも告げずに、危険だと知りながら犯人を待ち伏せしたのはエスメラルダだからだ。結果的に過剰戦力もいいところで危険など一つもなかったのだが、結果論では国は回らない。エスメラルダは第一夫人にもしっかり怒られた。


 なので、告げ口をした総領息子に怒っている。友人を裏切るのは王国人にとってあってはならないことだ。王国人の唯一の美徳が友を決して裏切らないことなのだから。

逆を言うと友人にならない限り平気で裏切る。


「あの子はさ、生まれて直ぐに俺が族長になっちゃったからね。小さい頃はあまり構ってあげられなくて」


 夫が語るのを、エスメラルダは黙って聞いた。夫の手元では淀みなく次の果物が剥かれている。


「甘えることもあまり得意じゃなくてね。エイリャンが仲良くしてくれてよかった」

「…まあ確かに、仲良しね!」


 息子のことを語る夫の目元は和らいで、心から大事にしているのが伝わってくる。

 だからエスメラルダは、生意気盛りの弟のような義理の息子を許してやることにした。友人のやることなので、どうせ怒りは長く続かない。王国人は本当に友人だけは大事にするのだ。

 もう一つ果物を受け取って、エスメラルダは夫を見上げた。


「そういえば、随分早く帰ってきたのね?」

「襲撃されたって連絡が来たから、予定を切り上げて大急ぎで帰ってきたんだよ」

「大丈夫だったのに」

「エイリャンの街道のお陰で帰って来れた」


 褒められれば悪い気はしない。夫に肩を抱き寄せられながら、エスメラルダはニヤニヤ果物を囓った。


夫は明朝に処刑といったものの、女はまだ牢に繋がれている。手口だけでも聞き出さなければと第一夫人が止めたのだ。


明日からようやく後始末が始まる。

しかしエスメラルダは仕事が何一つない第八夫人なので、明日もいつもどおり子供たちを引き連れて遊ぶ予定である。

エスメラルダはこの生活を、心から気に入っている。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こちらを拝読してから1の書籍版を読みますと、7の姉様が部屋をとびだしたあのときは、彼女にとってもご家族にとっても、ものすごいとくべつなことだったのだなとおもいました。
第七夫人、性格は面倒くさいけど害を成す程じゃないし、良くも悪くも常に一定のテンションで、言い換えれば動揺せずに物事に対応してる。コレで、魔術師として秀でてるってマジモンの逸材ですわ。この方を嫁に出せる…
第七夫人!! 何か読み始めは面倒くさい人だな…という印象だったのが、 最後、好きになってました。何ならお可哀想に〜と 提灯持ち時々(毎回はしんどい)やってもいい位。 最強でおもしれー女でした。 お菓…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ