第二話 ハチミツの儲けを取り返す……はずが、なぜか組織ごと乗っ取っていた⑭
ああぁぁぁぁっ!
やっちまったぁ!
つい、気分であんなことを言ってしまったぁ!
『崑蟲王』って、前世のオレが中学生のとき、空想していたスーパーヒーローの名前じゃないかぁ!
設定は、『地球上の支配者だと勘違いし、環境破壊を続ける人間たちの指導者たちに鉄槌を加わせるべく、生物の覇者である昆虫族の王、『崑蟲王』が人類へ宣戦布告し……』って、そんなことはどうでもイイ!
いったい、どうするんだよ? アイツらから、これからも崑蟲王なんて、はずかしい名前で呼ばれ続けるつもりか?
それはともかく、黒薔薇商店を潰したあと、アイツらをどうする?
とにかく、それらはみんな棚上げして、まずはガイルというヤツだ。
「それで、アンリはどうしたらイイと思う?」
「そうだな。とにかく情報収集しないと……」
「えっ? 今から? 母さん、これから晩御飯作るのよ?」
「――あれ?」
そうだった。あれからオレは村に戻り、夕食用の野菜を収穫して、ちょうど家に帰ってきたところだったのである。
「ご、ごめん、母ちゃん。ちょっと、考えごとしていた」
「もう、このお肉をどう調理する? そう、聞いていたのに……」
セリーネの家から牛肉をいただいたらしい。
「久しぶりに母ちゃんのビーフシチューが食べたいな」
「あら、それならさっそく作り始めないと、遅くなっちゃうわね」と母ちゃんは張りきっている。
「そういえば、峠の賊に奪われたモノが戻って来たらしいわよ」
お肉をもらったときに、セリーネから聞いたようだ。
オレは、「へえ、そうなんだ」としらばくれたのだが、もちろん知っている。
ガスリーたちには、日用物資は村の人が困るから返すようにたのんだのだ。それで、村はずれの目立つ場所に、物資を置いていかせた。
『峠ではもう仕事をしない。もう安全だから、いままでどおり峠を利用せよ』
そういう文面の貼り紙を一緒に添えて――である。
本当にもう賊が現れないのか?
さすがに村長も半信半疑だったようだが、乗合馬車を除いて明日から峠越えを再開するらしい。
「これで安心ね」と言う母ちゃんに、「そうだね」と素っ気ない返事をする。
「それじゃ、玉ねぎを取ってくるよ」と、オレは家を出た。
そのタイミングで、ハニーがパッと現れオレに抱き着く。
「アンリさまぁ! 言われたとおり、お母さまをしっかり見守ってましたよ!」
特に不審な人物は見当たらなかったらしい。
「ありがとう。ところでそろそろ離れてもらえるかな?」
これでは歩くことも困難だ。
「アンリさまの言いつけを守ったのだから、このくらいの《《ごほうび》》をくださーい!」と、今度は頬をオレの頬にスリスリしてくる。てか、《《ごほうび》》ってなんだよ。
するとオレたちの後方から気配を感じる。その人物はいきなりハニーの頭を叩いた!
「ブベッ!」とヘンな声をあげるハニー、振り向くとスタイル抜群の美女がいた、真っ赤なチャイナドレスを着こんでいる。
「こらぁっ! ローズ! アンタ、死にたいようね?」
グルルと唸り声をあげながら、相手を威嚇するハニーをもう一度殴る。
「アンタこそ、アンリさまから離れなさい!」と美女が怒鳴った。そう、ベスパ族のローズである。この二人が一緒になると、いつもやかましいなあ……
「はあ? アンタに指図される覚えはないわ。アンリさまがよろこんでくださるから、こうしてるのよ」とハニー。
いや、別によろこんではいないが……まあ、イヤでもない。
「それより、なんでローズがいるのよ!」
「あら、私はアンリに呼ばれてきたのよ。ねえ? アンリさま?」
そう、オレはローズを呼び出していたのだ。
「ああ、頼みたいことはすでに話したとおりだ。三人をサポートするように」
つまり、彼女をリリアたちに同行させることにした。彼女の擬人化は完璧だから誰にもバレることはないだろう。戦闘力も高いし、頭もイイ。滞りなくやってくれるはずだ。
「人間ごときを頼らずとも、私ひとりで充分ですのに」とローズは不満そうだったが――
「まあ、そう言わずに使ってやれ。彼女たちが奪われた屋敷や家財を取り戻すことも、今回のミッションなのだからな」
実は成り行きでそうなった……とは言えない。
「それで、黒薔薇商店が行っている密売を暴いて、そのカネを巻き上げるとして、組織のメンバーはどうすればイイ?」
ローズがそう訊いてくる。ん? そういえば、そこまで考えてなかった。
「アンリさまを誘拐しようとかいうヤツらでしょ? 皆殺しにすればイイじゃん」とハニーが軽い口調で言う。
オイオイ、いくらなんでも皆殺しって……
「何を言っているの? アンリさまがそんなことを望んでいるわけ、ないでしょ?」
ローズはそう言い返す。さすがにそうだよねぇ。
「全員、苦痛という苦痛を味合わせてから殺す。そのくらいしないと気が済まないわ。そうよね? アンリさま?」
そうよね――って、言われても……コイツら人間に対して容赦ないなあ。
だが、ローズはオレが褒めてくれるだろうと思っているのか、ワクワクした顔でオレを見つめる。
こりゃあ、ダメ出しするわけにもいかないぞ。
「そ、そうだな。イイ答えだが、はたして、皆殺しは必要だろうか?」
とやんわり否定することにした。
すると、ローズは「はっ!」とした顔を見せて、「そういうことだったのね!」と声にする。
――えっ? そういうことって?
「そこまで考えていたなんて――わかりましたわ、アンリさま」
だから、何がわかったの?
「ねえ、アンリさまぁ? 何をするつもりなんですかぁ?」とハニーがたずねてくるので、オレは焦る。
いや、オレも知らないんだけどぉ?
「そんなこともわからないの? だからアンタはバカだって言うのよ」とローズ。
ごめんなさい。オレもバカです……
「ま、まあ……そういうことだ。それと、彼らの前ではオレのことを『バグロード』と呼ぶようにしてくれ」
「わかりました、崑蟲王様」とローズは片膝をつきながらノリノリで応える。
その時、「アンリ?」と呼ぶ母ちゃんの声が聞こえた。ハニーとローズはパッと姿を消す。
「なに? 母ちゃん?」
「なにって、玉ねぎを取りに行ったんじゃないの? いつまでも帰ってこないから、心配したじゃない」
「……………………あ」




