第三話 クズ勇者にボコボコにされた……はずが、なぜかボコボコにしていた㉑
翌朝、オレが目覚めたと聞いて、セリーネが見舞いに来てくれた。
最初は『二日くらい寝ていようか――』と思っていたのだが、寝たフリをするのもつらいと気づき、そういうことにした。
「アンリ、ごめんね。私のせいで、こんなことになって――」
「セリーネはちっとも悪くないよ。悪いのは全部、あのクズ勇者さ」
オレがそう言っても、彼女はまだ責任を感じているようだ。
「それより、食事を作ってくれてありがとう。とてもイイ匂いだ」
「ミルクの麦粥なら、食べられるかなと思って、作ってみたんだけど、食べられる?」
あれだけ大きな負傷をして、食欲がないだろうと心配してくれたようだ。
実のところ、昨日からまったく食べていない。まあ、意識が戻らない――という設定だったからな……だから、とてもオナカが空いている。もっと、オナカにたまるモノがほしいところだが、ケガ人らしく、看病食で我慢するしかない。
「うん、大丈夫。食べるよ……イタッ!」
起き上がろうとしたとき、オレは痛がる演技をしてみせる。
すると、セリーネが「ムリしないで」と、オレをもう一度寝かせた。
「私が食べさせてあげるから」
そう言って、セリーネは椅子とテーブルをベッドの横まで運んでくると、麦粥を手に取り、スプーンですくうと、何回かフーフーと覚まして、オレの口まで運んでくれる。
オレはそれを口に頬張った。
「おいしい?」
「うん、スゴくおいしいよ」
すると、セリーネはとてもうれしそうに笑った。
――えっ? 仮病でイイ思いしてんじゃねえぞ――だって?
まあ、イイじゃないか。ダメージはなくても、けっこう痛かったんだぞ。このくらいの役得は許してもらいたい。
「それで、クズ勇者たちはどうしている?」
「それが、昨日、村を出て行ったの」
黒ローブに仮面を被った人物が現れ、ロゼルをボコボコにした話をオレにしてくれた。
「そうなんだ」
「うん、こんなこと言っちゃいけないんだろうけど、なんかとても清々したわ」
普段、めったに人の悪口を言わないセリーネがそんなことを言う。よっぽど、あのクズ勇者のことが頭にきていたんだろうな。
「そうか……オレも見たかったよ」と白々しく言ってみた。
「それにしてもあの人、誰だったのかなあ――」
せめて、名前くらい教えてほしかった――そう彼女は残念がっている。
「きっと、正義の味方――だったんじゃない?」
「なにそれ、正義の味方って?」とセリーネはコロコロと笑う。
「いや、勇者が正義の味方か――それをボコボコにしたヤツだから、悪の味方?」
「ええ? それじゃ、私たちって悪なの?」
「まあ……そういうことになるね」オレが応えると、「やだぁ」とまた笑っていた。
すると、部屋の扉が開く。
「あら? セリーネさんに食べさせてもらっていたの? まるで、仲のイイ夫婦みたいね?」
そんなことを言いながら、母ちゃんが入ってきた。
「オ、オバさん、何を言っているんですか!」とセリーネの顔が真っ赤になる。
母ちゃん、グッジョブだ。
「わ、私、食器を洗いにいきますので――」
食べ終わった空の食器を持って、セリーネはスタスタと部屋を出て行った。
「それじゃ、今度は私が服を着替えさせてあげるね」とオレの下着を持って、母ちゃんが布団をめくる。
「イ、イイよ。自分で着替えるから!」
オレは慌てて、着替えを奪おうとカラダを起こした。
「あら? ひとりで食べられないほど、カラダが痛いんじゃなかったの?」
そう母ちゃんに笑われてしまう。
あちゃぁ――母ちゃんには仮病がバレていたようだ。
オレは苦笑いする。
それにしても、オレたちは悪ネ――
ホント、冗談で済めばイイんだけど……




