第4章 心跳
明日は、3人で計画した卒業記念と大学合格のお祝いを兼ねた、流氷を見に行く日帰り旅行の日だ。
しかし、数日前に宇佐美から体調を崩したとの連絡があり、日程の変更を考えたが、宇佐美の強い要望によって俺と小葉松の2人だけで行くことになった。3人のグループチャットには、宇佐美がお土産を催促するコメントがたくさん入っていた。
当日、俺は小葉松と駅で待ち合わせをしていた。
朝早い時間帯だったが、何人かのスーツ姿の人たちが早々と駅の中に消えて行った。俺は白い息を吐き、冷たい手を温めようと缶コーヒーを飲みながら小葉松を待った。さすがに、北海道の早朝は寒かった。
すると、駅のロータリーに一台の車が入ってきて、その車から小葉松が降りてきた。
「おはよー、古賀くん、お待たせ」
「うん、おはよー」
俺は笑顔で挨拶をしてきた小葉松に挨拶を返した。
小葉松は母親に駅まで車で送ってもらっていた。帰る車の中から、母親が軽くこちらに会釈をしたので、俺も会釈をした。
「わー、今日は特に寒いね、古賀くん、そんな服装で寒くないの?」
俺の上着は薄手のジャンパーだった。
「え、大丈夫だよー」
と答えると、小葉松は心配そうに、
「流氷船に乗ると風が強いからすっごく寒いんだよー」
「一応、もっと厚いコートと手袋も持ってきてるから多分大丈夫だよー」
「なら……いいけど……」
と少し納得した様子だった。小葉松が心配してくれたことが嬉しかった。
小葉松の服装はベージュのコートに白い手袋をして、背中に黒い小さなバッグを背負っていた。寒さ対策で少し着込んでいるようだったが、それでもスラっとした体型であることがわかった。
そして、俺たちは駅のホームまで行き、電車を待っていた。
「もうすぐ電車来るね」
そう言った小葉松をよく見ると髪型が少し変わっていることが気になり聞いてみた。
「あれ、小葉松って髪型変えた?」
「え! わかった? 似合うかなぁー、そうだよ、だってこれから大学生だもーん。それに……今日は……大事な日……だからね」
と、なぜか嬉しそうに返事をして、背負ったバッグの紐を掴みながら、子供のように楽しそうに笑っていた。
「あ!電車がきたよー」
と小葉松が叫ぶと、俺はその呼びかけに反応して電車に乗った。ここから流氷を見るための乗船場までは、約2時間程度かかる予定だった。
「出発だね。あ!そうだ、宇佐美くんに連絡しなきゃ、もう起きてるかなー」
と小葉松がそう言って3人のグループチャットで連絡をした。
ーーー小葉松さくら
おはよー宇佐美くん
今から行ってくるね
お土産待っててね
ーーー宇佐美優斗
おはよー
今起きたよ
気をつけて行ってらっしゃーい
古賀!船から落ちて風邪ひくなよ
お土産期待大ですね(笑)
ーーーおはよー
落ちねーから!
行ってくるわ
3人のグループチャットが一斉に騒がしくなった。
俺は改めて思った。俺たちはいつも3人でいたから気を使わず自然に話しができていたが、今日は小葉松と2人だけだと思うと少し緊張してきていた。
電車内で小葉松は俺と向き合ってちょこんと座り、車窓から流れる景色を見ていた。その横顔を見ると少し頬が薄いピンク色をしているように感じ取れた。
「ねぇ、そういえば……今日は一日中……2人っきりだね……なんか……恥ずかしいね」
「そ、そうだよな」
俺も少し緊張して声が上擦った。
「…………」
「…………」
なんか沈黙が続いてしまう……電車が走る音だけが聞こえてきていた。正直、宇佐美に居て欲しかったと感じた。宇佐美ー今すぐ来てくれーっと、心で叫んでいた。
「ねぇ、古賀くんは、北海道の寒さにはもう慣れた?」
小葉松が沈黙を破って話しをしてくれた。
「うん、慣れたけど、やっぱり寒いのは苦手だなー、雪もすぐにたくさん積もるから凍ったところを歩くのがいまだに慣れないよ、だって九州はここまで寒くならないもんね」
「九州は雪降るんだっけ?」
「雪は滅多に降らないね、だから雪が降るとみんなパニックになるよ」
「ふふっ、そうなんだぁー」
「今日の流氷楽しみだね、私は小さい時に一回だけ両親と一緒に見に来たことがあるみたいだけど、まだ、小さかったからよく覚えてないんだよね……」
「そっかー、実は俺も楽しみにしてたんだよね、ネットでは流氷を見たことあるけど、実際に見ると迫力が違うんだろうね」
「ねぇ、古賀くんは流氷ってどんなイメージ?」
小葉松が少し難しそうな質問をしてきた。
「え、どんなイメージかぁ?、むずかしなぁ、ただ白いとか、大きいとか、冷たいとか、氷の塊とか?」
俺はいきなりの質問でうまく答えられなかった。
「うん、うん、そうだよねー」
小葉松がそういった後すぐに話しが続いた。
「私、流氷について少し調べたんだけど、流氷はね、遠いロシアのオホーツク海域で作られて、東樺太海流に乗って、約1,000kmを旅して北海道のオホーツク海岸にゆっくりやって来るんだって、昔は今みたいに船の技術が無いから、流氷が接岸すると、漁もできなくなってしまって、困っていたみたいなんだよね。だから当時の流氷は厄介モノってことになるね」
「でも、今はその流氷が観光資源になっていて、流氷を見て感動したとか、大自然の偉大さを見たとか、流氷はとても綺麗だったとか、昔は厄介モノだと思っていたものも見方を変えると違って見えるんだと思ったんだ」
「これって、私たちが生きることに似てるって思わない?だって自分にとっての障害も乗り越えてみれば、自分を成長させる資源だったって思えるように……また、流氷が困難だとすると、船が丈夫なら難なく突き進んでいけるように……」
小葉松は真剣にその話しをしていた。さすが教師を目指す小葉松だと思った。小葉松の考え方がこんなにも前向きだとわかり正直少し驚いた。
「なるほど、小葉松ってすごいね、なんか哲学的っていうか、なんていうか……」
「だって私は先生になるんだもーん」
小葉松の笑顔は自身に満ちているように感じた。
「ねぇ、小葉松はなんで学校の先生になろうって思ったの?」
以前、中学生の時に聞いていたが、先生になりたいとしか聞いていなかったので改めて聞いた。
「うん、最初はねぇ、私の両親が学校の先生だから、ただ漠然と私もそうなれたら良いなって、思ってただけなんだけど、人に何かを教えるって、凄いことなんだって、気が付いたんだ」
「だって生徒の可能性を信じて励ます。そして、その生徒の可能性の扉を開く手伝いをするんだって思えた時、先生に強くなりたいって思えるようになったんだ」
「私はまだ、未熟だから自信がないけど、そこに挑戦してみたいって思えるんだよね」
初めて小葉松の夢を聞いたような錯覚だった。俺は小葉松の表面しかわかっていなかったように感じた。
そして、小葉松の夢を全力で支えたいと思った。
そんな話しをしていると、電車が目的の駅に到着した。
「わぁー、なんかずっと座ってたから、お尻の辺りが少し痛いね」
小葉松が腰の辺りを触りながら言った。
「うん、さすがに俺も痛いよ」
駅を降りると、そこは一面真っ白だった。降り積もった雪が氷に変わっていて歩くとガリガリと音がした。そしてそこには様々な建物があった。
「わあ、道の駅みたいなものあるねー、行ってみよーよ」
小葉松が今にも走り出しそうだった。
「うん、そこに流氷船の受付もあるみたいだからね、行ってみようか」
そこにはたくさんのお店が入っていた、平日であったにも関わらず観光バスが外の駐車場にたくさん停まっていたので、そこには多くの観光客が居た。
俺と小葉松は、流氷船の受付場所を探して、数日前にネットで購入していた電子予約画面を受付の人に見せながら言った。
「あの、今日の流氷船を予約しているものですが」
そこには、いかにも漁師の奥さん的な女性がいた。
「はいよ、何時の船ですか?」
「えっと、9時15分です」
パソコンを眺めながら、何かを確認するようにその女性が言った。
「えっと……ネット事前予約番号が113番の方ですね、男性1名、女性1名で間違い無いかな?」
「はい」
俺はそう返事をすると、受付終了の紙のチケットと袋に記念品と書かれたものを手渡された。
「じゃ、外にある赤いほうの船だね、遅くても乗船時間の5分前にはあそこに集合してね、じゃ、気をつけていってらっしゃい」
そう女性に言われて帰ろうとすると、
「あ!待ってね、お兄さんその服装だと今日はかなり寒いよー。今日は特に風が強いからね、もっと厚い上着持ってきてないの?」
その話しを聞いて、小葉松の話しを思い出した。
「あ、大丈夫です、他に上着持ってきてますので、ありがとうございます」
「じゃ、暖かくして乗るんだよー、あと、今日は風の影響で結構船が揺れるから、そこの彼女としっかり手を繋いであげなきゃねー」
「……はい」
俺はそう返事をしたが、手を繋ぐと言われて、ちょっと恥ずかしくなった。
「ねぇ、古賀くんここで上着着ちゃえば?あんまり時間ないよ?」
時計を見ると後、乗船まで30分ぐらいしかなかったので、俺は小葉松に言われたとおり上着を着て手袋をした。
「ふふっ、今日の古賀くんの服装可愛いね」
「え、そうかな?」
俺は上着のコートのどこが可愛いのかよく分からなかった。
「だって、手袋がミトンって可愛いなって思って」
俺は、家にある適当な手袋を選んでいたせいだった。
「うわーなんか緊張してきたね、あ!そうだ、さっき貰った記念品って何だったの?」
俺が袋を開けようとすると、ミトンの手袋ですごく開けづらそうにしていると、代わりに小葉松が開けてくれた。袋を開けると、中には漫画のイラストように描かれた流氷の小さいアクリルのキーホルダーだった。
「わ!可愛いーこれ、今だけの限定だって、今日の記念に大事にしよっと」
小葉松が俺の方の記念品も気になって、開けるように言ってきたので小葉松に手渡して袋が開けられると、
色違いの同じアクリルのキーホルダーだった。
「わー、そっちの色も可愛いー、良いなー」
「交換しよっか?」
「ううん、私はこっちで良いよ、古賀くんもそれ大事にしてねー」
小葉松が少女のようにはしゃいでいて、目がキラキラしていて楽しそうだった。
小葉松は青色のキーホールダーで、俺はピンク色だった。
その時店内にアナウンスが響いてきた。
『まもなく、9時15分発の流氷船の乗船受付10分前になりました。チケットをお持ちになって乗船場所にお集まりください』
「もう、10分前だね、行こうか」
俺はそう言って、小葉松と一緒に裏手の乗船場所に向かって行った、建物をぐるりと回ると、港に大きな船が2隻停泊していた。
「わー大きいな船だねー、どっちの船だっけ?」
「えっと、確か赤い方の船だね」
流氷船はいつも2隻が同時に運行をしているようだった、もし1隻が動けなくなってしまった時に助ける役割もあるようだ。
「こっちなんだ、ねぇねぇ、船のどこで見る?、前が良いかな?、寒そうだから室内にする?」
小葉松が楽しそうに聞いて来たので、
「じゃ、ちょっと寒いかもしれないけど、よく見えるように二階の展望デッキ前にしようか?」
「うん、ねぇ怖くないかな?どうしよー」
小葉松はそれでもずっと楽しそうだった。
俺たちはすぐに乗船の列に並んだので、スムーズに船に乗ることができた。そして、2階展望デッキの前の方の手すり近くに陣取った。
デッキから海を見ると遠くの水平線辺りに、白い帯のようなものがあった、おそらくあれが流氷だろうと思った。そして、2階にいると意外に風が強く感じて、上着を着ていても寒く感じるぐらいだった。
「ちょっと風が冷たいね、あ!、見て、遠くに流氷が見えるねー」
小葉松も冷たい風に目を細めながら言った。
流氷船のアナウンス
『本日は流氷観光船をご利用くださいまして誠にありがとうございます。これより流氷が見える場所までは、
約30分の道のりになっています。そこから約60分北海道の流氷を間近でご覧いただけます。
この船は…………』
船のアナウンスがさらに続いていた。
「古賀くん、いよいよ出発だねー、私、緊張してきちゃった」
小葉松は少し緊張している様子だった。
船がゆっくり遠くに見える流氷に向かって、大きなエンジン音とともに動き出した。
流氷船のアナウンス
『流氷が近づいてきますと、船が大きく揺れる場合がございますので、お近くの手すりをしっかり掴んでいただきますようお願い致します。また、お手元の貴重品、スマートフォン、携帯電話の落下にもご注意願います。流氷にはアザラシやオジロワシ、オオワシなどが見える時もありますが決して物などを投げないように自然を大切にしていただきますようご協力をお願い致します』
「えー、アザラシだって?今日は見えるかな?いたら絶対可愛いよねー?、あと……イルカとかもいたら見てみたいな」
「小葉松?寒くない?」
小葉松の頬が寒さで少し赤くなっているようなので、心配になって言った。
「ううん、大丈夫だよー」
寒そうに感じたが、笑顔を見せてくれていたので少し安心した。
海を見ると小さい流氷が少しづつ漂ってきていた、そして見えるところに大きな白い絨毯にような流氷が一面に広がってきていた。
流氷が船の底や側面に当たり、ゴン、ゴンと金属音がなっていた。
「え、怖いんだけど……大丈夫かなぁ……」
小葉松が心配そうに言いながら、手すりをぎゅっと握っていた。やっぱり小葉松はちょっと怖がりだと思った。
しばらくすると、船の側面に大きい流氷が迫ってきていた。その時船のエンジン音が小さくなりスピードを落としたように感じたその瞬間、大きな流氷とぶつかり大きな音とともに船が揺れた。
「……キャ!」
と言って小葉松が俺にしがみついてきた。
「あ!ごめん……」
と言って小葉松は俺からすぐ離れた。
「…………」
「あのさー、手を握っててもいい?揺れるの怖いんだもん」
そのことを聞いて俺は驚いたが、同時にドキッとした。もうすでに小葉松が俺の手をしっかりと握ってきていたからだ、お互い手袋をしていたが、手袋の上からでも小葉松が手がとても小さいことが分かった。この瞬間とても恥ずかしくなった。これは物理的な距離も近くなったこともあるが、小葉松との心の距離も急激に近くなったように感じた。
俺は迫ってくる流氷を横目に見ながら、右手で船の手すりを掴み、左手で小葉松の手を握り返していた。小葉松は俺のすぐ近くで向き合っているので、流氷を見ている小葉松の横顔がすぐ目の前だった。
小葉松の肌はとても透き通るような白い肌をしており、化粧をしているせいなのかとても大人っぽく見えた。
流氷は船に大きな音とともにぶつかり、そして割れていった。海に敷かれた真っ白な絨毯に亀裂が入り、一気に裂けていく、その光景はまさに圧巻だった。時折、大きな鳥も近くを飛んで来た。
船に乗るみんなも写真を撮ったり、家族で楽しそうにこの光景を眺めていた。
流氷船は目の前の大きな流氷をものともせず砕きながら、ぐんぐんと力強く前に進んで行った。
「ねぇ!あれ見て、多分アザラシだよー、あそこで寝てるのかな?わー可愛いーね」
俺はそんなアザラシを見る小葉松の横顔を見ていたのでアザラシには気が付かなかった。
「あ!アザラシが海に潜った、逃げちゃった、ねぇ古賀くん、見たー?」
と言って、小葉松は俺の方を振り向いた。俺はずっと小葉松をことを見ていたので目が合ってしまった。
俺と小葉松は数秒間見つめ合った。心臓がドキドキして、小葉松以外何も見えなくなった。
「え!もう……恥ずかしいよ……」
「あ!ごめん……」
と俺が言った瞬間、小葉松が俺にそっと身を寄せてきた。俺も思わず小葉松を守るようにほんの少しだけ優しく抱きしめた。全ての時間が止まったようだった。
小葉松は俺の胸の中で小さな声で言った。
「……やっぱり……寒いから……このままがいいなー……それに……今日の記念に……」
小葉松の手は俺の腰のあたりのコートをぎゅっと握っていた。
俺に耳には小葉松の息遣いと流氷が船の側面に当たる音だけが聞こえていた。
約60分の流氷巡りが終わり、船は岸に向かって動き出していた。俺の左手はあれからずっと小葉松の右手と繋がっていた。
岸に戻るまで、小葉松とは何も話さなかったが、何度も目が合い、まるで心で会話をしているかのようだった。
船が港に着くと、みんな一斉に船を降り始めたので、俺たちも船を降りた。
港に着くと、小葉松が
「宇佐美くんへのお土産選ばないとー」
と言って俺を引っ張る仕草を見せたので、一緒について行った。
「うわー色々あるねー、わ!おっきい蟹もいる」
そこは地元の物産センターも兼ねており、地元の物産やお土産がたくさんあった。
「ねぇーこれ見て、流氷カレーだって、中はどうなってるんだろーね」
そこには珍しいものがたくさんあった。
「ねぇ、私ソフトクリーム食べたいよー!」
小葉松が指さす先には軽食などを売る売店があった。
「え!、小葉松寒くないの?だって、さっき寒いって……」
「そんなこと……言ったかな、ふふっ」
小葉松がとても食べたそうにしてたので、メニューを見た。
「普通のやつと少し青い色の流氷ソフトクリームだって?、あ!ハーフもあるみたいだよ、小葉松はどれがいいの?」
小葉松は少し悩んでいたが、すぐに、
「私は、流氷ソフトにしよっかな?古賀くんは?」
「じゃ、俺はハーフにするね」
俺は順番に並んで店員さんに
「えっと、流氷ソフトクリームを1つとハーフ1つください」
「はい、じゃ、550円ですね」
俺はスマホの電子決済でそれを支払い、ソフトクリームを一つずつもらった。
空いている席があったので、
「小葉松あそこに座ろ」
と言って、中央の空いている席に俺たちは隣り合って座ってソフトクリームを食べ始めた。
「っ! 美味しい、ミント味だね それに冷たいよー」
小葉松を見ていると幸そうだった、俺はそんな小葉松の笑顔を1番好きになっていた。
「あ!古賀くん、溶けてきちゃってるよー」
俺は冷たすぎて食べるのが遅くなっていたので、ソフトクリームが溶け出していた。
「あ!やべー、どうしよー」
俺は溶けたところを一気に口に入れた、すると頭がキーンとなった
「やばい、頭キーンがきてる…………痛いよー……」
「古賀くん大丈夫??」
俺が頭を抱えて下を向いて頭キーンに抗っていたが少しづつ治ってきたので頭を上げながら言った。
「やばかった、めちゃ痛いねーこれ」
すると小葉松が俺を見て笑った。
「ふふっ、ちょっと古賀くん、口にアイスがたくさん付いてるよー」
と言いながら小葉松がカバンからハンカチを出して、俺の口を拭いてくれた
「あ!ありがとう」
「もう、子供みたいだねー」
船に乗った後から小葉松との距離感が一気に近くなったせいもあり、小葉松は俺の横に座る場合でも、少し肩が触れるような位置に座っていた。
「美味しかったねー」
「うん、じゃ、宇佐美のお土産選ぶとするか!」
俺は今日のことを宇佐美に少し感謝していた。こうして小葉松と距離が近くなったからだ。
「何がいいんだろーな、さすがにメロンパンは無いだろーけど」
「何か美味しそうなお菓子にしよーよ」
小葉松がそう言って、真剣に周りのお土産を見て選んでいた。
「これなんかどうかなー?」
それは流氷を模した美味しそうなお菓子だった。限定と書いてあったので、2人で相談してそのお菓子を宇佐美のお土産にすることに決めた。
それを持ってお店のレジに行くと、流氷船の受付にいたさっきの女性がいた。
「あれーさっきのお兄いさんと可愛い彼女だねー? あ!しっかり手を繋いじゃってー」
「あ、いえ、流氷船楽しかったです、すごく迫力がありました」
「寒くなかった?今日はいつもより風が強かったからねー、もう帰るの?」
そう言われて、俺はさっき船で小葉松を抱きしめたことを思い出しながら質問に答えた。
「あ、お昼ご飯を食べて、もう少しこの辺を見てから帰ります」
「流氷センターも見に行ってきたら?ここからバスになるけど10分ぐらいだよ」
受付の女性がそう言って、割引き券付きのチラシを俺たちにくれた。
「ありがとうございます」
チラシを見ると、ここから無料の直通バスが出ており、バスの時間まであまり時間がないことが分かった。
「小葉松ここに、行ってみる?バスもすぐに来るみたいだし」
「うん、行く」
小葉松はすぐに答えてくれたので、すぐにバスの停留所を探した。
「えっと、何番のバスだろー?」
俺はチラシの案内を見ながらバスを探していると、小葉松が、
「多分5番乗り場だよ、あそこに書いてあるから」
5番バス乗り場には大きく流氷センター行きと書かれていた。
そうしているうちにすぐにバスが来たので、俺たちは待つことなく流氷センターに向かった。
流氷センターに着くと、受付があり入場料金を支払って中に入った。
変わらず俺は小葉松と手を繋いだままだった。
入口の近くに展示コーナーがあって、流氷ができる仕組みや役割などについて、説明書きと映像が流れていた。
「へー、流氷ってこうやってできるんだねー、すごいね」
小葉松はとても興味がありそうだった。これから教師を目指すのであれば知識は必要だと思った。
展示コーナーを過ぎると水槽にたくさんのクリオネがいた。
「わー、可愛いー小さい妖精だー」
水槽の中でクリオネが手を羽ばたかせるように優雅に泳いでいた。こんなにも小さな体でも一生懸命に生きているんだと俺は思った。
小葉松が楽しそうにクリオネを見る姿を思わず、スマホで撮影してしまった。おそらく小葉松は写真を撮られたことには気づいていなかった。
「ねぇ、あそこに極寒体験だって、行ってみよーよ」
小葉松が言うようにその先に極寒体験コーナーというものがあった。そこは、マイナス20℃に調整された部屋があり、中には流氷や冬の北海道をイメージしたものが展示されているようだった。
俺たちは中に恐るおそる入ると、そこはまさに極寒だった。
「さむっ!、やばいー」
と言って、俺は小葉松の手をぎゅっと握っていた。
そして、そこには本物の触れる流氷があった。小葉松は流氷を触りながら、
「わーやっぱい氷だ、めちゃ冷たいね」
そして、そこにはシロクマの剥製がリアルな状態で展示されていた。
「わ、びっくりしたーシロクマだよねー、すごいー」
俺たちはこのシロクマをバックに一緒にスマホで写真を撮ってもらった。
そこに写る2人の手は繋がれていて、笑顔がとても輝いていた。この写真は小葉松にとって大切な写真の1枚になった。
小葉松との2人旅は、あっという間に終わってしまい帰路についていた。帰りの電車の中で、小葉松は来た時とは違い俺の隣に座っていた。
そして、朝早くに出発したせいもあったのか、疲れてしまった様子で俺の肩に頭を預けながら寝てしまっていたのである……
そして、あと2週間後には大学の入学式を控えていた。




