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ビッグバンドに憧れて  作者: ふゆはる


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11/16

第11話/チケット問題

 オフ会から数日後の夕方。

 仕事を終えた沙希は、通勤電車の揺れに身を任せながらスマートフォンを開いていた。指先が自然とSNSのアプリをタップする。タイムラインには依然として「#BLJファンのフェス地蔵」に関する議論が残っており、賛否入り混じる投稿が次々に流れてきていた。


 彼女はしばらく画面を見つめ、ため息をひとつ。

(このままじゃ、あの夜にみんなで話したことが無駄になってしまう……)

 そう思うと、胸の奥に小さな焦りが灯った。


 迷いながらも、沙希は新規投稿の画面を開いた。オフ会で語られた田村の苦い思い、舞の若い世代への願い、京子の優しい言葉。それらを思い返しながら、数分かけて文章を練り直す。


「先日のフェスでいろいろ考えさせられました。

 ファンとして一番大事なのは“推しに迷惑をかけない”こと。

 みんな楽しみ方は違うけど、その一点を守ればきっと平和に楽しめるはず。

 私はそう思っています。」


 文末に小さなハートの絵文字をひとつ添え、写真フォルダからあの夜に撮ったグラスの写真を選んだ。八人の手が重なり合うように見える一枚。顔は写っていないが、ただの乾杯写真にはない、不思議な結束感が漂っていた。


 投稿ボタンを押すと、電車の振動が一段と強くなり、心臓も高鳴った。


 ──数分後。

 通知が立て続けに鳴り、画面はリツイートといいねで埋め尽くされ始めた。

「その通り!」「現場で推しが恥かくのは絶対イヤ」「シンプルだけど大事なことだね」

 肯定的な声が目に飛び込むたびに、沙希の胸はじんわりと温かくなった。


 しかし、すぐに別の色をした言葉も混じり始めた。

「また自警団気取り?」「ファンにルール押しつけるのやめて」「楽しみ方は人それぞれって自分で言ってるのに矛盾してない?」

 批判の文面が画面を覆うたびに、沙希の指先は止まり、心臓が重く沈むような感覚に襲われた。


 夜、自宅に戻った沙希は八人のグループチャットを開いた。既に田村が投稿を見ていたらしく、短い一文を送ってきた。

「ほらな。こうなるんだよ」


 それに続けて、田村は電話口で語った時と同じ苦い笑みを滲ませるような文を打ち込んだ。

「正しいことを言ったつもりでも、誰かにとっちゃ“押しつけ”になる」


 画面を見ていた舞はすぐに返す。

「でも、考えるきっかけにはなるよ。沙希さんの投稿、私は良かったと思う」


 洋介も負けじと書き込んだ。

「同感。賛否両論が出るってことは、みんな一度は立ち止まってるってことだろ? 意味あるよ」


 すると、亮太が恐る恐る入ってきた。

「……これで逆に、推しが巻き込まれたりしませんか?」


 沙希はスマホを握りしめ、胸が締めつけられるのを感じた。だが、舞がすぐに言葉を添える。

「それは私たちの責任。もし炎上するなら、ファン同士で収めるべきだよ」


 グループの画面に沈黙の時間が訪れた。しかしその沈黙は決して重苦しいものではなく、それぞれが自分の立場や責任について噛みしめている時間だった。


 やがて京子が柔らかい調子で書き込んだ。

「推しのために、ファンが大人にならなきゃね。批判も含めて受け止めていきましょう」


 通知の波はその後も続いた。賛成、反対、皮肉、応援。さまざまな声が渦巻く中で、沙希はふと気づく。

(私たちの言葉が、知らない誰かの心に届いてる。良くも悪くも、考えさせてる)


 電車の中で迷った自分が、今では少しだけ誇らしく思えた。


 ──SNSの海に投げられた一石は、確かに波紋を広げていた。

 それはまだ小さなうねりに過ぎなかったが、八人にとっては確かに未来へつながる手応えだった。


 沙希の投稿が拡散されてから数日。

「#BLJファンのフェス地蔵」というハッシュタグはすでにトレンドから外れていたが、代わりに新しい動きが生まれていた。


「#推しに迷惑をかけない」


 シンプルなフレーズは、多くのファンにとって共感しやすく、同時に考えさせられるものだった。BLJファン以外にも、他のアーティストを応援する層が使い始め、タイムラインにはライブやフェスでの体験談とともに、この言葉を添える投稿が次々と流れるようになった。


「隣の人が大声で歌ってて正直しんどかったけど、本人は楽しそうだった。

 でも“推しに迷惑かけない”って視点で考えたら、自分もイライラを顔に出すのやめようって思った」


「推しを守りたいから、会場ルールはきちんと守る。それが本当の愛だと思う」


 賛同の声が増える一方で、もちろん反論もあった。

「結局はマナー警察じゃん」「自由に楽しめないライブなんて意味ある?」

 議論は日に日に熱を帯び、ファン文化のあり方をめぐる小さな社会現象のようになっていった。


 やがて、この動きにメディアが反応する。

 ネットニュースの見出しには「BLJファン発の“推しに迷惑をかけない”運動拡散中」と躍り、音楽雑誌の記者が八人にDMを送り取材を申し込んできた。


 田村は画面を見て思わず眉をひそめる。

「……まさか俺たちがこんな大事になるとはな」


 一方、舞は瞳を輝かせていた。

「でも、すごいことですよ! BLJファンから始まった小さな言葉が、音楽ファン全体に届いてるんです」


 京子はゆっくりと頷いた。

「注目されるのは嬉しいけれど、私たちが代表みたいに見られるのは少し怖いわね。責任が重くなるから」


 SNS上ではさらに派生的な動きも生まれた。

 ライブ運営会社の一つが公式アカウントでこう投稿したのだ。


「“推しに迷惑をかけない”という言葉に共感しました。

 私たち運営も、ファンの皆さまが安心して楽しめる環境づくりを進めていきます」


 この一文が出た瞬間、八人のグループチャットは大騒ぎになった。

「すごい!公式が動いた!」

「いや、ちょっと待て。運営が絡むとルール化されるかもしれないぞ」

「それって本当に良いことなのかな……」


 悠は慎重な意見を示した。

「ファンが自発的に考えるのと、運営がルールとして縛るのは別物だよ。そこを間違えると“また押しつけだ”って反発が大きくなるかもしれない」


 亮太も画面越しに頷くように返す。

「結局、バランスなんですよね。自由と秩序の」


 八人は、まるで自分たちが音楽シーンの縮図を背負っているかのような感覚に襲われていた。自分たちの声がこんなにも広がり、社会的な議論にまで発展するとは想像していなかったのだ。


 だが同時に、心の奥には誇らしさが芽生えていた。

 一人のファンの小さな投稿が、多くの人の意識を揺さぶり、音楽を楽しむ文化そのものを変えようとしている――その渦の中心に自分たちがいるのだ。


 SNSでの「推しに迷惑をかけない」運動が広がるにつれ、話題は自然と別の問題へと移っていった。


「そもそも前方に居座る人が問題になるのは、チケットが取りづらすぎるからでしょ」

「1枚手に入れるのも必死なのに、マナー違反で席を潰されるのはやってられない」


 こうした声があふれはじめ、やがて「チケット争奪戦」や「転売ヤー」への怒りに繋がっていった。


 ファンの間では、スクリーンショット付きで転売サイトの高額出品が晒され、

「#推しに迷惑をかけない」と並行して「#転売NO」「#正規ルートで買わせて」がトレンド入りする。


 あるユーザーはこう書いた。


「結局、転売ヤーが前列を占めて高額で売るから、ちゃんと応援したいファンが入れない。

 マナー以前に、仕組みそのものがおかしい」


「運営は転売対策をもっと本気でやるべきだ。推しに迷惑かけてるのはむしろ転売ヤー」


 八人のグループチャットにも、この流れはすぐに飛び込んできた。

「やっぱり、こうなるよな……」と亮太がつぶやく。

「正直、俺だってチケット落選続きで心折れかけたし。転売サイト見たら腹立って仕方なかった」


 舞は頷きながらも不安を口にした。

「でも、転売問題まで巻き込まれると、私たちが何か言うのは難しいかもしれません。下手するとアーティストや運営批判と受け取られるかも……」


 田村は腕を組んで深く息を吐いた。

「だけど、現実にファンの不満がそこに集中してる以上、無視できないだろ。

 本来なら運営が先に対処すべきことなんだが……」


 悠は画面を見つめながら静かに言葉を選んだ。

「“推しに迷惑をかけない”って、単なるマナーの話じゃなくて、“推しを取り巻く環境全体をどう守るか”ってことだと思うんだ。

 そう考えれば、転売もその延長線上にある」


 彼の言葉に、一同はしばし沈黙する。

 もはや一つのグループやアーティストの問題ではなく、音楽業界全体が抱える構造的な課題にまで話が広がりつつあるのだ。


 SNSではさらに議論が加速していく。

 ある有名ブロガーが「フェス地蔵と転売ヤーは表裏一体だ」という記事を投稿し、音楽ニュースサイトが転載した。記事の末尾にはこう記されていた。


「本当に推しを愛するなら、ルールを守ることはもちろん、健全なライブ文化を守る仕組みにも目を向けるべきだ」


 八人は記事のリンクを共有し合いながら、心の奥に小さな緊張を覚えていた。

 ――もしかしたら、自分たちが火を点けた議論が、音楽の現場そのものを揺るがしているのではないか。


 SNSでの議論は日に日に熱を帯びていった。

「推しに迷惑をかけない」という合言葉が広まる一方で、チケットをめぐる怨嗟があちこちで噴き出していた。


「なんで真面目に応募しても全滅なのに、金さえあれば転売で買えるんだよ!」

「ファンクラブ歴10年なのに取れないとかあり得ない」

「新規が前列を占めるのはおかしい」

「古参の優先を作るべき」


 逆に、新しいファンの声も強かった。

「古参だから偉いって何?みんな同じファンでしょ」

「ライト層がいなきゃフェスの動員も伸びない。閉じた村社会にしたら推しが困るのは目に見えてる」


 互いに相手の立場を認められず、タイムラインは罵声混じりの応酬で埋まった。

 ハッシュタグ「#推しチケ戦争」は皮肉を込めてトレンド入り。


 オフ会メンバーの一人、沙希のもとにも矢が飛んできた。

「あなた達、マナーだなんだって言ってるけど、結局はチケット取れてる側の勝ち組じゃん」

「転売批判してるけど、本音は“自分が当選したいから”でしょ?」


 沙希は画面を見つめ、胸の奥がざらついた。

 オフ会で語り合ったときの「推しを守りたい」という純粋な思いが、まるで別のものに歪められているように感じた。


 グループチャットでは、田村が苛立ちを隠さずに打った。

「だから言っただろ……何を言っても結局こうなるんだよ。ファン同士で足を引っ張り合うだけ」


 しかし洋介は即座に反論した。

「そう言って黙ってたら、もっとひどくなるだけだ。転売屋は笑ってるよ。ファン同士が争ってる間に、また高額で売り抜けてるんだから」


 舞は二人の間を取り持つように言葉を選んだ。

「私たちにできるのは“敵を間違えないこと”じゃない? 本当に推しに迷惑かけてるのは、ファンじゃなくて転売システムそのものなんだと思う」


 その意見に一同はうなずきつつも、不安は消えなかった。

 SNS上の対立はすでに制御不能に近い状態で、ファン同士が互いに“推しに迷惑をかけているのはお前だ”と糾弾し合う泥仕合になっていたからだ。


 ――やがて、その空気は実際のライブ現場にも持ち込まれることになる。

 入場列で「当たらない人の気持ちも考えろよ」と吐き捨てる声。

「転売で買ったくせに最前に立つな」と押し問答する姿。

 スタッフが仲裁に走る光景が珍しくなくなった。


 八人は胸騒ぎを覚えていた。

 “ファンが推しを守る”というはずの運動が、気づけば“ファン同士の戦争”へと変質しつつある――。


 SNSでの議論がヒートアップする中、運営はついに公式声明を発表した。各ファンコミュニティやタイムラインに貼られたその文面は、事態の深刻さを改めて実感させる内容だった。


【重要なお知らせ】


 ・次回以降の公演より、電子チケットを導入いたします。

 ・入場時には購入者本人の顔写真付き身分証の確認を行います。

 ・転売・譲渡は一切禁止とし、発覚した場合は入場をお断りいたします。


 ファンの皆さまが安心して楽しめる環境づくりのため、ご理解とご協力をお願いいたします。


 グループチャットにリンクが飛び込むと、八人はそれぞれ深いため息をついた。


 田村は画面をじっと見つめ、腕を組む。

「……ついにここまで踏み込んだか。俺たちが小さく考えてたけど、問題は想像以上に深刻だったんだな」


 舞は指先でスマホを握りしめながら小さく呟く。

「でも……これって、私たちの“推しに迷惑をかけない”って運動が遠因になってるかも……」


 京子が肩をすくめるように返す。

「確かに、私たちが声を上げたことがきっかけで、運営が本気で動いたんだろうけど、正直ここまで大事になるとは思わなかったわ」


 悠は静かに首を振った。

「いや、これは時間の問題だったと思う。ファン同士の争い、転売、最前列の確保問題……根本はずっと前からあった。僕たちの投稿はきっかけに過ぎない」


 SNS上では賛否両論が一気に噴出した。

 肯定的な声はこうだ。


「やっとか……転売ヤーを一掃できる」

「本人確認なら、真面目に応援してるファンが報われる」

「これでやっと推しの顔を見られる人が正当に並べる」


 しかし、反発も大きい。


「身分証確認なんて面倒すぎる」

「家族や友達に譲れないなんて不便すぎる」

「地方から遠征して当日間に合わなかったらお金が無駄になる」

「ライト層が離れたら、そもそもフェスが成り立たなくなる」


 SNSのタイムラインは賛否のコメントで埋め尽くされ、ハッシュタグ「#推しチケ戦争」が再びトレンド入りする。

 八人は互いにチャットで意見を交わすが、そこには以前のような軽い会話のノリはなかった。緊張と責任感が、文字の端々ににじんでいた。


 田村は深い息をつきながら書き込む。

「結局、誰かが得して誰かが損するんだよ……。正義のためにやったことでも、みんなが幸せになるわけじゃない」


 洋介はすぐに反論する。

「それでも、これ以上放置するわけにはいかないだろ。転売で高額チケットを買う人たちは、今のままだとまた前列を独占するんだから」


 舞は二人の間に入り、声を落ち着かせる。

「大事なのは、敵を間違えないことだよ。本当に迷惑をかけているのはファンじゃなく、転売システムそのもの」


 八人は一瞬、沈黙する。

 画面越しに流れるコメントは、すでに制御不能に近い状況だった。

 ファン同士が互いを糾弾し合い、正当なファンの熱意すら疑われる声もある。


 田村は小さく笑いながら、苦々しく言った。

「まあ、推しを守るために始めた運動が、いつの間にかファンの分断を招くとは皮肉なもんだな……」


 京子も苦笑を漏らす。

「それでも、運営が動いたのは間違いない。これで少しでも秩序が保たれるなら、意味はあるわ」


 八人の心中は複雑だった。

 “ファンが推しを守るために声を上げる”――その一歩は確かに踏み出された。

 しかし同時に、その一歩は、今後のファン文化や現場の秩序に大きな影響を及ぼすことを、誰もが薄々感じていた。


 夜、田村が画面に向かってつぶやく。

「これからのライブは、もう単純に楽しむだけじゃ済まないな……」


 舞は少し遠くを見つめながら答えた。

「でも、ここで立ち止まらなければ、本当に推しのためになる環境を作れるかもしれない」


 八人は重苦しいが、どこか凛とした空気に包まれながら、それぞれのスマートフォンを握りしめた。

 次のライブは、単なる音楽の場ではなく、ファンの“意識と秩序”が試される戦場となろうとしていた。


 ライブ当日、会場の周辺は朝早くからファンであふれかえっていた。

 これまでの自由な入場とは異なり、今回は運営の厳格な本人確認と電子チケット導入が徹底されている。

 長蛇の列ができ、ゲート周辺にはスタッフが張り付き、IDとチケットを照合する光景が繰り広げられていた。


 八人もそれぞれに現地入りしていた。田村は列の後方から状況を見守りながら、深いため息をつく。

「やっぱりこうなるか……」

 周囲では、電子チケットの操作方法がわからず困惑する若いファン、身分証を忘れた観客がスタッフに押し問答する声が飛び交っていた。


 舞はスマートフォンを手にしながら、列の混乱を写真に収める。

「これは……SNSで伝えるだけじゃ済まないわね」と小声で呟く。

 すぐ隣で京子が腕組みをして、眉をひそめる。

「混乱は避けられないけど、せめて冷静に誘導してほしい……」


 悠は列の状況を観察しながら、頭の中で整理する。

「ここで怒鳴る人、泣き出す人、諦める人……すべての心理が一度に表面化してる。フェスって、音楽だけの空間じゃなくなったな」


 前方では、電子チケットを持たずにやってきた観客たちが次々に入場を断られ、声を荒げて抗議していた。

「どうしても入れないなんて不公平だ!」

「友達に譲れないのか!」


 田村は声をかける。

「落ち着いて。ここで怒鳴っても仕方ない」

 しかし、本人確認ルールが徹底される以上、スタッフは一切譲らず、場内は一触即発の空気に包まれた。


 八人は自然と対応に回る。舞は迷子になった観客や困惑する若いファンを誘導し、京子はスタッフと連携して、列の整列を助けた。

 亮太は周囲の声を拾い、スマートフォンで状況を記録する。

「これは後から見直すと面白い資料になるかもしれないな……」と苦笑する。


 そんな中、ある若いファンが泣きながら列を離れようとした。

「もうチケット持ってる子たちばっかりで……前に行けないなんて」

 舞はそっと手を差し伸べ、肩に触れた。

「あなたの気持ちはわかる。みんな同じ気持ちなんだよ。でも、ここで怒鳴ったり騒いだりしても、推しには伝わらない。冷静に待つことが、結果的に一番応援になるんだ」


 その瞬間、田村も加わり、列の中で小さな秩序を作ろうと声を張る。

「みんな、少し間隔を空けて。落ち着いて順番を待とう」

 彼の声は大きく響き、少しずつ周囲の興奮が和らいでいった。


 一方、SNSでは現場の状況がリアルタイムで投稿され、コメントが殺到する。

「入場で大混乱!」

「電子チケット徹底、でも列がすごい」

「ファン同士が助け合ってる場面もある」


 八人の行動は、現場での秩序維持とSNSでの情報発信の両方で小さな波紋を生んでいた。

 目の前の混乱と、世界中のファンの目線が交錯する中、彼らは“推しのために、自分たちができる最善”を模索していた。


 そして、ようやくゲートをくぐる順番が回ってきた時、八人は互いに目を合わせ、ほっと息を吐く。

「やっと……入れるな」

 舞の声に、京子も舞い上がるような笑顔で頷いた。


 しかし、八人は薄々感じていた。

 今日のような混乱は、単なる一回限りの出来事ではない――

 ファン文化の変革は始まったばかりであり、これからも秩序と熱意のせめぎ合いが繰り返されるだろう、と。


 ステージに立つ朝倉祐真の姿を遠目に見ながら、八人はそれぞれ胸に決意を秘めた。

 “推しを守る”とは、単に前列で声援を送ることではなく、秩序を保ち、ファン同士が互いに尊重し合うこと――その責任を、今まさに肌で感じていたのだった。


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