第四話 王国軍が攻めてきた……はずが、なぜかヘンなやつらもついてきた⑰
それは、一時間くらい前のこと――
ヨハネディクト大司教がウィルハース大聖堂にある塔の最上階から王都を見下ろしていた。
「さあ、宴の開始だ! 存分に踊りなさい!」
大聖堂の鐘が鳴り響くのに合わせて、市民の何人かが急に苦しみだしたのだ。
そして、カラダが膨れ上がり、肌はどす黒く変化。頭に角のようなモノが現れた!
彼女らは突然、暴れ出し、モノを壊したり、人を襲ってケガさせたりしている。
「――それで、そのいずれもが、『黒薔薇商店』に攫われ、先日解放した女、子供たち――なのだな?」
スカイフィッシュに乗り、急いで王都に駆け付けたオレは改めてローズに確認する。
「はい、間違いありません」
魔人――人族が魔物化することを魔人という。古代人が残した歴史書の中に、『魔人化によって国が滅んだ――』という、文言が残っていたりするのだが、どのようなモノかまでは詳しくわかっていなかった。
「魔物に近いその容姿――彼女たちが『魔人化』したと考えてイイだろう――しかし……」
なぜ、誘拐した女、子供ばかりなのか……
「――他に魔人化した者はいないのか?」
「実は他にもふたり――」と、ローズは言いづらそうにしている。
「ふたり?」
「攫われた者たちを監視していた男ふたりも突然、カラダが変形して……」
「監視していた男?」
ローズの話では、彼らは囚われていた女たちに手を出そうとしていたので、捕縛して、部屋に閉じ込めていたそうだ。
「はい、手足を縛っていたので、魔人化しても大きなトラブルはなかったのですが、かなり暴れ、壁に頭や手足をぶつけたことで、大ケガをしまして……」
幸い、ローズの『魅了』は魔人化しても精神支配の効果があるようで、今は大人しく寝ているようだ。
ふたりの処罰をどうするかはあとで考えるとして――
と、いうことは……
「女、子供を閉じ込めていた部屋に、なにか仕掛けがあった可能性が高いな――」
あるいは、彼女たちに与えていた食事に何か混ぜていたか……
「やはり、これは……」とローズが言うので、オレは「ああ、間違いなく古代聖教が絡んでいる」と答えた。
ヨハネディクトが何やら怪しいことをしたり、大聖堂のカネの音を合図に魔人化が始まったことを考えれば、おのずと想像はつく。
ヨハネディクトのことは気にしていたのに、トルト村のことに気を取られ肝心な時に見落としていた――いや、ヤツはそれを狙ったのかもしれない。
「たしかに、そんなことを話していた気もするし……」
しかし、なぜ、女、子供ばかりなのか?
これは、あとでヤツの口から聞き出す必要がありそうだ。
「――とにかく、今は魔人化した彼女らを止めよう」
自分たちが責任を感じることはないかもしれないが、解放したあとの事件なので、最後まで面倒を見ようと思う。
「止めるといっても、どのように……」
ん? そういえばそうだった。
「――魔人化のことを詳しく知りたい……そうだ、アクバルは?」
ヤツは古代聖教を調査しに行ったはずだ。ならば、何か情報を得たかもしれない。しかし――
「それが……昨日から、音信が途絶えています」
「――えっ?」
アクバルとの連絡用に、ローズの配下を彼に帯同させていたらしいのだが――
「古代聖教の隠れ家と思われる屋敷に潜入している最中、彼が突然、姿を消しました」
オレは「くっ……」と声が漏れてしまう。
アクバルはS級冒険者並みの武人だ。なぜ、そのような人物がこんな組織にいたのか……は、別にして、まさか彼がやられるとは……
古代聖教をなめていたな。
「ただ、音信が途絶える前に、彼からいくつか情報を得られています。その中に、人体実験の情報がありました」
「人体実験?」
それはまた物騒な……
「なんでも、魔石を体内に埋め込んで、魔力を強化する――というモノならしいです」
魔石はゴブリンやオークなどの魔物の体内から採れる鉱石のような物質。宝石としての価値があると同時に、大量の魔力を吸収する性質を持っている。それを利用したのが魔道具であり、吸収した魔力を放出するときに様々な働きを行うのである。
吸収させる魔力の種類によっても、その機能が変化するのだが……
「それを、人のカラダに埋め込む――?」
それって、どんな効果があるのか……
そこまで考えて、オレは「はっ!」と声をあげてしまう。




