第三話 クズ勇者にボコボコにされた……はずが、なぜかボコボコにしていた⑤
それは先ほど起きた出来事のこと。ドナルド・バルボアのもとへ、ひとりの男が訪れていた。
『おひさしぶりです。バルボア副団長……いえ将軍様』
バルボアの部屋に忍び込んでいた、スズメバチの記憶を共有すると、その男の姿が見える。細身で白髪交じりの長い髪。青白い顔色の不健康そうな人物だった。
『いまさら、何しにきた? ケーニッヒ?』
ケーニッヒ? その名前でオレは思い出した。父ちゃんが騎士団に所属していたころ、この男も騎士団の一員だった。ずいぶんと印象が変わってしまっているけど――
『そう言わないでください。今日は息子さんの勇者拝命でお祝いを言いに来たのですから』
『何を白々しい――目的はなんだ?』
ケーニッヒという男はクスッと笑う。
『聖剣エクスカリバーですか? ずいぶんと高かったのでしょう? 将軍という職業というのはさぞかし儲かるのでしょうね? いったい、どんな人たちとお付き合いされれば、そんなにカネまわりが良くなるのでしょう?』
『だから何が言いたい? カネの無心か? それならお門違いだ。さっさと帰れ』
バルボアは手をひらひらと振って、相手を促す。だが、ケーニッヒは――
『お門違いねえ……それなら、アナタが今の地位でいられると思っていることも、お門違いではないでしょうか?』
『おい、どういう意味だ! これ以上、オレを誹謗するのなら、逮捕するぞ!』
バルボアが血相を変えて怒鳴る。しかし、相手は動じない。それどころか――
『逮捕? するなら、してみてください。その時にはアナタが十年前に犯したことを話すまでです』
『なっ!』
今度は驚いた顔で、ケーニッヒを見つめた。
十面前――? それって、フーベル地方奪還のため出兵したころだよな?
そのころにバルボアが犯したこと? たしかに気になる。
『な、なんのことだ?』とバルボアはしらをきっているが、相手と目を合わせない。明らかにおかしい反応だ。
それを見たケーニッヒが、『フ、フ、フ……』と含み笑いをみせる。
『気持ち悪い笑いをするな! だから、十年前のこととはなんだ? わかった。ハッタリだな? そんなことを言って、オレを揺さぶろうとしてもムダだ。この詐欺師め!』
そうバルボアが言うのだが、ケーニッヒは相変わらず余裕を見せている。そして、『なら、言いますよ』と口角を上げる。
『十年前、アナタはフーベル地方奪還失敗と、ビルヌーブ団長の死をユーリ・ファーブルに押し付け、アナタは何食わぬ顔で騎士団長になった。だが、私は見ていたんですよ。ユーリがビルヌーブ団長を見捨てて逃げたんではなく、本当はアナタが団長たちを見捨てた。自分が逃げ出す時間を稼ぐために――ね』
―――――――えっ?
いま……なんて言った?
『こんなことが世間に知られたらタイヘンでしょうね? 真実を隠蔽したとして、将軍職は当然、失脚となるでしょう。それだけではありませんよ。仲間を見捨てた卑怯者として、アナタは一生罵られ生きていくことになるのです。それに耐えられますか?』
『ま、まさか――そんなはずはない! あの時、三人以外、誰もいなかった! オマエ、ウソをつくな!』
唾をまき散らして怒鳴るバルボアを見て、ケーニッヒはクスクスと笑っていた。
『そうですか? なら、もう少し詳しく話しましょうか?』




