第二話 ハチミツの儲けを取り返す……はずが、なぜか組織ごと乗っ取っていた㉒
「諸君! 心配することはない! 王都の守りはカンペキである。王国軍の威信をかけて、魔族が王都へ足を踏み入ることは断じてさせない!」
「そうだ!」
「魔族なんて怖くない!」
そんな声が聴衆から湧き起こる。バルボアはそれをいったん制したあと――
「ただ魔族が攻めてくるのをただ待っているだけではない。その前に魔族の中枢、魔王城へ攻め入り、魔王を打倒する! そのために勇者パーティを結成したのだ!」
「おおぉぉぉぉっ!」という大歓声が響いた。
つまり、たった四人で魔族領深くまで攻め入るということか……
まるで、おとぎ話だな。
「今回、新生勇者パーティを結成できたのは、それにふさわしい人材、特にガルチ聖教国からの協力があったことが大きい。だが、それだけでない。われわれにはこの剣がある! 伝説の勇者、アーサー・ガスリーが魔王を討った、聖剣、エクスカリバーだ!」
――――えっ?
テラスに運ばれた両手剣。フェルマイヤ陛下がそれを手にし、勇者となる、ロイド・バルボアに受け渡す。彼が観衆に向けてそれをかかげると、再び、大歓声となった。
いや、それって……
オレはリリアたちに顔を向けると、彼女はうなずいた。
「実は、ガイルに騙されて奪われた家財はひとつを除いて全て戻ってきたのだけど……」
そのひとつというのが、あの『聖剣』なのだそうだ。
「おいおい、それじゃ、ガイルとバルボア将軍につながりがあったということか?」
いったい、どうやってガイルは……
「あっ!」とオレはつぶやく。
「どうしたのですか?」
「あったじゃないか。あの証書だ」
貴族にカネを貸し付けた証書の中に、バルボアの名前があった。つまり、あれか?
――と、いうことは、ガスリー家を嵌めた理由は、あの聖剣を奪うためだったのか!?
「聖剣、エクスカリバーと聖教国の秘宝、神盾、アイギスがあれば、魔王軍など怖くはない!」
うおぉぉぉぉっ! という歓声の声。その興奮が手に取るようにわかる。
「それでは、勇者パーティ結成に手を貸していただいた、ガルチ聖教国を代表して、ヨハネディクト大司教に一言、いただきたいと思います」
バルボアの紹介で、聖職服の男性が立ち上がる。演説台の前で握手を交わしたあと、バルボアが席へ向かい、聖職者が観衆にカラダを向けた。
またもや、歓声が――
「へえ、大司教って人気があるんだなぁ」
オレがのんきなことをつぶやくと、リリアが「人気なんてもんじゃないよ」と興奮気味に言う。
「彼のミサがある日は、礼拝堂の中が動けなくなるほど礼拝者があつまるんだ。彼の礼拝に居合わせた者は、一年間、病にかからない――そんなふうに言われているだって」
病にかからない? 強化魔法の類だろうか?
「彼が触れただけで、脚の不自由だった老婆が歩けるようになった――なんて話も聞いたことがあります」とはメイファの話である。
「歴代の聖教皇を何人も出しているヨハネディクト家の出身で、彼もいずれ聖教皇となることは間違いなしと言われています。また、魔法に関しては全属性に適性を持ち、剣術においても、師範クラスの腕前だとか」
そう彼を称賛する。
「いや、それはスゴいな」
もはや超人――いや、転生前の世界で使われていた言葉を借りれば、チートだな。
「しかし、そんな人物がなんで王国の大司教になっているんだ?」
「それが、『女神アスタリアの教えを世に広めるため、各国に出向きたい』というのが、彼の意向らしく、その手始めにこの王国をお選びになられたとか」
「へえ……」
話を聞く限り、人格、志、実力とも非の打ちどころがない人物のようだ。
その大司教が、観衆に向かって、演説を始める。
「皆さん、今日という日をアスタリア様に感謝いたしましょう! ここにおられる皆さんは歴史が変わる瞬間の証人となられたのです。そして、祈りましょう。この大陸に真の幸福が訪れることを――」
おだやかでやさしい――なのに、離れていてもはっきりと聞き取れる。そんな、声だった。
近くにいた老婆が涙を流しながら手を合わせていた。
しかし、この声――聞き覚えがあるぞ――
「昨日、オレを襲ったローブの集団にいた人物だ」
ずいぶんと声質を変えているようだが、オレにはわかった。昆虫は特定の波長を聞き取ることに長けているという。鳥など敵の接近を知るため、羽ばたき音など、ある波長に特化して聞き取るように進化したらしい。
どんなに声色を変えても、一部の波長だけを抽出することで個人が特定できる――オレはこの辺りの昆虫の聴力を共有することで、それがわかったのだ――と、いうことは……
おいおい――どうやら、王都の闇社会にはいろいろと良からぬモノが蠢いているみたいだぞ……




