第三話 クズ勇者にボコボコにされた……はずが、なぜかボコボコにしていた④
翌日――
「さて、王都のことは全部ローズたちに押し付けたことだし、今日はゆっくり村を見て回るか」
養蜂場にも数日行っていない。他にもやりたいことがたくさんあった。
実は、一年ほど前にクワコガを発見して、いま、森の奥で飼っていたりする。
えっ? そんなのどうするのか? だって?
『クワコガ』という蛾の仲間に聞き覚えはないかもしれないが、『カイコ』といえばわかるだろう。そう、シルクの原料となる繭玉を作るあの虫である。クワコガはその原種で、やはり繭玉を作る。
クワコガは個体によって、糸の色や量が違っている。そこで、白色の糸を多く吐き出す個体を選別し、交配を繰り返すことでより質の良い絹糸を多く生産できる――ということだ。
クワコガの寿命は二カ月程度。一年ほどの飼育でずいぶんと選別が進んだ。早ければ来年くらいには絹糸の生産が開始できるだろう。
この世界で絹織物を見かけたことがないので、生産できれば市場を独占できる。中世の西洋で、絹織物は金ほどの価値があったらしいから、軌道に乗れば大きな利益が出るのは間違いない。
「フ、フ、フ……ハチミツの儲けどころではないぞ」
ぷっくり、まんまるした繭玉を見て、口角がゆるんでしまう。
養蜂も順調だし、質の良い腐葉土のおかげで農作物の収穫も上々!
時間もできたし、セリーネの家に収穫したばかりの野菜でも届けてくるかな?
うーん、田舎暮らしは最高だぜ!
『バグロード様、お忙しいところ申し訳ありません』
ローズより連絡が入った。ったく、せっかくイイ気分だったのに……
『なんだ?』と、少々不機嫌そうに応答すると――
『マモよりご連絡があるそうです』
マモから?
仕方ない、話を聞くか。ローズの視野を共有すると、ピンクの髪をツインテールにした小柄なメイドが跪いている。
『小麦の価格を調べてきた。値上がっているのは間違いないみたい』
彼女はそう報告する。やはりそうか……
どういうことかというと――
数日前の渡り蝶、オオカバマダラの記憶にもうひとつ気になる情報があった。それは、王国東部がひどい干ばつになっているというモノだ。
王国東部は大陸でも有数な穀倉地帯である。そこが干ばつに見舞われているとなると、きっと、小麦の価格が上がるだろうとふんだのだ。それで、小麦の価格に変化が出てないか、マモに調べてもらっていた。彼女はガスリー家の台所を任されていたので、食料の買い出しのため、市場に行く。それで、市場の人たちと面識があったのだ。
『どうやら、王都物産が小麦の買い占めを始めているみたい。だから、市場に出回る小麦が減っていると言っていた』
王都物産が――?
有力貴族が経営している、王国最大の商人ギルドなのだが、もう動いていたか……さすが、あざとい……
『どうします? ウチも買い占めますか?』
そう質問してきたのはローズだった。
『――いや、やめよう。最大手が動いているのなら、もう価格がかなりつり上ってしまっているはずだ』
高値掴みはしたくない。
『申し訳ありません。これからはそういった情報をいち早く掴むように、ネットワークを広げたいと思います』
オレは『そうしてくれ』と彼女たちに伝えた。
まあ、ムダ足ではない。セリーネの家に行くついでに、この情報を村長に伝えることにしよう。そうすれば、小麦を買いに来る商人との交渉材料になる。買値をつり上げられれば、村が潤う。
『話はそれだけか?』
『それともうひとつ、バルボア将軍の執務室に忍び込ませていた、配下からの情報ですが――』
なんだよ。イヤな名前を聞いてしまった。
『あー、その件はあとで聞く』とローズに伝えるのだが、彼女は『しかし――』と何か言いたそうだ。
『どうした? 緊急な案件なのか?』
バルボアが災難にでも見舞われたのなら、ウレシイかぎりなのだが――
『会話の中に、ユーリ・ファーブル――お父様の名前が出てきましたので――』
――――――――えっ?




