第3章 躍進
夏の装いから秋が深まりつつあるこの季節、寒暖差は徐々に大きくなっていた。山々の木々も冬に備えて準備をしているかのように少しずつ色づき始めていた。
俺たちは高校2年生になっていた。
俺たちはいつもの帰りに学校グラウンドの隅にいた。
「……あの、小葉松、俺と付き合ってくれ、ずっと前から好きだった……」
小葉松に頭を下げながら告白した。
「……ごめんなさい、私には、他に好きな人がいるから……ごめん……」
小葉松が小さな声で、悲しげに答えた。
「やぁーい、宇佐美、フラれたなぁ」
古賀が笑いながら俺に言った。
「うわー、練習とはいえ、フラれるのはマジ悲しいよー。本気で寂しくなるわー」
「宇佐美の告白のやり方は古いんだよー。そんなんじゃ、本番でも多分フラれるわ」
俺は一応古賀に許可をもらって、小葉松に告白の練習をさせてもらっていた。そして、古賀に意外に傷つくことを言われて少し腹がたった。
「そこまで言わなくてもいいだろー!でも、やっぱり小葉松って美人だよなー、告白の練習ってわかっていてもドキドキしたわ、マジ可愛いと思うわ!俺、思うんだけど、多分北海道で一番の美人だと思うぞ、いいなぁ、古賀と付き合ってるんだもんなー」
「別に……付き合ってねーし」
「じゃ、俺にくれよ」
俺はちょっとだけ本気で言った。
「えー、あのー失礼ですけど、私は物じゃないです。くれ、とかやめてくれますか〜?」
小葉松が笑いながら話した。
こんなふうに今では仲良しの3人組になっている。古賀は中学2年の時に北海道に転校してきたらしく、同じクラスだった小葉松と一緒にこの高校を目指して一緒に勉強をして、見事に合格を勝ち取ったと話していた。俺は間違いなくこの二人は付き合っていると思ったので、何度か確認しているものの、いまだに否定し続けている。男女の友情ってものがあるとすればこの二人のことなのかも知れない。
「でも、宇佐美、お前が本気で告白したい相手って、どんな子なんだ?」
古賀が興味ありげに聞いてきたので、俺は自慢げに答えた。
「あー、思い出すだけで、めちゃくちゃ可愛いんだよねー。あ!小葉松と同じくらいかなぁ、多分……芸能人で言ったら、えっと、あれだよ、あれ、よくわかんねーけど」
似ている芸能人の名前が喉の辺りでつかえて思い出せなかった。
「誰だよ、あれって?」
なぜか古賀が異常に食いついてくる。
「2組の誰って言ったっけ?」
さらに古賀が食いついてきた。
「うん、確か名前は美月って言うんだよ、七瀬 美月ちゃん、うわーやべー、名前呼んじゃったよー」
俺のテンションはMAX状態になって浮かれていた。
「宇佐美……お前、大丈夫か?……頭おかしくなってないか?……」
テンションMAXの俺には全く聞こえなかった。
「あーでも、俺は実際に美月ちゃんを目の前にしたら気絶するかも〜、あーやべー、告白をもっと練習した方がいいかなーー?う〜ん」
「なぁ、宇佐美……?聞いてるか……?おーい!宇佐美ーー!」
テンションfull MAXの俺には全く聞こえなかった。
俺は突然はっと気が付いた。
「あ!そうだ、古賀?」
「なんだよ、急に?」
古賀の顔はびっくりした様子だった。俺はいいアイデアを思いついたので、それを話した。
「なぁ、古賀?今から小葉松に告白しろよー。それを参考にするからー」
「え!お前、何言ってんだ?……」
なぜか古賀が質問を返してきた。
「だから、参考にしたいから小葉松に告白しろって言ったんだよ」
「宇佐美くん、それはちょっと……恥ずかしいよー」
小葉松は少し真剣になって言ってきた。
「あれー!なんで?だって俺の練習はOKで、古賀はNGなの?何かあるんかー?おかしいなー?」
「宇佐美、お前、それはないだろー」
古賀も真剣な言い方をしてきた。
俺はこの2人と高校になって出会ったけど、正直この2人の関係に少し困っていた。おそらく、いや、間違いなくこの2人はお互いに好きなんだと思っていた。でも、いつももどかしい感じがしていた。
お互いに一歩踏み出せず、本音を言えずにいるこの状態は、俺にとってもストレスが溜まるものであった。しかし、この2人が付き合ってしまうと、俺の居場所が今より少なくなることも考えてしまう。
でも、今は自分のことで精一杯だった。俺は天使に出会ったからだ。ひとつ上の先輩、3年2組の七瀬 美月という子がめちゃくちゃ好きになってしまったのだ。
俺はこの数日間どうすれば良いかずっと悩んでいた…………
そんないつもの帰り、古賀が学校に残って先生と何か話しをすると言っていたので、今日は俺と小葉松の2人だけで帰ることになった。俺は前から確認したい大切なことがあったので、小葉松にこの機会に聞いてみることにした。
「そういえば、前から聞きたかったんだけど、小葉松は、……古賀のこと好きなんでしょう?」
「え!、なんで、いきなりなんでそんなこと……聞くの?」
小葉松はいきなりの質問に困っていた様子だった。
その驚いた顔の目が、まん丸でとても可愛く感じた。
「お前たちを見てれば誰だってわかるよ、お互いに好きだって気持ちが伝わってくるもん」
しばらくの沈黙の後、小葉松は黙って頷いた。
「なんで付き合うとかしないの?」
この質問に、小葉松は沈黙してしまった。
「俺はずっと前からお前たちのこと心配してるんだ、……だから……俺には本当のこと話してほしんいんだ、俺たちそんな大事なことが言えないような仲じゃないよね……?」
と俺は小葉松を心配するように言った。
また、しばらく沈黙が続き、小葉松は少し考えた後に口を開いた。
「うん、……宇佐美くんの……言うとおりだよ、いつまでもこの距離感なのはね、多分……向こうも私と同じように気を使っているんだと思うんだ……」
「お互いにどんな気遣いなの?」
「……うん、私は小さい時から学校の先生を目指してるし、古賀くんも世の中に役に立つ仕事がしたいって夢があるんだけど、それを邪魔しないようにしてるんだと思うんだ」
「だって……もし付き合うってなったら、今までより距離が縮まって、お互いに求めすぎたりした時に、それが負担になったり、重荷になったりして足を引っ張ってしまうことを恐れてるんだと思う」
「正直、私は古賀くんの夢の邪魔をしたくないんだよね、おそらく……古賀くんも私と同じことを思ってるんだと思う……」
「それは、古賀も小葉松の先生になる夢の邪魔をしないってこと?」
「うん……多分……」
俺はこのことを聞いて初めは理解できなかったが、この2人がお互いを思う気持ちは本物だと思った。そこまでお互いのことを応援し合える仲だってことを……少し羨ましかった……
「そっかー、でも好きだって気持ちはどこかで伝えるべきじゃないかな?、俺はちゃんとその気持ちを言葉で伝えないとダメだと思うけど……」
俺は正直な気持ちを小葉松に言った。
「……うん……でも、分かってるんだ、本当は分かってるんだよ……でも、なんか、怖いんだよね……もし、正直な気持ちを伝えて、今はごめんとか無理って言われたらって思うと、そう思うと辛くて本当のことが言えなくなっちゃうんだ……」
「そっか……確かのその気持ちはわかるよ、俺だって今その気持ちなんだよね……美月ちゃんが好きだけど、もし断られたらっていつも思うよ……」
「俺はちゃんと美月ちゃんに告白できるかなぁ?、失敗したらって思うと俺も同じ気持ちになるわ」
「うん、そういう時って……なかなか勇気出ないよね……」
「うん、そうだね……でも、俺には時間がないんだよね、文化祭までには絶対告白したいんだよねー」
「えー文化祭が何か関係あるんだっけ?」
小葉松は俺に質問してきた。
「だってさー、文化祭は俺たち寂しい男子の恋の文化祭だと思うんだー」
「恋の文化祭?って、なにそれ?」
「告白して、手を繋いで各ブースを廻るんだよー」
「そーなんだー男の子ってよく分からないよね」
小葉松はよく分からないことを言っていたが、俺は小葉松だけでも正直な気持ちを知ることができて良かったと思った。そういうことであれば、俺にできることがないか考えるようになっていった。
そしてその数日後、俺は小葉松に自分の決意を話していた。
「なぁ!小葉松、俺は今週末に告白するって決めたよ」
「そっかー、うん、わかったよー、頑張ってね、古賀くんにも言っておくから」
小葉松は俺を応援してくれているようだった。
そして、俺は週末に知っている先輩に協力してもらって、七瀬 美月ちゃんを呼び出してもらっていた。
今……俺の前に……天使がいる……勇気を出せ……俺!
「あ、あの七瀬さん、俺、ずっと前から好きでした、すっごく可愛いと思ってます。そして、今もこれからも好きです、俺と付き合ってください、よろしくお願いします!」
「…………あー、ごめんなさい……私、彼氏……いるんだよねー」
ここで、俺の人生は終わったのだ、そして魂も抜けて行ってしまった、このあと俺は実際に2日間ほど学校を休んで心のケアが必要だった。
学校を休んで2日目は親父とお袋が仕事に行っていて、俺は家で1人で寝ていた、すると誰かが窓の外から呼ぶ声が聞こえてきた。
「おーい、宇佐美ー?生きてるかー?」
窓の外から声が聞こえる。いや、空耳か?
「おーい、宇佐美ー?メロンパン買ってきたぞー」
……メロンパン……と聞いて意識が戻ったようだった……俺は窓を開けて、
「どちら様ですか?メロンパンってなに?」
「お!まだ生きてるわ〜」
「えーなんか……宇佐美くん……痩せちゃった?」
そこには古賀と小葉松が窓の外に立っていて何かを言っていた。
「どうせ、ろくに飯食ってないんだろー、お前の好きなメロンパン買ってきたぞー」
古賀が手にたくさんのメロンパンが入った袋を持っていた。俺は、ちょっとお腹が空いてきたように感じたので、玄関を開けることにした。
「あ、今から開けるから入ってこいよ……」
俺が玄関の鍵を開けると、2人がゴソゴソと部屋に入ってきた。
「うわーお前、掃除してねーじゃん、きったねー」
「もうーどこまで落ち込んじゃったの?宇佐美くんかわいそうー、私が部屋の掃除してあげるね」
俺は自分の部屋が汚いことにも気が付かないほどダメージを受けていた。
古賀と小葉松は俺の部屋をせっせと、掃除をしてくれた。
すると、小葉松が急に顔色を変えながら、
「えー!ちょっと宇佐美くーん!これなーに?」
小葉松を見ると、少し怒って何か手に本を持っていた。
俺はそれが何かよく見えなかったが、なぜか古賀が素早く動いていた。
「小葉松!それは今は見なかったことにしてやれよー、なぁ……?」
俺には何をやりとりしているか分からなかった。
「もうーこれだから、男の子ってー理解できない!」
理由が分からなかったが、小葉松が少し不機嫌そうだった。
気がつくと、いつも間にか、この2人が部屋をきれいにしてくれていた。
「とりあえず、掃除が終わったから、メロンパン食えよな」
古賀が優しく言ってくれた。
正直嬉しかった。この2人とは高校生になってから出会い、いつも3人で一緒にいる中だったので、思い起こせば3人の中で誰かが困っていたり、落ち込んだ時はいつも励まし合っていた。そんな俺も幸せだと少し感じて、ちょっとだけ生きる気力が湧いてきた感じがする、今日はこの2人のおかげでそんな一日になった。
その次の日俺はいつも通り学校に行けるようになった。いよいよ文化祭があるからだ、恋の文化祭にはならんかったが、友情の文化祭にするために……
「おー宇佐美おはよう」
「宇佐美くん、おはよー」
いつものようにこの2人が俺に挨拶を返してくれた。
俺たちはこの文化祭に向けて、夜遅くまで準備をした。
俺たちのクラスは駄菓子屋に決まった。それなりに売り上げることができ、学年で1位になることができた。みんなで協力したことが報われた気がした瞬間だった。そして無事に文化祭を終えることができ、そこから俺たちは次の進路に向けて本格的に進み出すことになった。
いよいよ3年になり、どこの大学に行くか俺たちは悩んでいた。
「3人一緒なら、やっぱりここの大学しか無いよなー、ここならみんなが行きたい学部が全部あるからね」
と古賀が言い。
「うん、そーだね、、私にはちょっとレベルが高いかもしれないよ……」
と小葉松が続いた。
「俺もちょっと厳しいかもなー、今からレベルそこまで上げられっかな?」
俺たちが目指す大学はかなりハイレベルな場所だった。古賀は頭が良いから心配はいらないと思ったが、
おそらく小葉松はギリギリセーフで、俺は絶望的だった。
そこから俺たちは壮絶な勉強会が始まった。古賀は頭が良いので難しいことを教えてくれた。中学の時も小葉松と勉強会をして小葉松の学力を上げたと聞いていたので、俺も本気で毎日夜遅くまで勉強をして、メロンパンも食いまくった。
時には、俺の家で3人一緒に寝たこともあった。あ!違った、小葉松は帰ったと記憶している。
それぞれ目指す学部は違うけど、それでも俺たちは、このハイレベルな大学の受験に挑戦した。
そして、受験の合格発表の日は、それぞれの自宅のパソコンで合格の発表を待った。
10:00になり、それぞれがパソコンの画面に注目した。
古賀 湊人 薬学部 受験番号 2237
「えっと、どこだー?」
…………2201 2211 2213 2216 2219
…………2221 2230 2236 2237 2238
「よし!やったー合格だ!」
小葉松 さくら 教育学部 受験番号 1679
「……あるかなー?」
…………1649 1652 1654 1659 1665
…………1669 1671 1672 1675 1679
「え!やったー!ねぇーお母さんーー受かってたよー」
宇佐美 優斗 文学部 受験番号 1267
「うわー絶対やばいかも……」
…………1249 1251 1253 1258 1261
…………1265 1267 1275 1279 1285
「うわー、奇跡が起きたー!」
みんなそれぞれ、受験の結果を3人のグループチャットで結果を報告をした。
ーーー小葉松さくら
私合格したよ♡
ーーー古賀湊人
小葉松おめでとう、俺も
合格だったよ
ーーー小葉松も古賀もおめでとうー
俺には奇跡が起きたぜ
ーーー小葉松さくら
古賀くんもおめでとう♡
ーーー小葉松さくら
宇佐美くんもおめでとう♡
ーーー古賀湊人
宇佐美やったなおめでとう
ーーー小葉松さくら
また、3人一緒に居れるね
俺たちは次の日に合格した喜びから、俺の家に集まりみんなで話していた。
「また、3人で学校に行けるね」
小葉松が俺たちの顔を見ながら言った。
「そうだな、でも学部が違うから今までとは少し違う形になるかもな」
「うん、そうだね」
俺は3人でまた居れることに喜んでいたが、正直この2人はこれから先、どうするのか気になっていた。この2人はお互いの気持ちを知っているくせにそこから前に踏み出せないでいるんだ。と思った。
すると、小葉松が、
「あ!そうだ古賀くんは、北海道に来てから、流氷って見たことあったかな?」
「あ、そういえば、親父が行くとか行かないとか言ってなー」
「じゃーまだ見たことないんだね、だったら卒業の記念に3人で流氷を見に行かない?」
小葉松が提案をしてきた。
「お!いいねーそれ」
古賀が食いついていた。
「なぁ、宇佐美も行くよな?」
古賀が俺に聞いてきたが、正直俺はあまり行く気がしなかった。たまにはこの2人で行かせて、2人だけの時間を作ってあげようと思っていたので、
「おーいいよ、行くよ」
俺は直前まで行く前提で、数日前に行かないと伝えて2人だけにする計画を立てた。
古賀と小葉松は、そこまでの交通手段の計画を立てていた、流氷が見える場所まで電車を乗り継いで行く計画のようだった。
そして、流氷を見に行く数日前に、俺は嘘の体調不良を理由に行けないことを伝えた。
3人のグループチャットでは、俺が行けなくなったので、日程を変更するような感じになってしまっていたので、俺は全力で2人だけで行くように必死で訴えた。
そして、しばらくグループチャットのやりとりで2人だけで行くことが決定したのである。




