第一話 アマゾンで楽しい昆虫採集……のはずが、なぜか異世界に転生していた⑤
死んだ――
そう思った。この落下時間――数十メートルは落ちている。到底、助かる高さではない。しかし――
「――えっ?」
突然、落下速度が減速した。何かにカラダ全体を支えられた感じだ。そのまま、草むらの上に着地する。
「ブベッ!」
顔から落ちてしまったので、情けない声が出てしまった。しかし、そんなに痛くはない。もちろん、ケガもしていない。
「なんだ? ココは?」
ぼんやりと輝いている。陽の光――ではない。いくつかの植物が発光しているのだ。
それだけでない。全ての植物が見たことのない種類ばかりである。
自分は地上からずいぶんと落下した。つまり、ココは地下深くに存在している場所――と、いうことになる。
「――地上とは隔離され、まったく別の進化と遂げた植物――ということだろうか?」
ただ、違和感がある。これだけ植物が生い茂っているというのに、昆虫がまったく見当たらない。
昆虫は植物と並んで、地上で最も繁栄している種族だ。どんな過酷な環境でも、生き残った種類が必ず存在する。
なのに、ココには昆虫がいない。
「――いや、そんなはずはない。このニオイ……まちがいなく、虫のニオイだ」
それも、微かに――なんてモノではない。この空間全体に虫のニオイが充満している。なのに、一匹も虫が見当たらないなんて――
「なにか、おかしい」
よく観察すると、見えている視界に不連続な部分がある。
偽造された画像データのような違和感――これって……
「ココに、何かがいる。それも、巨大な『崑蟲』が!」
『ハ、ハ、ハ.まさか、見破られるとは思わなかった』
そんな声が聞こえた。耳からではなく、脳へ直接響く声――
「――えっ?」
突然、視界に緑色の巨体が現れた!
堅そうな甲羅に包まれた山のような物体。見えているだけで長さ百メートル、背の高さも十メートル以上はある!
これは……
「ス、スゲェェェェッ! カッコイイィィィィッ!」
オレはそう叫んだ。そして、その巨大な生物に体当たりする勢いで抱きついた。
『人間の小僧よ。儂のカラダを目の当たりにして、恐ろしい……ではなく、カッコイイか? これは愉快じゃ』
低音のとても暖かい声だった。懐かしくもあるような――
人の言葉だ。なのに、オレはこの巨大な『崑蟲』が話しかけいるとなぜか疑わなかった。
「うん! スゴくカッコイイよ! いままで見た生物の中で、いちばんカッコイイ!」
本心だった。これほど興奮したのは、この世界に来て初めてと言ってイイ! こんなスゴい生物がいる世界にオレは来たんだ! もう、それだけでうれしくて仕方ない!
『ハ、ハ、ハ――小僧はオモシロいのう』
姿を見せてから、その巨大な生物は微動だにしてない。だが、その『声』だけで『彼』は喜んでいると理解できた。
「オレはアンリ・ファーブル! おじいさんの名前は?」
おじいさんと言ったのは、聞こえる声がずいぶんと長く生きてきたような――そんな、重みのあるモノだったからだ。
『名前? そんなモノはない。必要などなかったからな。ただ、仲間からは『主』、そう呼ばれている』
「崑蟲族の――ぬし? それじゃ、『崑蟲王』なんだぁ!」
カッコイイ! カッコ良すぎる!
確かに目の前に見える威風堂々とした巨体は、『王』と呼ばれるのに相応しいモノだ!
『崑蟲王か――ハ、ハ、ハ。そうじゃ、儂は崑蟲王じゃ』
崑蟲王かぁ――なんか、ものすごいモノに出会ってしまったゾ。
「ねえ、おじいさんがオレを助けてくれたの?」
オレはずいぶんと高いところから落下した。しかし、地面にたたき突けられる前に、急減速して、ケガなく着地した――あれって?
『ああ……そうじゃな。ときどき、生き物が上から落ちてくるんじゃ。そういう場合は、ああして、助けたりする。しかし、人族を助けたのは初めてじゃな』
そうなんだ――と思う。
「ねえ、あれって念動力だよね? おじいさん、魔法が使えるの?」
『さいこ、きね――? 小僧はむずかしい言葉を知っておるな? うむ、おそらく、それじゃろ?』
おそらくって――
『ずいぶんと長く生きてきたからな。いつの間にかそんなことができるようになっていた。こうして、人族の言葉を話せるようになったのも、いつも間にか――だった』
「そうなんだ――」
『今は、カラダがまったく動かなくなってしまったが、このチカラのおかげで不自由なく生きていられる』
――えっ?




