第一話 アマゾンで楽しい昆虫採集……のはずが、なぜか異世界に転生していた⑥
「おじいさん、動けないの?」
『ああ、そうじゃ。人間が使う時間という概念でいえば――ざっと、数千年は動いていない』
「数千年も!? それじゃ、食事はどうしているの!?」
『食事? 食べるということか? さあて、最後に食べたのはいつのことだったか……今となっては、何を食べていたかも思い出せない』
自分が何を食べていたかも覚えていないなんて――
「――ねえ、おじいさんの仲間って、この森にどのくらいいるの?」
そんなことを聞いてみる。
トルト村の大人や母ちゃんから、コンロンの森に大きくコワイ蟲がいるんだと何度も聞かされた。しかし、実のところその姿を見た者はほとんどいない。セリーネの祖父である、村長が子供の頃、大空を舞う大きな蟲を見た――そんな話をしていたくらいだ。
『そうじゃな。まだまだ、たくさんいるぞ』
――まだまだ?
『ずっと前は、この世界は崑蟲でいっぱいだった。だが、役目を終えてすこしずつ減ってきたんじゃ。今は、この森にしかいない』
「役目?」
おじいさんの話では、この世界は一度、生き物の住めない世界になったらしい。古代人という大むかしの人族が毒を世界にまき散らして、人族だけでなく、ほとんどの生き物が死に絶えたそうだ。
その後、その毒に順応した植物と崑蟲が世界に広がり、ゆっくりと毒を中和していった。
『数十万年をかけて、再び昔の生き物が生存できるようになった――それが今の世界じゃ』
んん? なんか、壮大な話になってきたぞ。だけど、同じような話をどこかで聞いたような気もするが――まあ、イイか。
『そうだな、当時から生きているのは、もう儂だけになってしまった』
つまり、おじいさんは数十万年生きてきたらしい。そりゃあ、ヘンな能力くらい身についもおかしくないだろう。猫だって、二十年生きたら猫又になるっていうし……
オレはしばらく崑蟲王から、そんな話を聞いていた――




