第三話 クズ勇者にボコボコにされた……はずが、なぜかボコボコにしていた⑯
クズ勇者、ロイドがセリーネのあとを追って、彼女の家の前に来たところで「村長はいる?」と声をかけた。セリーネがいないと応えると、「それはよかった」とクズ勇者は言う。
――えっ? という顔をセリーネは見せる。おじいちゃんに用事じゃなかったの?
すると、ロイドはセリーネの腕をいきなり掴むと、そのまま、家の中へ連れ込んだ。
「な、何をするんですか!? 離してください!」
チカラいっぱい暴れる彼女だが、男のチカラ、それも相手は勇者である。まったく、逃れられない。
「そんなに、嫌がらなくてもイイじゃないか? オレに抱かれたいオンナはいくらでもいるんだ――キミも『勇者に抱かれたことがある』って、自慢してイイんだぜ」
そんなことを言いながら、ロイドはセリーネに顔を近づける。
「イヤ! 離して!」
その時、ドンッ! と扉が開く。そこに少年が立っていた。
つまりオレだ。これはヤバいと思って、急いで駆けつけたのだ。
「アンリ!」
「あん? また、オマエか? ジャマだ。出て行け」
「オマエこそ出て行け。このグズ勇者」
オレがそう挑発すると、「はあ? なんて言った?」とこちらに向かってくる。
「おいガキ、なめたマネしてんじゃねえぞ? やっぱり、オマエ殺す」
そう脅してくるのだが、オレは睨み返して――
「知っていると思うけど、ココは王族の領地だよ」
トルト村を含めた王国北西部はウィルハース王族の領地だった。つまり、ココの民は王族――つまり、国王陛下の庇護下にある――建前くらいしか効力はないんだけどな……
「はあ? それでオレを脅しているつもりか?」
そう言って、ロイドはオレの襟を掴んできた。
まあ、そう言ってくるとは思っていた。ヤツは勇者である前に、王国三大貴族のひとつ、バルボア侯爵家の息子だ。貴族特権を使われてしまえば、村人の話なんて聞いてもらえない。だけど――
「あまり、村人をバカにしないほうがイイよ。こちらにも頼れるモノはあるんだからね」
オレがまったく動じていないので、さすがにロイドもあやしいと思ったのか、「誰だよ、それは?」と聞いてきた。
「さあて、ココで言うつもりはないね」
「なんだ。やっぱり、口から出まかせかよ」と笑うので――
「それはどうかな?」とオレもニヤリとする。
すると、オレの襟を掴んでいた手を放し、「ああ、気分が失せた」とつぶやき、出口へと向かった。
「おい、昆虫テイマーだっけか? 名前をもう一度言え」
「――アンリ・ファーブル」
「そうか……」
そう言って、ロイドは出て行った。
「セリーネ! 大丈夫か!?」
近寄ると、彼女はオレに抱きついてきた。
「ごめんなさい! 私のせいで……」
「何を言っているんだ? 何かあったら助けると言っただろ? それに悪いのは向こうだ。セリーナは気にすることはない」
「で、でも……」
「大丈夫。オレなら大丈夫だから――」と泣いている彼女を慰める。
しかし――さすがに、頭にきた。ちょっと、こらしめてやるか――




