第二話 ハチミツの儲けを取り返す……はずが、なぜか組織ごと乗っ取っていた⑪
「むっ、何者!?」
メイド服を着た白髪の女が、洞穴の入口に立つ仮面の男に向かって、そう言い放つ。
うーん、そうだな……
「臭いモノにまとわりつく小虫――とでも言っておこうか」
おっ、即興で考えたわりに、なんか洒落たフレーズじゃないか。次からも使うことにしよう。
そう、仮面の男とはオレのことだ。
甲蟲に、ちょうど人面のような模様がある種類があったので、オレはそれを顔にしがみつかせて、仮面の代わりにしたのだ。
黒ローブのフードを深くかぶり、怪しい仮面を被った謎の男――厨二病なら、一度はやってみたい役柄だ。
――いや、オレは決して厨二病ではないぞ。
たまたまだ。たまたま……
「オマエたちだな。峠のキャラバンを襲った賊というのは?」
落ち着いた声で、そう言ってみる。
「はっ! だったら何だっていうんだ? そんな妙な格好をしやがって! 大道芸人でもやっているのか?」
今度は金髪の少女がそう声にする。大道芸人とは失敬な――残念ながら、彼女らにはこの崇高な姿を理解することができないらしい。まあ、仕方ない。こちらで、ラノベは販売していないし、アニメ放送もない……
するとピンクの髪をツインテールにした小柄な少女が立ち上がり、こちらに向かってくる。手には自分の背丈ほどもある大きな金槌を持っている。いやあ、シュールすぎて、逆に絵になる。
「マモ、どきな。オレが相手してやる」
金髪の少女が両手剣を手にしながら立ち上がると、ツインテールの少女を押しのけ、オレのほうへ歩いてきた。
「どうせ、奪われたモノを取り返しに来たんだろ? しかし、なめられたモノだ。たったひとりだなんてよ」
そういきがりながら、剣を構えた。
「オマエか? 護衛の冒険者、三人を倒したのは?」
「ああ、そうだよ。弱っちいヤツを護衛させるから悪いんだ」
やはり、そうか――
「つまり、いきなり真打を登場――というわけだな?」
オレがそう確認すると――
「フフン。勘違いしているようだが、うしろのふたりは、オレより強いぜ」
ほう、冒険者三人に圧勝するヤツより、強い――ね。
オレは、小声で「カンテイ」とつぶやく。
名 前: リリア・ガスリー
年 齢: 十八歳
種 族: 人間
ジョブ: 剣士
レベル: 7
H P: 125/125
M P: 12/12
攻撃力: 24 防御力: 20
素早さ: 17 精神力: 25
スキル: 剣技(乱斬)
魔 法: 強化魔法(反応速度アップ Lv2)
ほほう。レベル七か。
サムやボブはレベル三だった。中級冒険者でレベル五から六のはずだから、なるほど、商人の護衛レベルじゃ歯が立たないはずだ。
残りのふたりはそれ以上だと言うけど、本当なのかな? まあ、そのほうが楽しめそうだ。
「おい、剣を抜け」と少女は男勝りな口調が言うので、「剣は持っていない」と応える。
「なんだって? オマエ、格闘家か? それにしては、カラダが細いな。魔導士というあたりか?」
「悪いが、どちらでもない」
正解は、昆虫テイマーでした……まあ、答える必要もないけど。
「ふん、まあイイ。いずれにせよ、手加減はしないぞ」
「ああ、遠慮なく来い」
「それじゃ――」
金髪の少女はメイド服のスカートをなびかせて、いきなり飛び込んできた。速い。さすがレベル七。オレが知っている人間の中ではダントツだ。
だが、仮面にしている甲蟲の複眼に加え、虫たちも数匹、この洞穴に忍び込ませた。そいつらに目の代わりをさせている。この程度のスピードなら余裕で捉えられた。そのうえ、キラービー族のローヤルゼリーとベスパ族のヴァームを毎日接種していることで、筋力も持久力も超人なみに向上している。
オレは、向かってきた両手剣をサッと躱した。
「ちっ、思ったよりやるじゃないか。なら、これはどうだ!」
同じように、少女は両手剣を振り上げ突っ込んできた。しかし、剣筋が変化している! 凡人なら、上に意識が向いてしまうモノだが、オレには見えていた。
振り上げた剣を相手はそのまま一回転させ、下方から斬りつけてきたのだ!
ずいぶんとおもしろい剣技を使うなあ。勇者の血筋というのもダテではない。しかし、わかっていれば、対処は簡単だ。
オレはあえて、刃先がオレのカラダに触れる直前で回避する。ありえないタイミングで躱され、相手はバランスを崩した。その背中をオレは回し蹴りする。
「グファッ!」
なさけない悲鳴とともに、前へ倒れ込む。一応、相手が女の子なので、手加減したよ。
「――!? よくも、お嬢様を!」
ツインテールのメイドが大金槌を手に取り、突っ込んできた。小柄でも振り回すとかなりのリーチとなる。慌てて躱した。
やはり、コイツも『鑑定』でステータスを確認する。
名 前: マモ
年 齢: 二十四歳
種 族: ドワーフ
ジョブ: 鍛冶士
レベル: 8
H P: 179/179
M P: 20/20
攻撃力: 38 防御力: 27
素早さ: 21 精神力: 15
スキル: 鍛金、破砕、調理
魔 法: 火属性魔法(Lv2)
鍛冶士? レベル八か。攻撃力が高いな。巨大なハンマーを高速で振り回すので、風圧までもが衝撃波となって襲ってくる。
なるほど、コイツはパワーだけでなく、スピードもある。しかし――
オレはヒョイと跳び上がり、通過する金槌の上を越えると、そのまま彼女の頬を蹴る。
「ブへッ!」
ヘンな悲鳴をあげて、少女の顔が歪んだ。
んー、ちょっと、かわいそうな気分になる。だけど、山賊相手に《《なさけ》》は無用だよな。こっちも迷惑かかっているわけだし――
そんなことを考えていると、まだ空中にいたオレの足首を彼女は掴んだ。おいおい、スゲエなコイツ。
イイぞ! 対人での闘いはこんなにワクワクするモノなんだな。そうとなれば、もうひとり、白髪の男性の戦闘力も気になるところだ。
さて、そのまえに――
ツインテールの女の子は掴んだオレの脚を振り回し、地面へたたきつけようとした。
オレはカラダをひねり、両手を地面に着地すると、今度は両足を彼女の腕にからめる。そのまま捻り続けると、女の子のカラダが宙に浮いた!
「――あれ?」
ツインテールの女の子は『何が起きている?』という表情のまま、真っ逆さまになって地面に落下。
「ぶべっ!」という情けない声をあげて、そのまま白目を剥いた。




