第一話 アマゾンで楽しい昆虫採集……のはずが、なぜか異世界に転生していた⑧
崑蟲王と出会って翌日、朝の仕事をやり終えたオレは、さっそく会いに行こうと森へ入った。
「昆虫王に会いたい――そう叫べばイイんだよな」
言われたとおりにする。
「――使いを寄越す……とか言っていたけど」
ただ、ここで待っていればイイのだろうか? すると――
「なに、ブツブツ言っているの? ガキ――」
そんな声がうしろから聞こえた。振り向くと女の子が――
亜麻色の髪につり上がった目。少し生意気そうな十歳くらいの少女である。ただ、その容姿が奇抜すぎて、オレは呆然としてしまう。
トラ縞のビキニという格好だ。宇宙人――ていうわけではないよな。
「なに、ジロジロ見ているのよ」
少女から、ぶっきらぼうにそんなことを言われる。
「そりゃ、私が美しいからって、アナタ、見すぎよ。ガキのくせに」
うーん……なんだろう、この自意識過剰は……まあ、たしかにカワイイし、『どストライク』という思考の人もいるとは思うけど……オレとしては、あと五年くらい成長してからのほうが好みだな――なんて、思うのだが。
とりあえず、質問する。
「えーと、キミは?」
「主さまに会いに行くんでしょ? 連れてくるように言われたの」
なるほど。どうやら、『使い』というのが彼女のようだ。
「ありがとうございます。オレはアンリ・ファーブル。よろしくお願いいたします」と、丁寧に挨拶する。
「それじゃ、背中を向けて、腕を広げて」
「――?」
言われたとおりにする。すると、背中に何かが密着する感じが――
「う、うわっ!」
今度はいきなり宙に浮く。さすがに気が動転した。
「な、なんだぁ!?」
「いちいちうるさい! 主さまのところまで連れていくんでしょ?」
オレはうしろを振り向いた。彼女の顔が間近にあって、ドキッとしてしまう。オレは彼女に抱きかかえられていたのだ!
ブーンという音がする。女の子の背中に羽が生えていて、それで飛んでいるんだと理解する。
「もしかして、おねえさん、崑蟲族?」
まあ、森にあんな容姿で現れたのだから、ふつうの人間ではないと思ったけど――
「そうよ。私はキラービー族、サリーの娘、ハニー。――ったく、主さまの命令じゃなければ、人族の世話なんてしないんだからね!」
なんか、そんなことを言われた。
「――ねえ、キラービー族って、みんな人間の姿をしているの?」
崑蟲族といっても、節足動物――つまり、カラダは硬い殻に覆われているはず。なのに、彼女のカラダは柔らかい。特にさっきから背中に当たっている、二つあるふくらみ――ささやかながらその感触は、人間の女性とまったく同じだ。
「な! なに、そんなことを考えているの!? このマセガキ!」
ハニーと名乗った、キラービー族の少女に怒られてしまう。でも、男の子なんだから仕方ないよね。
「今は擬人化してるの! 主さまから、驚かさないように擬人化して会うように――そう言われたからよ」
擬人化――?
崑蟲族はそんなこともできるのか?
「私たち、キラービー族は社会性があり、知能が発達しているの。そもそも先祖は人間の近くで生活していたからね。だから、擬人化の能力を身に付けたり、人間の言葉を理解できるようになったの」
そういうモノなのか――同じ崑蟲族でも、いろいろな進化の過程を踏んでるんだなあ……
待てよ。と、いうことは――
「それじゃ、ハニーの本当の姿って?」
「もちろん、崑蟲よ」
なるほど――ちょっと、興味が湧いてきた。
「元の姿って、戻れるの?」
「そ、そりゃあ、戻れるけど――人族が見たら、恐ろしいと思うから――」
なんか遠慮している。
「ねえ、元の姿に戻って」
そうお願いすると、ハニーは呆れた声で――
「何を言っているの? だから、言ったでしょ? 私たちの姿は、人族には――」
「平気だから。ハニーはハニーだもん!」
そう伝えると、彼女の顔が赤くなった。
「そ、そこまで言うなら、なってあげるわよ。でも、後悔しないでね」
「うん! ぜったい、大丈夫!」
「それなら――」と、ハニーのカラダが徐々に変化する。なるほど、こんなふうになるのか――
そして、最終的に巨大なハチの姿に!
口や目、触覚、足にある触肢がとてもリアルだ。まあ、たしかにふつうの人間がこれを見たら怖くて卒倒しそうだが――
「カ、カ、カ、カッコイイ!!」
オレはそう叫んでいた。
「えっ? 本当にそう思う?」
「もちろん! スゴくカッコイイ!」
興奮しているオレに、ハニーは戸惑っている。
「そ、そう……ならイイけど」
「うん! 擬人化したハニーもカワイイから好きだけど、キラービーのハニーもキレイだよ!」
虹色に輝く複眼や、光沢のある外骨格。やはり、昆虫のカラダは美しい!
「あ、そう……そろそろ大樹海に入るから、じっとしててね、アンリ」
あれ? なんか、ハニーの態度が変わった気がするけど、まあイイか。




