アナベルの髪飾り
「聖女様!騎士団長が敵兵の毒矢に刺さり重傷です!」
野戦テントの幕が上がり、兵士が二人がかりで騎士団長であるロマーノを運んできた。
ブラウンの長髪は泥まみれ。普段の凛々しい顔には血の気がなく、青くなっている。
「はいはい、じゃあそのベッドに横にしておいてね」
理沙は緊張感の欠片も感じさせない声音で、二十人ほどを収容できるテント内を見渡して兵士に指示を出す。
「了解しました!」
空いているベッドにロマーノを寝かせると、兵士達は慌ただしく出て行った。
またすぐにでも怪我人が搬送されてくるのだろう。
理沙は近くにいき魔法を唱える。
「ステート」
すると、透明なウインドウが開きステータスが浮かび上がってきた。
名前:ロマーノ28歳
体力:20/100
MP:10/10
状態:毒、裂傷
「あら瀕死ね。もう少し来るのが遅れてたら手遅れになるところだったわ」
「……俺は、助かる……の、か」
「ええ、でも無理にしゃべらないほうが身のためね」
ちょうど、毒のダメージが入り残りの体力が10を切った。
「アンチポイズン」
理沙がロマーノに手をかざしてつぶやくと、ステータスから毒が消えた。
「アンチレッサー」
次に裂傷が消える。
「リジェネ」
「ああ……体が楽になった気がする」
「ヒールの即時回復は魔力を消費しすぎるから、これで勘弁してね」
「かまわん……。……お前が倒れれば前線は崩壊するからな。十六のガキに頼りっぱなしとはな……情けない……」
顔に生気が戻り、よわよわしかった口調もいつもの団長のものに戻っていた。
「そう思うなら、もっと上手く軍隊を指揮してほしいわ」
「ははは……、手痛いお言葉だ」
理沙は話を切って立ち上がり、野戦テントにいる怪我人達のステータスを順に見て回る。
「はい、君はもう全回復してるから出て行ってね」
「ちょ、もうちょっとだけ休ませてくれよ」
「あのね、ここは休憩所じゃないの。治ったならさっさと出ていきなさい。すぐまた、怪我人でいっぱいになるんだから」
そういうと、渋々と男兵士はテントから出て行った。
理沙は自身の簡易テーブルに置いてあるマナポーションを取ってラッパ飲みし、MPを全回復させる。
「ふ~。今日は一段と激しい戦闘ね。貴重なマナポーションもこれで二十本目。また、貴族連中に文句を言われること確定ね」
理沙は鏡に映った自分を見た。
黒髪黒目をしたこの世界では珍しい容姿。
白いマントを羽織り、白い制服の胸元には豪華な装飾が施されたバッジが付いている。
理沙はヴォゾ王国に異世界召喚され、貴重な回復魔法を使えるということで聖女という地位をいただいた。そして、数々の戦場での貢献から軍の医療班のリーダーを任せられることになったのだ。
「聖女ってのはお城の中で悠々自適な生活ができるものだと思っていたのに。損な役目だわ」
野戦テントから外に出て、お日様を浴びて伸びをする。
「ん~、戦場に慣れるにつれて感情が冷めていく気がするわ」
いつしか理沙は兵士を人としてではなく、ユニットとして見るようになった。
ステートという相手の情報を見る魔法のおかげで、最適な医療を施せるけれど、それゆえに一人一人の感情に無関心になっていく。体力は回復しても精神的な痛みまでは治らないというのに。
遠くからは金属のぶつかり合う音に爆発音が聞こえてくる。
「もっとみんな平和にのんびりと暮らせないのかしらね」
理沙は新たな負傷者の気配に再び野戦テントの中へと入っていったのだった。
★★★
「戦費が多すぎる!これでは財政破綻を起こしますぞ」
重鎮会議の席で理沙はロマーノの隣に座っていた。
体が豚のように肥え太っているクー伯爵がトリスタン国王に向かって机を叩き激怒している。
「そうはいってもな、ロマーノからどうしても必要だと言われればわしも断れん」
トリスタン国王は白ひげを撫でながら、首を振った。
すると今度は騎士団長ロマーノにクー伯爵の矛先が向く。
「この戦費一覧にあるマナポーションをもうちょっと減らせるだろ!一本につき十ヴォゾ金貨もするこいつを大量に要求しすぎだ!」
「クー伯爵。わが国がスレッズ帝国より優れている点は聖女であるリサの持つ、絶対的な治癒力に他なりません。マナポーションの量を減らすというのは、軍隊から医療班をなくすといっているのと同義かと」
「だから、代わりにうちの領内にある安価の薬草を大量注文しろと言っておるだろうが!」
「それでは代わりにならないと何度も……」
そんないつものやり取りを理沙は内心うんざりしながらも顔には出さずに聞いていた。
クー伯爵はヴォゾ王国で薬関連で財を築いた一族だ。
しかし、次第に効用が薄くなり国民からは大不評。当然、戦場で剣を振るう兵士達にしては致命的で、次々と帝国に領土を取られる羽目になる。一部では成分をわざと薄めてその分の浮いた利益を懐に入れているという噂もある
そこで、理沙が異世界召喚され、地元の慣習なんて何も知らない理沙は魔法を使って病人や怪我人を治し続けた結果、理沙はクー伯爵から蛇蝎のごとく嫌われてしまったのだ。
「それでは、戦費はこれまで通り継続ということで」
トリスタン国王の一声で重鎮会議は解散となった。
クー伯爵はぎろりと理沙を睨み、顔を真っ赤にして部屋を出て行った。
「いつも大変ですねロマーノ団長」
「戦場を知らない貴族どもには困ったものだ」
そう言って、凛々しい横顔を曇らせ、ため息を零した。
最前線で剣を振るうロマーノは重鎮達と現場との認識の乖離に苦悩しているようだ。
だが、声を荒げずに冷静沈着な態度を貫く彼は団長というだけあって優秀な人材で国王からの信頼も厚い。
そんなロマーノであっても毒矢一本で命の灯が消えようとしたのだから戦場の過酷差がうかがえる。
理沙はロマーノと一緒に部屋を出ようとすると、トリスタン国王から声がかかる。
「リサ、あの件について考え直してくれんか」
「オズリック王子との婚約についてでしょうか」
「うむ。お主が王族と結婚すればクー伯爵も大人しくなるだろう。どうじゃ、利益しかなかろう」
「そこに個人的な感情を含めなければですけどね。何度も言いますが、オズリック王子との婚約なんてありえません。では、失礼します」
★★★
「よかったのか?王子と結婚すりゃ、王族の仲間入りだ。リサがいつも言っている優雅な生活も現実になるだろうに」
先の戦いでスレッズ帝国をしりぞけた理沙とロマーノ含む軍部は休暇をもらい、街の市場を歩いていた。
「あんな馬鹿王子と結婚するぐらいなら、野戦テントのほうが幾分か居心地がいいでしょう」
「ははは、リサらしいな」
香ばしいお肉の匂いにつられて屋台に足を運こぶ。
「へい、いらっしゃい。って聖女様じゃありませんか。なんだい、今日はデートかい?」
恰幅のいいおじさんが理沙とロマーノを見てにやついている。
「デートではない」
「デートです」
ロマーノの否定の言葉に理沙が重ねて肯定した。
「な、な、何を言っているんだ。こんなガキと……」
ロマーノは上目遣いの理沙を見て、言葉が途切れた。
「それでは、その串焼き二本買いますわ」
「へいへい、お熱い仲に免じて一本おまけしときますぜ」
理沙は一本を凛々しい顔を赤く染め上げているロマーノにあげ、二本は自身の手に。
「リサが二本食うのか?」
「当たり前でしょう。誰のおかげで余分にもらえたと思っているの?」
「たくっ、これも計算づくかよ」
渋い声で額をかくロマーノに理沙は、にーっと微笑んで答えた。
串焼きを頬ばっていると、すれ違う市民から次々と声を掛けられ、そのたび手を振り返した。
「私みんなから好かれてるのかしら?」
「そりゃそうだろ。リサが来る前はみんな辛気臭い顔して歩いてたのが、今じゃ幸せそうにしてやがる。それに、聖女なんていう市民からしたら雲の上の存在が、庶民と同じように街を歩き、庶民と分け隔てなく接して、庶民と同じような飯食ってんだからな」
「そんなの普通のことじゃない」
二本目の串焼きを食べ終わり、頬を膨らませている理沙にロマーノは笑う。
「ふっ、リサらしい答えだな」
「なによそれ、馬鹿にしてるの?」
「いや、俺はお前を誇りに思っている」
突然に騎士団長然とした雰囲気をまとったロマーノに返す言葉が見つからず、理沙は顔を背けてひたすら前を歩いた。
「あっ、この髪飾り可愛い」
理沙は露店にある白いアナベルを模った髪飾りの前に座り込む。
精巧なガラス細工の髪飾りは本物と見分けがつかないぐらいに花びら一枚一枚、丁寧に再現されていた。
その分、値段も高く、下級兵士一年分の給料が吹き飛ぶほどだ。
「おばあさんその髪飾り一つ」
「え?ちょっと……」
「毎度あり」
ためらいもなくロマーノがお金を出して買ってしまった。
「ロマーノには似合わないよ?」
理沙はアナベルの髪飾りをした屈強なロマーノの姿を想像し眉をしかめる。
「確かに俺には似合わん。だけど、誠実で寛容な理沙にはぴったりだ」
「あっ……」
ロマーノは理沙の髪にそっとアナベルの髪飾りをつけた。
「やはり、黒に白い花は映えるな」
「……勝手なんだから」
★★★
理沙は王城に専用の部屋を用意してもらえているが、普段は軍隊の女性寮で寝泊まりしていた。
単純な理由でそっちのほうが職場まで近いのだ。
訓練なんかでしょっちゅう怪我人が出るものだから、緊急の際にすぐに動けるように無理言って用意してもらっている。
しかし、この日は王城に用事があり、久しぶりに広すぎる部屋で寝泊まりをしていた。
「聖女様。オズリック王子が会いたいとおっしゃっていますが、いかがしましょう」
専属メイドのユリヒが来訪の知らせを持ってきた。
貴族の順位でいったら王子のほうが上だが、聖女は特別な存在で王子といえど許可なく面会はできない。
放任されているようにみえて、しっかりと警備は厳重。
いつも一緒にいるロマーノは護衛兼監視役なのだ。
「いいわ、通してあげて」
理沙は寝間着のピンクのネグリジェを着ていたので一瞬悩んだが、二人きりではないのだからと承諾した。
「かしこまりました」
しばらく待つとユリヒがオズリック王子を連れて部屋に入ってきた。
トリスタン家特有のブロンドの髪をし、見た目だけは整っており、国民からの人気はそれなりにある。
「リサ……その格好は僕を誘っているのか……?」
勢いよく入ってきたかと思えば、理沙のネグリジェを見て鼻の下を伸ばす王子。
「なわけないでしょ?」
「な、ならなんでそんな透け透けの服を着ているんだよ」
理沙は自身の格好を見返した。
確かに太もももヘソも透けているが、ちゃんと隠れるとこは隠れている。
「これぐらいで興奮されるなんて王子とはいえ初心なのね」
「う、うるせえ。そんなことよりもだ!お父様から聞いたぞ。僕との婚約を断ったそうじゃないか!説明しろ!」
「説明も何もありませんわ。あなたと婚約はいたしません」
「なぜだ!僕は王子だぞ。国王が退位すれば次期国王になるのがこの僕だ。断る理由がどこにある」
「私、別に王妃という立場に興味はありませんもの」
「それは……あの男がいるからか」
それがロマーノのことを指しているのだとすぐに理解した。
理沙の近くにいる男は彼をおいて他にいない。
無意識にアナベルの髪飾りに触れてしまう。
「その髪飾りはあの男からのプレゼントなのか?」
「それがあなたに何の関係がありますの?」
「くそっ、あんな野蛮人のどこがいいんだ!剣を振るのがちょっと上手いだけじゃないか。踊りもできなければ音楽もできない。金も名誉も僕のほうが上だろ!」
「はぁ、あなたが次期国王だなんて気が滅入るわ」
「な~ん~だ~と~?」
「オズリック王子。それ以上聖女様にお近づきになるのであれば、対処しなければいけません」
傍で様子を見ていた専属メイドが鋭い目つきでオズリックを牽制した。
女性でありながらも数々の功績を残した武闘派メイド。
その視線を受けてオズリックは唾を飲み込み、一歩後ろに下がる。
「覚えておけ!絶対、僕に振り向かせてやるからな」
そう言い残しバタンとドアを閉めて出て行った。
「ありがとう、ユリヒ」
「いえ、職務を全うしただけでございます」
必要以上の会話はせずに、黙々と自分の役割をこなす。
そんなユリヒには理沙も心を許していた。
「それにしても困ったものね。いくら断ってもしつこく言い寄ってくるのなんとかならないかしら」
「聖女様の命令ならば私が二度と近づけぬようにいたします」
「いや、私何も命令してないから。何もしなくていいわ」
ユリヒは脳筋なところがあり、いつも力で解決しようとする癖がある。
だからこそ、護衛にはぴったりなのでしょうけど。
「はぁ~……今日はもう疲れたわ。もう寝ようかしら」
「聖女様」
「どうしたの?」
ユリヒは口元に指を持っていき、静かにするようにポーズ。
窓から外を見て、床に耳を当てる。
戦場で見せる命のやりとりをするときの表情。
「襲撃です」
その言葉に理沙の眠気は吹き飛んだ。
「敵の位置は?」
「西の棟に向かっているかと」
「こことは逆ね。あそこは使用人達が使う部屋しかない。偽情報に引っかかったということかしら」
「ええ、実際の見取り図を知る者はごくわずか。城内に侵入でき、かつ外部の者」
「貴族ね。筆頭候補はクー伯爵かしら」
「奇遇ですね。私もそう思います」
以前より聖女である理沙だけではなく、国王の政治判断を常に批判していた。
しかも、彼の代案はヴォゾ王国にとって益のないものばかり。
しかし、クー伯爵は帝国と隣接する辺境の土地を支配しており、国防の面からも強い影響力を持ってしまっている。
トリスタン国王がしつこく聖女である理沙とオズリック王子との婚約を迫るのも、権力基盤の安定のためと考えると自然と納得できる。
「まぁ、あの色ボケ王子はそんな裏事情なんて考えていないだろうけど」
「ふふ、モテる女はつらいですね」
ユリヒは理沙の心情をおもんばかり同情の声を出した。
「ユリヒだって、男性に対しての攻撃的な性格さえ直せば私以上にモテるわよ」
「お褒めいただき光栄です。ですが、私は聖女様に生涯にわたり仕える覚悟でございます」
「そんなのいいわよ。さっさと男見つけてくれたほうが私も安心するわ」
「聖女様。積もる話は後にして、そろそろ動きますよ」
理沙は口をつぐみ、ばつの悪い顔で頷いた。
いつも寝る前の話し相手になっているユリヒ相手だから、つい状況を忘れて話し込んでしまった。
「行きます」
理沙は手を引かれて廊下に出た。
月明りだけが照らす薄暗い中、ユリヒはためらいもなく進んでいく。
侵入者の気配を探りつつ、階段を駆け下りた。
「おかしいですわね」
「どうしたの?」
「危険な気配が消えました」
「それはいいことじゃないの」
「それはそうなのですが……」
戸惑うユリヒに手を引かれ玄関前のホールにつくと、クー伯爵が兵士に捕まっているところだった。
「よう、無事だったかリサ」
鎧を着けたフル装備のロマーノがおどけた声を出す。
「ロマーノ団長!なぜここに?」
「ああ、騒がせて悪いな。クー伯爵がクーデターを企んでいたものだから聖女様を餌にさせてもらった」
「な、な、なんてことを!聖女様に何かあったらどう責任を取るつもりでしたの!」
なんてことない風に言うロマーノにユリヒがキレた。
「おいおい、そんな怒るなよ。お前の実力を買っているからこその戦略だ。ヴォゾ王国で随一のアサシンが傭兵ごときに後れを取るわけないだろ?」
「当たり前だ!誰が相手だろうと負けるつもりはない」
「ユリヒ、落ち着いて。私はあなたのおかげで無事だったのだから」
「聖女様がそうおっしゃるなら……」
理沙は縄で手足を縛られたクー伯爵の前に出た。
「これは一体どういうつもりなのですか?」
「ふんっ、大層値の張る服を着やがって偉そうに。それで男を誘惑している最中だったか?どうせ今夜も王子と乳繰り合っていたんだろ」
「ということはオズリック王子も共謀していたのですか?」
そう聞くと、クー伯爵は黙ったが、代わりにロマーノが弁明した。
「それはないぜ。良くも悪くも純粋なお方だ。いくらリサに惚れているからといって卑怯な手段はとらんだろう」
「なぜ言い切れるの?」
「アナベルの髪飾りに聞いたのさ。じゃないと、この手際の良さは説明がつかないだろ?」
ロマーノは自身の頭をとんとんと叩いた。
「そういうことね。なんだかロマンチックな気分が台無しになった気分だわ」
あの露店の老婆が情報提供者だったのだろう。
クー伯爵の襲撃計画を下級兵士一年分のお金でロマーノが買い取ったのだ。
この精巧にできた髪飾りは周囲の目を騙すダミー。
理沙はそんなことも知らずに一人喜んでいたということ。
「それじゃ、俺はずらかるぜ」
「はいはい、どうぞご勝手になさってくださいませ」
玄関から出ていく間際ロマーノは振り返り、
「ちなみに、その髪飾りは俺からの贈り物だ。それに嘘はない。気に入ってくれて嬉しかったぜ」
そう言って、バタンと大きな両開きの扉が閉まった。
「なんなのよもう」
贈り物一つ渡すのにどれだけの工程を踏むのよ。
「ふふ」
「なによユリヒ。言いたいことがあるなら言えばいいじゃない」
「いえ、団長らしいなと思っただけです」
「ロマーノらしいって?」
「アナベルの花言葉。寛容、誠実。そして愛する人。ああ見えて団長は照れ屋なので直接的な言葉は使わない人なのですよ」
「あ……」
髪飾りを買ったときに言われたセリフを思い出す。
『誠実で寛容な理沙にはぴったりだ』
理沙は戦場に慣れて冷たくなっていた心に暖かい火が灯ったよう気がした。
「リサ!大丈夫か!」
突然の大声に振り向こうとした瞬間、走ってきたオズリック王子に後ろから抱きしめられた。
「きゃっ!びっくりするじゃない」
「す、すまん。使用人部屋のほうで侵入者が捕まえられたって話を聞いて、リサの部屋に向かったら誰もいなかったから心配で」
後ろからギュッと抱きしめたまま、耳元で鼻息荒くつぶやかれた。
厚い胸板が背中越しに伝わってくる。
理沙はユリヒを横目で見ると、何食わぬ顔でそんな二人に視線を向けていた。
きっと、敵意も下心もないと判断してのことだろう。
「はぁ~。分かったから、離してくれる?」
「あ、悪い!」
素直に距離を取ったオズリックの瞳は赤くなっていた。
「まぁいいでしょう。心配してくれたのは十分わかりましたから」
大人の男であるロマーノと違って直情的なオズリック王子。
でも、まどろっこしい男と比べたら、心がざわつかずに済んでいいのかもしれない。
こういう真っ直ぐなところが国民にも伝わって人気を博しているのだろう。
「ところで、お前意外と胸ないのな」
「あ?」
理沙はオズリック王子の足を踏み、ユリヒも思いっきり脇腹をつねった。
「痛ってええええええええ」
理沙の足踏みはともかく、ユリヒの本気のつねりに壮絶な悲鳴が響き渡る。それによって、クー伯爵の騒動は城内に知れ渡ることになった。




