第三話 クズ勇者にボコボコにされた……はずが、なぜかボコボコにしていた⑧
父ちゃん、ユーリ・ファーブルはビルヌーブ団長を見捨てて逃げ出したのではない。ドナルド・バルボアが二人を見捨てて逃げ出したんだ。自分が助かりたいために――
ケーニッヒの話によれば、父ちゃんはバルボアに背中から斬られ、取り残された。目の前にはケルベロスがいる。父ちゃんの使い魔、グリフォンのアスカだけで三頭のケルベロスを相手にするのはどう考えても不利だ。
それじゃ、父ちゃんは……
「ちょっと、アンリ? 聞いてる?」
そんな声が聞こえ、振り向くとセリーネが頬を膨らませて、こちらを見ていた。
「ゴ、ゴメン。ちょっと考えごとをしていて――」
「何よ、考えごとって?」と質問されたので、「たいしたことではないよ」と誤魔化す。
「それで、何?」
「ハチミツを採取したいから、ミツバチたちを退避させてほしいのだけど?」
父ちゃんに関する衝撃的な事実を知って一日が経過した。だが、まだそのショックが抜けきらない。今は養蜂の敷地でセリーネたちとハチミツの収穫をしていたのだが、相変わらず上の空だった。
「もう、さっきからボーッとしているけど、本当に大丈夫?」
「大丈夫だって、ほら、退避させたから収穫して」
それから村人何人かで、十二個ある巣箱から黄金色に輝くハチミツを採取した。
「今年はこれが最後かな?」
秋の花もほぼ咲き終わり、本格的な冬になる。ミツバチは寒さに弱いので、冬の間、巣に籠ってしまう。当然、ハチミツは採取できないのだ。
「ミツバチさんたち、今年一年、お疲れさま!」とセリーネは巣箱に向かってお礼を言っていた。
「それじゃ、これをビンに詰めてくるね」
「うん、よろしく」
今では、ハチミツの収穫からビン詰め、出荷まで、村長さんの家の倉庫を改造してやってもらっていた。おかげで、大量のハチミツを処理できるようになり。巣箱も増やせた。
この時期は麦の播種も終わり、村の人も一段落しているところなので、いろいろと手伝ってくれる。
「でもさ、アンリ? あの商人、本当に大丈夫?」
「えっ? 何が?」
「だって、怪しくない?『黒薔薇商店』なんて、聞いたことがないよ」
今までの十倍で買い取ってくれるのはありがたいけど――そうセリーネは疑っているようだ。まあ……そうだよな。
「な、なんか、最近、王都でもちょっと有名なお店らしいよ」とオレは白々しく言ってみる。
「そうなの? ならイイけど」
「うん、大丈夫、大丈夫」と応えたが、目は泳いでしまう。
そんな時に、ローズからまた連絡が――
オレは、「ゴメン、用事を思い出した」とセリーネから離れた。
「ええ? またぁ?」
本当にゴメンね!
人気がないことを確認して、オレはローズへ応答する。すると、リリアの声が――
「バグロード様、ケーニッヒという男を見つけたんだけどよ……」となんか歯切れが悪い。
「なんだ? なんか問題でもあったか?」
「もう、死んでた」
「――はい?」




