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流氷のイルカ  作者: 売れない小説家
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プロローグ

 この季節、北海道・知床地域に位置する羅臼の海岸では、流氷が姿を見せる。

海岸線から水平線にまで浮かぶ流氷は、昇り始めた朝日に照らされ、幻想的な風景を作り出していた。

 白く輝く流氷は、朝焼けの色に少しずつ染まりながら、次第に陰影を浮かび上がらせ、その大小さまざまな形がくっきりと浮かび上がってくる。

 そしてその光景は、決して二度と同じにはならない。

 波に揺られ、流氷同士がぶつかり合うたびに、まるで流氷が鳴いているかのような音を響かせながら、その表情を刻一刻と変えていくのだ。

 

 そんな海岸に、一人の女性が静かに佇んでいた。

40代ほどのその女性は、小柄で、落ち着いた面差しをしていた。

「また……この時期が来たんだね……」

白い吐息とともに、優しく小さな声でそう呟いた。

 

 女性は厚いコートを身にまとい、耳まで被るように白いマフラーをしていた。その時、流氷の上を撫でるように風が吹き、女性の髪を揺らした。一瞬、寒さに目を閉じたが、すぐにゆっくりと目を開けた。

 その瞳には、水平線から昇る太陽に照らされた流氷の光が映り、キラキラと輝いていた。

 

 しばらくすると女性は、ハッと気がついたように時間を気にかけた。昇る太陽の高さで、おおよその時間を理解したからである。

 その女性は流氷を背にして、高い丘を滑り落ちないように降り、足早に細い横道を慎重に歩き、白い壁の建物の小さな扉を開いて中に入った。

 入り口でコートとマフラーを外し、冷えた指先を手の中にぎゅっと包み込むように握りながら、温められたリビングに入り、冷たくなったその手を温めた。

 リビングには、薪ストーブがあり、時折りパチっと乾いた木の音が響いていた。


 そして、そのリビングの片隅に大切に置かれた、一枚の写真があった。

 女性は写真に語りかけるように、

 

「……あれから20年かぁ…………」

 

 過去を振り返るその言葉には、寂しさと懐かしさが込められていた。

 

この女性の名は、さくら、という。


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