第四話 王国軍が攻めてきた……はずが、なぜかヘンなやつらもついてきた⑯
「や、やめ……ろ……」
頬や唇、瞼が青くはれ上がって、みっともない顔になっても、まだ喋れるのか……以外としぶといなあ……
気がつくとロイドの下半身が濡れている。ヤロウ、漏らしやがった。
「お、おい! やめろ! こ、これを見ろ!」
そんな声が聞こえ、手を止める。バルボアが兵士たちを指差している。見ると全員が弓を構えている。しかし、矢先はオレに向かっていない。村人のいる方向だ。
「おとなしく投降しろ。さもなければ矢を放つぞ」
おいおい、軍というのは自国民を守るモノではないのか?
――そうでもないか。前の世界でも銃口を自国民へ向ける軍隊ばかりだったな……
なんて、くだらないことを考える。
それはともかく、実際に村の人へ攻撃されても、結界で防げばイイだけなので、怖くはない。
ただ、今回はもっと効果の高い対抗方法を思いついていた。
バルボアにこれ以上、トルト村を――そして、オレにチョッカイを出さない方法を――
「投降ですか? さて、私を拘束して困るのはアナタだと思いますよ。バルボア将軍様」
オレはそう応える。ちょっと、声色を変えて――
「な、何を言っている? オレが困る?」
意味がわからないという表情のバルボア将軍――
オレは仮面に手をやる。そして、ゆっくりと外して、バルボアに見せた。
その時のヤツの顔はまったく滑稽だった。スマホでもあれば写メで全世界に送りつけたいほどに――ね。
「ま、まさか……ケーニッヒ――?」
バルボアはそうつぶやく。
オレは『幻像』のスキルで顔をケーニッヒのそれに変え、バルボアに見せていたのだ。そう、将軍をゆすっていたあのケーニッヒだ。
バルボアはまだケーニッヒが生きていると思っている。そこで、ケーニッヒになりすませば、ヤツはもうオレの言いなりになる――そう考えたのだ。
どうやら、思惑通りだった。
「オ、オマエが仮面の男だったのか……」
バルボアはのどを絞るような声で、そうつぶやく。
「さあ、どうします? 私を逮捕して、私の知っていることを洗いざらい世間に公表しますか? それとも……」
そんなふうに、相手を煽ってみた。まあ、もう答えは見えているけどな。
「将軍? いかがしました?」
バルボアの様子がおかしいので、近くにいた兵士がそう聞いてくるのだが――
「て、撤退だ……」
「――えっ?」
「撤退だ! すぐに準備をしろ!」
「い、いったいどういうことですか?」
心変わりをしたバルボアの心境がわからない――という表情を兵士たちは見せるのだが……
「うるさい! 撤退と言えば、撤退だ! さっさとやれ!」とバルボアはそれしか言わなかった。
「将軍、コレを忘れてますよ」とオレはバルボアに向けて、気を失っていたロイドを放り投げる。
「今日中に、この村から兵を引いてくださいね。そうしないと、私の気が変わるかもしれませんので……」
ケーニッヒに扮したオレがそんなふうに言うと、バルボアは「ひいっ!」と短い悲鳴をあげながら、慌てるのだった。いやあ、普段エラそうな顔をしているヤツをイジメるのは楽しいなあ。クセになっちゃうかも……
「あ、あのう……」と、その時、声をかけられる。こ、この声は――
慌てて仮面を被り、振り向く。そこにセリーネがいた。
「もしかして、アナタは……」と何か言いたそうだ。
「――オレは臭いモノにまとわりつく小虫……それ以上でも、それ以下でもない」
そう応えたあと、さっと姿を消した。空間操作でできるだけ遠くまで移動したのだ。セリーネは勘がイイ。いろいろと勘繰られても困るからな。
さて、これで一段落。あとは拘束した古代聖教の教徒から情報を聞き出して――
そんなことを考えていたとき、ローズから思念通話が送られてきた。
「――どうした? ローズ?」
『王都で、魔人が暴れる騒ぎが起こっています。それも、一体ではなく、数十体も……』
「――へっ?」
『しかも、魔人化した人物は、全員、黒薔薇商店に攫われていた女、子供たちのようです』
「――――――――へっ?」




