第四話 王国軍が攻めてきた……はずが、なぜかヘンなやつらもついてきた①
五日後、バルボア侯爵家の屋敷にオレはテイムした虫を送る。
ちょうど、ドナルド・バルボアが息子であるロイドと話しているところだった。
「ロイド! キサマはなんてことをしてくれたんだ! 聖女様を怒らせるとは! これでは国王陛下に合わせる顔がないではないか!」
バルボアはそんなふうに息子のロイドを怒鳴りつけるのだが、肝心のロイドはちっとも反省した感じはなく、不満そうに頬づえをつきながらソファにだらしなく座っている。
「だから、もう謝っただろ? うるさいなあ。そもそも、虫に刺されたくらいでピーピー言うんじゃないよ」
「こ、これ、大司教がいるのに、その態度はなんだ! 大司教、申し訳ありません。本当にバカ息子で――」
バルボアは同席している聖職服の男性に頭を下げている。
大司教――つまり、ヨハネディクトは笑みを見せながら「どうか頭を下げないでください将軍」とバルボアを宥める。
「たしかに、ミリア様も大人げないと思いますよ。そうですね、この件につきましては、これ以上、ことを荒立てないように本国へ進言するつもりです。しかし――」
ヨハネディクトはテーブルに乗せられた両手剣を見つめた。
「聖剣がよもや、こんなボロボロになってしまうとは……」
ロイドが発動した武技、『煉獄剣』の炎に耐え切れず、聖剣の刃が傷んでしまったのだ。
「大司教、やはりこれは……」
「ええ、ニセモノだったと思われます」
ヨハネディクトの見解に、バルボアも「うむう……」と唸った。
まあ……実際に、この剣は聖剣のレプリカで本物ではない。それは、リリアたちから聞いている。
「オレの煉獄に耐えられなかったんじゃないの?」とロイドは気楽だ。
「バカを言え。聖剣は勇者アーサーが繰り出す武技に耐えきったのだぞ」
「いや、だからオレの煉獄はアーサーを超えたんじゃね?」
おいおい、そんなわけないだろう。まったく、身の程知らずな勇者様だ。
「そうですね。その可能性はありますが、やはり、聖剣の出所をもう一度確認する必要がありますね――ただ……」
ヨハネディクトが言いづらそうにしているので、バルボアは「ただ? どうしたのですか?」とたずねる。
「この剣を持ちこんだ人物が行方不明でして――」
「な、なんですと! それはまことですか!?」
バルボアは身を乗り出し、ヨハネディクトに確認する。彼はゆっくりとうなずいた。
まあ……行方不明でなく、殺されたんだけどな。このヨハネディクトに――
コイツは聖職者を気取っているが、裏でその『行方不明』になった人物、つまりガイルを操り、何かを企てていたようだ。
ガイルが言っていた『王都の闇社会で起きている』ことに、コイツが絡んでいると考えて間違いないだろう。あれ以来、黒薔薇商店に接触してきていないので放置しているが、そのうち調べる必要がある。
「あの商人、ガスリー家から持ち出したと言うから信じたのに――」
「ガスリー家にあったモノであるのは確かでしょう。私は一度、ガスリー家に行って、これを見ましたから。おそらく、ガスリー家にあったころからニセモノだった可能性があります」
「なんと! そ、それならガスリー家の者に確認すれば――」
バルボアはそう言うのだが、ヨハネディクトは「それが、ガスリー家の者も行方不明になっているようです」と応える。
こっちは、今、黒薔薇商店のメイドになっている。うーん、さすがに彼女の居場所が知られるといろいろとマズいなぁ。リリアにはしばらく身を隠してもらったほうがよさそうだ。
「それでは、衛兵に探させましょう」とバルボアが言うのだが、「さて、そうするのが得策かどうか――」とヨハネディクトが意外な言い方をするので、「それはどういう意味で?」とバルボアが聞き返す。
「もし、この剣がニセモノだったと判明した場合、勇者パーティを結成した大義が失われます。それどころか、あのように盛大な勇者拝命式を行った手前、その時の聖剣がニセモノだと知られてしまったら、王国とわが国の威信にも関わることになるでしょう」
「た、たしかに……それでは吾々が笑い者にされてしまう」
なんだぁ? コイツら自分の保身に走り始めたぞ。まあ、そのほうがこっちも都合がイイのだけど――




